小さな親切

犬童 幕

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小さな親切

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女「・・・」

男「大丈夫ですか?」

女「くっ、苦しい」

男「救急車呼びましょうか?」

女「くっ、薬」

男「薬ですか。どこです?」

女「テッ、テーブル」

男「テーブルの上ですね。あった。すぐにお水もお持ちします」

女「ふう」

男「どうですか?」

女「お陰で楽になりました」

男「それは良かった。雨が降り出したんで洗濯物も取り込んでおきました」

女「どこのどなたか存じませんがご親切にありがとうございました」

男「人として当然の事をしただけです」

女「それにしても私が倒れてるってどうして分かったんですか?」

男「たまたま通りかかったんですよ。そのサッシの向こうを。カーテンが開いててあなたが倒れてるのが見えたんです」

女「通りかかったって、ベランダを? しかもここは五階ですよ。どこに行こうとしてたんですか?」

男「隣のベランダの下着・・・じゃなくて隣のベランダに用事がありまして」

女「ふーん、隣のベランダに用事ねえ。それからもう一つ聞いていい?」

男「大体予想はつきますが、どうぞ」

女「何で裸なの?」

男「これには事情がありまして、話せば長くなるので前だけ隠させてもらってます」

女「前だけ隠してるって、それ私の下着じゃない! 私の下着で前を隠すのはやめて!」

男「前を隠さない方が良かったですか。それじゃ」

女「あなた変態でしょ?」

男「分かります?」

女「そりゃ分かるわ! でも助けてもらったから警察は呼ばないわ。だからすぐに出てってちょうだい」

男「わかりました。出て行きます。お体を大切になさって下さい」

女「待って! 私の下着」

男「これは綺麗に洗ってお返しします。では」

女「って、履くなっ!」


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