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麗奈、神様と出逢う
しおりを挟む意識が浮上して、ぼんやりとする頭を押さえながら目を開けると、見知らぬ部屋にいた。
壁沿いに天井まである本棚が並んでいて、重厚な執務机があることから、誰かの仕事部屋か書斎なのではないかと想像がついた。
どうやら私はソファに寝かされていたようだ。
「起きたね。今、お茶をいれるから座ってて」
体を起こそうと肘をついたところで、見知らぬ少年の声が聞こえる。
驚きながらも、まずは体を起こして、スカートの裾を整えながらソファに腰かけた。
テーブルを挟んだ向かい側のソファに座っている10歳くらいの少年が、何もないところからティーポットやカップを取り出して、カップにお茶を注いでいく。
湯気の立つお茶はまだかなり熱そうで、座ったままの彼がどこからそれを持ってきたのか不思議で堪らなかった。
「これから大事な話をするから、まずはお茶を飲んで落ち着いてね。このお茶は、精神安定の効果があるから」
綺麗な空色のティーカップをソーサーごと差し出されて、言われるがままにお茶を飲んだ。
何の警戒心もわかず、出されたお茶を飲まなければいけないような気持ちになっていた。
ふわりと花の香りがするお茶は、砂糖を入れたわけでもないのにほんのりと甘く、とても美味しかった。
ぼんやりとしたままの意識がすっきりして、同時に気持ちが凪いでいくのがわかる。
「ここはどこでしょうか?」
ゆっくりと時間をかけてお茶を飲んでからそう切り出すと、カップにお茶のお代わりを注がれる。
小さな手で持つには大きなポットだけど、危なげなく慣れた様子だ。
「ここは神界にある僕の家の書斎。君は勇者召喚に巻き込まれて、何の能力もないまま異世界に渡ろうとしていたから、魂だけここに引き寄せたんだ。このままでは、遠からず君は死んでしまうからね」
勇者召喚?
巻き込まれたということは、勇翔が勇者なのか。
勇者とか、いかにも勇翔らしくて乾いた笑みが零れる。
遠からず死ぬと言われても恐怖は一切なく、諦めの気持ちしか湧かなかった。
「死んでしまうのなら、それでもいいです……」
生きている意味なんてない。
勇翔がそばにいる限り、私は心を殺し続けて、我慢するしかない。
いつだって悪者にされて、悩んでいることを相談する相手も作れなくて、幸せになんて絶対になれない。
いっそもうこのまま死んでしまった方がいいんじゃないかとすら思う。
諦めや怒りや悲しみ、いろんな負の感情が胸の中で荒れ狂って、暴走してしまいそうになる。
普段だったら抑え込める感情が抑えきれず、涙が溢れて止まらない。
「私なんて、いらないっ! 生きてたって、いいことなんて何もないっ!」
勇者として召喚された勇翔のそばにいたら、今まで以上にひどい目に合うだけだろう。
巻き込まれただけの私は、どう考えても邪魔な存在でしかないのだから。
身を守る術など何一つ持たないのに、全く知らない命の危険もあるかもしれない世界で人の悪意にさらされたら、簡単に死ぬことだろう。
死ぬだけならまだいい。
死ぬよりも辛い目にあわされる可能性だってある。
考えれば考えるほど絶望しか湧いてこなくて、見ず知らずの少年の前で泣き喚いてしまった。
「すっかり心が病んでしまっているね。一人きりで、誰も味方がいなくて辛かったんだね。こんなに傷ついて、かわいそうに……」
いつの間にこちら側にやってきたのか、温かい手が背中に触れて、宥めるように背中を撫でられた。
泣いてもいいと許されているようで、子供のように声を上げて泣いた。
泣きながら、これまでのことや、何が辛かったのか、何が嫌だったのかを、優しい声に促されるままに話していた。
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