いつか世界の救世主―差し伸べるは救いの手―

明月

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プロローグ②現世で最後の"救いの手"

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いつも通りの何気ない日常。

朝に電車に乗ればお年寄りに席を譲り、
大学へ行けば講義が訳わからんと嘆いている友の勉強を手伝う。
道すがら、老人の重そうな荷物を俺が代わりに持って側を歩く。
そして、帰りの電車でも同じように席を譲る。


――そんな何も変わらない日常は突如終わりを告げた。

俺は飲み物を片手に、歩行者信号が緑に変わるのを待つ。これもいつも通りで何も変わりはない。数秒後にやっと信号が変わり、さて歩き始めるかと思った時だった。

……何やら周りの人が動かない。俺はおかしいとは思いながらも歩き始めようとしたが、周りの人が何やら指を刺して道路の方を眺めているためその足を止める。

俺も道路を注視してみると、1台の車がこちらへ走ってくるのが見えた。ただその様子は普通とは言いがたい。

……明らかに様子がおかしい、蛇行している車。飲酒運転の人間が走行した時のような、左右にふらふらとしている感じだ。

  
――そんなことを考えていると、突然車が猛スピードで走り始めた。こちら側に一直線に突っ込んでくる!


「おい、今赤信号だぞ! 何考えてんだあの車?!」と叫ぶ男が居た。

……いや、思わず口に出してしまったんだ、俺が。


周りの人が立ち止まっている中、目の前にいた少女だけは立ち止まらずに青信号を渡っていく。その両耳にはイヤホンが……まさか異常に気づいていないのか?!

――周りの人は皆、息を呑んで少女を止めようとする。

皆が焦って呼び止める声に気づいたのであろうが、ようやく此方を振り向いた。だが、車には……全く気付いていない。注意を呼びかける対象よりも、呼びかけている人間に目が行ってしまうのは当然のことで……

その間にも信号を無視した車はこっちに突っ込んできている。


辺りに飛び交うのは悲鳴。信号待ちをしていた人全員が少女に向かって警告を発した。焦った声や怒鳴り声が少女に向けられている。

その時やっと、少女も車の存在に気がついた様だ。
少女は思わず目を瞠って立ち止まって――

「――クソッ!」

考えるよりも先に体が動いた俺は必死に走り出す。いつものことだ、何としてでも彼女を救いたい一心で……ただ、それだけで駆け出す。

間に合ってくれ! 俺が何としてでも絶対に救うんだ――

今までで一番の早さ、全力疾走で彼女へと駆け出す。次第に縮まる彼女との距離。――そして、車との距離も縮まる。


……本当にギリギリだった。でも、俺の手はしっかりと少女に届いた。



かなり強引だが、俺は少女の服を掴んで思いっきり後方へと引っ張る。

どちらかと言うと "投げ飛ばした" に近いが、車が当たらない位置で向かわせることはできた。それで怪我しても仕方ない、死ぬよりはましなのだから。

引っ張った反動で俺は前へと投げ出される。眼前には猛スピードで俺に迫る車。これは避けようがないな、と何故か冷静に考えてる自分が居た。



周りの風景が瞬時に遅くなって見える。
まるでスローモーションのように周りの風景が流れていく様だ。

――まず目に入るのは悲鳴を上げている歩行者達。

次に助けた少女が目に入った。
涙を流しているのは助かった安堵からか、はたまた投げ飛ばした時に本当に怪我をしてしまったのだろうか?

もしかしたら俺が助からないと気付いたからかもしれないな。

ふと少女の泣き顔が水野の顔と重なり、懐かしい感情に支配される。俺が救えなかった……ついぞ何もできずに旅立ってしまった最愛の人。


――君は救えなかったけど、俺はこんな風に人を救うことができたんだ。でもごめん。もっと沢山救うって約束したけどもう無理みたいだ。


「――ちっぽけな力だけど、俺は、この子を救うことができたよ」


……この後は君に逢えるかもしれないな。もしかしたら、こんなに早く君に逢ってしまって「約束はどうしたの?!」なんて感じに怒られるかもしれない。でも、水野に会えるならそれもいいかな? 


――急な衝撃と共に目の前が霞む。

(あぁ……そろそろ時間だ。今から会いに行くよ水野――)

目の前が次第に暗くなり、意識が遠ざかっていく。



――最後に脳裏に浮かんだのは、彼女の笑顔だった。
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