婚約破棄された候爵令嬢は曲者聖職者に気に入られ公私を共にする深い仲になる

白黒 キリン

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第10話

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 私はグレスオリオ様と出会った事で、それまでとは比べものにならないくらい日常に変化が起きた。

 グレスオリオ様も先代様と出会って変わったみたい。

 ただ、先代様について話すグレスオリオ様のなんとも言えない複雑な顔を見ていたら、もしかしたら引きずり込まれたという方が正しい気がしてくる。

「それで、先代様と出会った後はどうなったのですか?」
「それはもう上へ下への大騒動になったよ」
「そこまで事が……」
「もともと先代はサベリュヤ教の中でも独立した存在で、たった一人で主流派と渡り合ってたんだ。…………いや、渡り合ってという表現は正しくないな。正確には一人で主流派にケンカを売って政治的な闘争を楽しんでた人だから、そんな人が弟子を作ったとなれば騒ぎになるのもしょうがない」
「よく、それだけ……悪目立ちという言い方で良いんでしょうか? 騒動の中心になり続ける方が排除されなかったのですね……」
「ああ、それは騒動を起こすのが先代の役割みたいなものだったからだよ」

 …………どうしよう。

 グレスオリオ様の言ってる事が理解できない。

 騒動を起こすのが役割?

 どういう事?

「ごめんごめん。混乱させてしまったね。わかりやすく説明すると、先代の役目はサベリュヤ教という巨大な組織内を引っ掻き回して停滞させない事だったんだ」
「停滞……ですか」
「そう。古今東西において組織というのは巨大であればあるほど、歴史があればあるほど停滞して腐敗するものなんだよ。だから、先代がいろんなところにちょっかいをかけ騒ぎを起こして水面下で起こっていた暗闘を白日のもとに暴いてた」
「…………それだけ崇高な行動をやり遂げていたなんて、すごいお人なのですね」
「本人は退屈が嫌いで人の嫌がる顔が大好きだったよ。相手が一番隠したい事を全員に周知させるとか、長い時間をかけて決まりかけていた流れをぶち壊してご破産にするとかね……」

 グレスオリオ様からどんよりとした雰囲気を感じるし、この瞬間だけグレスオリオ様が何歳も歳をとったように見えた。

 本当に大変だったのですね。

「えっと……、グレスオリオ様は先代様のお弟子になられて大丈夫だったのですか?」
「うん? ああ、そこはむしろ逆だったね」
「逆……ですか?」
「そう、私の家柄が先代の弟子になる勧誘を断れない事をみんなわかっていたから、先代が騒動を起こすたびに各所へ謝罪しに回っていたら、むしろ災害に巻き込まれた気の毒な奴という認識を持たれて、いろんなところで可愛がられていたよ」
「それは、なんともすごいお話ですね」
「先代が原因で巻き込まれた事は何度もあったけれど、逆に先代に巻き込まれたおかげ手にできたものもあるから心の底から嫌いになれないんだよ」

 先代様の事を話すグレスオリオ様の表情は、どんどん変わっていく。

 私の知らないグレスオリオ様を知っている先代様に少しだけ嫉妬してしまう。

 …………あら?

「そういえば、先代様は今どうされているのですか?」
「さあ?」
「え?」
「あの人は一ヶ所にジッとできない性格だったから、私に示しの剣を渡した後、すぐにどこかに行ってしまったんだ。放っておくと何をしでかすかわからないから絶対に知りたいだろうけど、サベリュヤ教の上層部でも、あの人の行方を把握できてる人はいないと思う」

 グレスオリオ様から先代様の話を聞くほど、自由人という言葉を思い浮かべてしまった。

「…………怖いもの見たさで、少し先代様とお話ししてみたいですね」
「あ、だめだよ」
「そうでした。さすがに私が話せるわけがありませんでしたね」
「違う違う。そういう意味じゃない」
「えっと……?」
「あの人はね、自分が噂されてるところにどこからともなく現れて、その場を騒がせかき乱す。あの人の後始末で確実に疲れ果てるから滅多な事は言わない方が良い。…………あー、でも、私が深く関わろうとしているリリス嬢の事は、どこからか聞きつけてやってくる可能性の方が高いか」

 私へ注意を促すグレスオリオ様の顔は、本当に真剣そのものだった。

 …………どうしようかしら。

 グレスオリオ様にここまでの精神的疲労を与える先代様に興味が出てきたから、怖いもの見たさで会ってみたいと言うのはまずいわよね。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
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