婚約破棄された候爵令嬢は曲者聖職者に気に入られ公私を共にする深い仲になる

白黒 キリン

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第12話

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 ゲオルアウス様の後を追って私が連れ込まれた廃屋敷を出ると、そこは……私の全く知らないところだった。

 見える景色を念入りに観察してもピンとくるものが、いっさいない。

「その様子じゃと、ここがどこなのかわかっておらん様じゃの」
「はい……、正直に言って私は王都、学園、領都に、それぞれの周辺くらいしかわからないです」
「まあ、高位貴族の女子ともなれば、おいそれと旅はできんから、それが自然じゃな。ここは王都から山を二つほど越えたところにある村はずれじゃよ」
「そんなに離れた場所なんですね……」

 私が今いる場所の説明をゲオルアウス様にしてもらっていると、私の中で一つの疑問が生まれた。

「…………あの、ゲオルアウス様」
「何じゃ?」
「私をさらったもの達は、どのような方法で移動していたのですか?」
「うん? あそこに繋がれておる馬じゃが?」
「ゲオルアウス様の馬は……?」
「そんなもん、おらん。わしは基本的に徒歩じゃよ」
「それでは、ゲオルアウス様は馬に乗って移動した集団に自力で追いついてきたのですか……?」
「はっはっはっ、それほど馬が速く走れないひらけていない地形だったのが幸運じゃったな。さすがに街道や平野を逃走されたら、わしでも距離を保ちつつ追いかけるだけしかできんかったよ」

 馬を追いかけて離されないと断言できるだけでも、すごいわね……。

 むしろ人間離れしていると言っても良いかもしれない。

「ふむ、それでは帰るとするかのう。……そうじゃ、お嬢さんは馬には乗れるのかな?」
「そこまで上手くはありません。慣れた馬で遠乗りができるくらいです」
「…………まあ、始めの内は、わしが馬を引けば良いし、最悪、わしがお嬢さんを抱えて走れば良いだけじゃ」

 ゲオルアウス様の言う最悪が何なのか少し不安になったけれど、ゲオルアウス様は私を馬に乗せ、その馬を引いて歩き……出さなかった。

「ゲオルアウス様……?」
「すっかり忘れておった。お嬢さん、身体の具合はどうじゃ? どこか違和感を感じる部分はないかの?」
「私の身体ですか?」
「そうじゃ。わしは生まれてからこれまで、ケガにも病気にもなった事がなくてのう。しかも、一人で好き勝手に生きてきたせいか、周りのものの体調不良に気づけんかった。よくバカ弟子に一人で暴走せずに周りに目を向けろと説教をされたものじゃ」
「グレスオリオ様がゲオルアウス様をですか……?」
「後にも先にも、わしに説教できたのはあやつだけじゃったよ。それでどうじゃ? 身体に違和感はあるのか?」

 私は馬から降ろしてもらい身体の調子を確かめていくと……。

「ウウン、ケホケホ……」
「ど、どうしたんじゃ⁉︎」
「すみません……、少し喉を……」
「ああ、あの廃屋敷の埃を吸い込んだせいじゃな。近くに水の流れる音がするから、まずはそこで一休みするとしよう」
「え? あ、わかりました」

 水の流れる音?

 そんな音、どこからも聞こえないのだけど……。

◆◆◆◆◆

 ゲオルアウス様に引かれた馬に乗る事しばらくして、私達はきれいな小川が流れる場所に出た。

「うむうむ、このきれいさなら問題なく飲めそうじゃのう」
「本当に川があったのですね……」
「なんじゃ、わしの言葉を信じておらんかったのか?」
「も、申し訳ありません……。その、私にはまったく聞こえなかったので……」
「まあ、あれだけ離れた場所から、この小川のせせらぎの音を聞き取れるのはわしくらいのもんじゃからな。どれ、一休みするとしよう」
「は、はい」

 私を馬から降ろしたゲオルアウス様は、すぐそばの木に馬をつないだ後に川原の石を使い簡易のかまどを組み枯れ葉や枝を集め、背嚢から出した小鍋に水をすくうと簡易のかまどの上に乗せて火打石で火を着ける。

 そして沸いたお湯に、背嚢から別の小袋を取り出し中身を一摘み入れた。

「……良い匂いですね。お茶ですか?」
「旅をしておる中で偶然手に入れたんじゃが、限られた地方のみでしか作られておらんらしい。ほれ、熱いから気をつけて飲むんじゃぞ」
「ありがとうございます」

 私はゲオルアウス様から別の器にそそがれたお茶をもらい冷ましながら一口飲むと、口の中にさわやかな味が広がり喉がスーッとする。

「変わった味ですね」
「分けてもらった時の説明によると薬用茶じゃからのう。現地のものも風邪などで喉を痛めた時に飲むらしい」
「なるほど」

 ゲオルアウス様が私に最大限気を配ってくれている事に安心したのか、私のお腹からクゥーッと音が鳴った。

 …………何も今鳴らなくても良いのに。

「すみません……」
「構わん構わん。空腹を感じるのは調子が戻ってきた証拠じゃ。どれ、あり合わせですまんが何か作ろうかのう」

 私が顔とお腹をおさえて恥ずかしさで小さくなっていると、ゲオルアウス様は再びお湯を沸かして中にちぎった干し肉や乾燥させた根菜のようなものを入れていく。

「ゲオルアウス様はグレスオリオ様に示しの剣をお譲りになってから、ずっとこのような旅をされていたのですか?」
「そうじゃよ。なんせ、わしは同じ場所にいるのが好きじゃないのでな。気の向くままに各地を巡っておった」
「…………私には想像できません」
「はっはっは、自分のいる環境とかけ離れたものを想像せよという方が無理な話じゃ。それに今のわしは全ての責任を放り出した単なる根無し草。ろくなもんじゃないわい」
「それは……‼︎」
「客観的な事実という奴じゃ」

 ゲオルアウス様はニカッと笑う。

 …………ここまでとは言わないけれど、もっと自分の意思を伝えてやりたい事をやれば良かったわね。

 あ、でも、その場合、私はグレスオリオ様と出会えたのかしら?

 やりたい事をやってるはずの自分とグレスオリオ様に出会えた今の自分…………、やりたい事はこれからやれば良いし今の方が大切だわ。

 これからは少しだけ羽を伸ばしてみるのも悪くないわね。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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