一匹狼は理不尽な世界と踊る

明月

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一匹狼の誕生

一匹狼は理不尽に襲われる

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――独りで帰る夜道はどうにも寒くていけない。

頬を撫でる冷風と体を蝕む冷たさに肩をすぼめながら歩く道は、相変わらずとても寂しいものだ。そのせいか空から降り注ぐ月の光すら冷たく感じ、その月光に照らされる地面は酷く冷ややかだ。

嫌なことを思い出すと、その後の行動にまで差し障ってしまう。いままでこんなに道が寂しく、そして冷たく感じたことはない。しっかり服を着込んでいるのに服を無視するかのように冷たさが身にしみてくる。


何故だろう? 何度も、毎日通っている道なのに今日はなんだか妙な雰囲気だ。こんなことを思ったのは初めてだ、薄気味悪くてたまらない。ブルッ、と体が震える。きっと風邪でもひきかけているんだろうな、さっさと帰ることにしよう。そう考え足を速めると――



――刹那、周りの様相がガラリと一変した。


只々、寒い。思わず立ち止まって動けなくなってしまった程の寒さだ。さっきまでとは比べ物にならない、頬を撫でるどころではなく氷を直に当てられたような、氷に包まれているかのような冷気が身を襲う。

それだけではない、辺りの景色が薄い赤色・・・・に染まり始めていた。

寒さは次第に増していくし、辺りを包む赤色も次第に濃くなっていく。まるで意思を持っているかのように冷気は身を包み、内側へと侵食していく。「寒い」という感覚からもはや「痛い」という感覚に移り変わっていた。次第に動かなくなってきた体からミシミシという音が聞こえてくるが……きっと聞き間違いではないだろう。


……ついに足が耐えられなくなり、地面へと崩れ落ちてしまう。

こんな時にまで「今の姿を見られたら、さぞ無様に思われるのだろう」などと考えてしまうのは、きっと混乱が極まって思考がおかしくなっているせいだろう。訳がわからない状況に追い込まれて平然としていられるわけがない!


四つん這いのまま、凍えながら、耐える。ただ、耐える。

体が硬直して今にも倒れそうな状態を気合だけで何とか乗り越えようと体に力を入れ踏ん張ろうとするが、俺は恐ろしいことに気がついてしまった。先程から襲う寒さによるものだろう、凍りついてしまったのか体が指先から"白銀に"変色し始めていた。



――ふざけるな、このまま無様に野垂れ死んでたまるかよ。

このまま四肢を投げ出すわけにもいかない、そう思い必死に体を保とうとする俺を、先程からずっと降り注ぐ・・・・赤い光が照らす。今まで言うことを聞かなかった体のはずが、空を見上げる動作には何ら苦痛も感じず、すんなりと言うことを聞いた。


見上げる空には妖しく……そして、恐ろしいほど美しく輝く赤色の満月。


惹きつけられて、目が離せない。それにその赤い光は不思議と暖かかったんだ。

どれだけの時間「それ」を見ていたのだろう。凍りつく体はそのままなのに――不思議と楽な気持ちになっていた。それと同時に体の内から表現できない「何か」がこみ上げてくる。

込み上げてくる"何か"は腹から胸、喉へと無理矢理に上り、意識を混濁させる。混濁した意識は、見上げる月に吸い込まれるように段々と消えゆき、ついにはあれだけ惹きつけられた美しい月すらも真っ暗な闇の中に……落ちてしまった。


完全に意識が消える寸前、たしかに俺は聞いた。『力強い遠吠え』を。
何かに抗おうとする意思を持ち、抗い叫ぶような『気高き遠吠え』を。
聞いたものを震え上がらせ、恐怖に引きずり込む『怒りの遠吠え』を。


――俺はそれを聞いたと同時に、ぷっつりと意識が途絶えた。











――???――


面白い考えをする人だなぁ。あの状況で「野垂れ死んでたまるか」か!
心の強い人なんだねぇ、それにあの冷気……珍しい物を持っているみたいだ。
一匹狼でもいい……か! うん、彼なら僕を楽しませてくれそうだ。


頑張ってね、一匹狼さん。君を名実ともに「一匹狼」にしてあげよう!!
願わくば、僕をもっともっと楽しませてね――
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