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一匹狼の誕生
一匹狼と???
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遥か昔……数千も数万年も昔に、一柱の神はつぶやいた。
『――つまらない』と。
まるで、今まで熱中して遊んでいた玩具にふと興味が無くなったかのように。
自分の思い通りに行かずについ心中へささやかな怒りの火を灯したかのように。
創造主たる神々は心から世界を愛し、世界をただ静かに見守っていた。
一柱が、世界そのものを創り出した。
一柱が、命を育む大地を創り出した。
一柱が、生物を、生命を創り出した。
これ以外にも多くの神が事象を創り出したが――
――その中のとある一柱が生命へ様々な「意思」を与えた。
神々は最初こそ手を下し、生命を神の手により導いた。如何に脆弱な生き物であれ、知性を持ち合わせていないような矮小な生物であれ、それらは一柱によって与えられた固有の「意思」を遂行するように神の恩恵をうけることが出来た。
その中でも特に神々が気にかけたのが、何を隠そう人間である。
人間は他の生物とは違い、めまぐるしい発展を世界にもたらしていたためだ。次々と畏怖の対象であるはずの"未知"を解き明かしていく「知への欲求」というもの自体が、神にとって興味を刺激する起爆剤であった。
そもそも、神々が人間に手を出したことと言えば疫病等による種の存続の危機を取り除いたり、間違った方向に突き進みかけた際に「神の名」のもと信託を下した程度程度のものだ。
その度に人々は神を崇め、讃え、賛美を唱えた。そして神の名の下により多くの未知を解き明かし、国を興し、信託を受けたものは民を導くようになっていく。導かれた民たちはまた神を崇め、次世代の未知の探求者として名を馳せていった。
忘れてはいけないことだが「未知」といえどそれは人間から見た視点であって、神から見ればそれは「当たり前」のものである。それを間違いながらも、壁にぶつかりながらも必死になって解明している姿は、それはそれは微笑ましいものだった。
……しかし、ヒトというものは時と共に変容していく。
神の干渉が少なくなると、人間は世代を経るごとに神を崇めることも賞賛することも少なくなってゆく。その上、遂に「魔法」という神の術すらも究明してしまったためか、人間の中に停滞をもたらしてしまった。
それ以上に愚かなことは、魔法を手にした傲慢によるものか神への信仰すら薄れてしまったことだ。それによって見切りをつけたのか、あれほど人間を愛おしく思っていた神は一柱、また一柱とその御影を消していく。
いつも同じことばかり繰り返す人間。だから、神は「つまらない」と思ってしまった。
そして数人しか居なくなった神をおいて己も消え去ろうとした時――
――なんと、自分たちとは違う神々が創造した異世界の存在に気付いたのである。
異世界の神々と交流し、ついには世界を渡って別世界の人間を引き入れることに成功した。死した人間に限り、それ相応の力を与えて……という条件付きではあるが。
神は大層喜んだものだ。なにせ、向こうの文化を流入し新たな世界に生まれ変わるほどの影響を及ぼしたから。異世界という風が吹き荒れ、元から世に生きる人々が生まれ変わってゆくような気持ちさえしたから。
異世界の人間は新たな国を興し、医療技術を発展させ、新たな食を開拓し、バラバラになっていた国同士を取り纏め争いを止めることもあった。
――???――
そんな中、一人の異世界人がこっちに迷い込んできたんだ。
その人間はどうしても納得がいかなかったのだろう。あらゆる古書から『僕』の事を調べ上げ、魔法や純粋な"チカラ"をもって、あろうことか僕に挑んできた!
何たる不敬か! 創造主たる僕に立ち向かってくるその蛮勇――素晴らしい!
元から居る、僕の存在すら知らない人間とは違う。僕の存在を完全に"信じて"立ち向かってくる姿に感動すら覚えたよ。だから僕はその『意志』に興味を抱いたんだ。
とっくの昔に消えてしまったと思っていた「面白さ」がそこに生まれてしまった。間違いだって言うことはわかってる。それでもやめられない、心がそれを渇望してやまないんだ。まだまだ足りない! 神とは傲慢な存在なんだよ!!
神にとって"死"とは、自分の存在を知られずに忘却の彼方へ捨てられてしまうことだと僕は思う。だから、僕に立ち向かう人なら……絶対に僕の存在を忘れることはない。もし自分が負けたときは……きっと満たされぬ心が初めて満足する。
だから、異世界の神にバレないようにこっそりと、僕に対して「憎悪」のような感情を抱いてくれる心の強い人間を連れてくる。残念なことに今まで僕にたどり着いたのは極少数だ。今度こそ……今度こそ僕を殺して見せてよ!
――さぁ、理不尽が嫌いなんだろう? だったら早く僕を殺しにおいで。
『――つまらない』と。
まるで、今まで熱中して遊んでいた玩具にふと興味が無くなったかのように。
自分の思い通りに行かずについ心中へささやかな怒りの火を灯したかのように。
創造主たる神々は心から世界を愛し、世界をただ静かに見守っていた。
一柱が、世界そのものを創り出した。
一柱が、命を育む大地を創り出した。
一柱が、生物を、生命を創り出した。
これ以外にも多くの神が事象を創り出したが――
――その中のとある一柱が生命へ様々な「意思」を与えた。
神々は最初こそ手を下し、生命を神の手により導いた。如何に脆弱な生き物であれ、知性を持ち合わせていないような矮小な生物であれ、それらは一柱によって与えられた固有の「意思」を遂行するように神の恩恵をうけることが出来た。
その中でも特に神々が気にかけたのが、何を隠そう人間である。
人間は他の生物とは違い、めまぐるしい発展を世界にもたらしていたためだ。次々と畏怖の対象であるはずの"未知"を解き明かしていく「知への欲求」というもの自体が、神にとって興味を刺激する起爆剤であった。
そもそも、神々が人間に手を出したことと言えば疫病等による種の存続の危機を取り除いたり、間違った方向に突き進みかけた際に「神の名」のもと信託を下した程度程度のものだ。
その度に人々は神を崇め、讃え、賛美を唱えた。そして神の名の下により多くの未知を解き明かし、国を興し、信託を受けたものは民を導くようになっていく。導かれた民たちはまた神を崇め、次世代の未知の探求者として名を馳せていった。
忘れてはいけないことだが「未知」といえどそれは人間から見た視点であって、神から見ればそれは「当たり前」のものである。それを間違いながらも、壁にぶつかりながらも必死になって解明している姿は、それはそれは微笑ましいものだった。
……しかし、ヒトというものは時と共に変容していく。
神の干渉が少なくなると、人間は世代を経るごとに神を崇めることも賞賛することも少なくなってゆく。その上、遂に「魔法」という神の術すらも究明してしまったためか、人間の中に停滞をもたらしてしまった。
それ以上に愚かなことは、魔法を手にした傲慢によるものか神への信仰すら薄れてしまったことだ。それによって見切りをつけたのか、あれほど人間を愛おしく思っていた神は一柱、また一柱とその御影を消していく。
いつも同じことばかり繰り返す人間。だから、神は「つまらない」と思ってしまった。
そして数人しか居なくなった神をおいて己も消え去ろうとした時――
――なんと、自分たちとは違う神々が創造した異世界の存在に気付いたのである。
異世界の神々と交流し、ついには世界を渡って別世界の人間を引き入れることに成功した。死した人間に限り、それ相応の力を与えて……という条件付きではあるが。
神は大層喜んだものだ。なにせ、向こうの文化を流入し新たな世界に生まれ変わるほどの影響を及ぼしたから。異世界という風が吹き荒れ、元から世に生きる人々が生まれ変わってゆくような気持ちさえしたから。
異世界の人間は新たな国を興し、医療技術を発展させ、新たな食を開拓し、バラバラになっていた国同士を取り纏め争いを止めることもあった。
――???――
そんな中、一人の異世界人がこっちに迷い込んできたんだ。
その人間はどうしても納得がいかなかったのだろう。あらゆる古書から『僕』の事を調べ上げ、魔法や純粋な"チカラ"をもって、あろうことか僕に挑んできた!
何たる不敬か! 創造主たる僕に立ち向かってくるその蛮勇――素晴らしい!
元から居る、僕の存在すら知らない人間とは違う。僕の存在を完全に"信じて"立ち向かってくる姿に感動すら覚えたよ。だから僕はその『意志』に興味を抱いたんだ。
とっくの昔に消えてしまったと思っていた「面白さ」がそこに生まれてしまった。間違いだって言うことはわかってる。それでもやめられない、心がそれを渇望してやまないんだ。まだまだ足りない! 神とは傲慢な存在なんだよ!!
神にとって"死"とは、自分の存在を知られずに忘却の彼方へ捨てられてしまうことだと僕は思う。だから、僕に立ち向かう人なら……絶対に僕の存在を忘れることはない。もし自分が負けたときは……きっと満たされぬ心が初めて満足する。
だから、異世界の神にバレないようにこっそりと、僕に対して「憎悪」のような感情を抱いてくれる心の強い人間を連れてくる。残念なことに今まで僕にたどり着いたのは極少数だ。今度こそ……今度こそ僕を殺して見せてよ!
――さぁ、理不尽が嫌いなんだろう? だったら早く僕を殺しにおいで。
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