月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎

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第一部

第五十一話 西山物語(3)

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「分離独立を企んでいる連中のことだ、きっと面白い綺譚《おはなし》を知っているに違いないよ!」

 ルナは朗らかに笑った。

「またそれか」

「それしかないよ。わたしの旅の目的はそれなんだから」

 ルナは挑発がましく、白手袋を嵌めた親指を突き出してきた。

 その余裕の表情を見て、ズデンカの中に一瞬その親指を噛み切ってやりたい衝動が生まれた。

 よくあることだが。

 すぐに押さえて周囲の警戒に移り始める。

 銃声は左斜め奥の鬱蒼と繁る森林の中から聞こえてきたようだ。

 つまりその方向に突き進めば、ルナやカミーユに危険が及ぶ。

 もちろん膜《バリア》は張られているだろうから、二人が即死する危険性は少ないが、かすり傷ぐらいは負うかも知れない。

 それにルナの負担もズデンカかはできるだけ軽減したかった。

「あっちは行くなよ。ゲリラがいる」

「なんでさ」

 ルナは首を傾げた。

「自分から死ににいくのかよ!」

「死ににはいかないさ。綺譚《おはなし》を聞きに行くんだよ」

 とルナはとりつくしまもない。

 ズデンカの腕からするりと抜けて、無邪気に森林へと歩き出していた。

 カミーユは躊躇っている。

「お前はここにいて良い。あたしはルナを追う」

「でも……でも……」

 カミーユは不安そうな声を出した。

「ルナにずっと尾いて歩いていないと、膜《バリア》から外れて余計危険だ。あたしも銃から守れる自信はない。もう少し下がって待っていろ」

 ズデンカは強く言った。

「はい」

 カミーユは頷いた。

 ズデンカは独りで歩き出す。

 ルナはこう言う時だけやたら早い。既にかなり遠くの方に言っていた。

 ズデンカは地を蹴って走り、それと並んだ。

「独りだけでいくなよ」

「大丈夫。わたしはわたしの身くらい守れるよ」

「お前でも集団で掛かられたらすぐに死ぬ」

「死なないさ。何とかするよ」

「お前の何とかは信用ならん」

 歩いているうちに、巨大なガトリング砲の列が見えてきた。

「すげえな、あれは」

 六つばかりの束ねられた黒い銃身に巨大な車輪が二つ取り付けられていた。機械により自動で連射できるらしく、一台につき一人の人間がその後ろに立っているだけだ。

「あんなもので撃たれたら蜂の巣だね」

 ルナは言った。

「そんな喜ばしい顔で言うもんかよ」

 ズデンカは近付いてみた。

 蜂の巣にされようがすぐに再生できるからだ。

「お前は誰だ?」

 ゲリラが鋭く詰問した。

 ズデンカは答えようとする前に火を噴いた。

 物凄い勢いで銃弾が射出され、ズデンカの腹は見事に蜂の巣状になる。

 もちろん、すぐに塞がっていくが。

「ひっ、ひい、化け物」

「化け物じゃねえよ。この服だって根が張るんだぜ。弁償しろ」

 ズデンカは勢いよく砲台の後ろに回り込んで、ゲリラの首根っこを押さえた。

「助けてぇ!」

 見るとまだ髭も生えない少年だ。

「あたしじゃなかったら死んでたぞこの腐れボケが!」

 ズデンカは怒鳴った。

「まあまあ」

 ルナがなだめた。

 少年は泣き始めた。

 ズデンカは手を下ろした。

「わたしはルナ・ペルッツ。綺譚《おはなし》を求めて世界各地を旅して回っている者です」

「しくしく」

 少年は啜り泣くだけだ。

「どうした、ゼルグ」

 年長者と思われる厳つい体格の男が歩いてきた。見るからに元兵士という面構えだ。
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