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第一部
第二十五話 隊商(5)
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月明かりに照らされながら、小生はコレットに引っ張られるかたちで歩きました。
「どこへいけばいいのかな」
すっかり暗い気分になっていました。
「砂漠はこんなに広いんだから、何とかなるって。月の雫だって、見つからないとは限らない」
コレットはさもせいせいしたと言うように手を広げました。
「二人で逃げよう。やつらも追ってこないよ」
アズィームの部下たちが周りに誰もいないことをちゃんと確認した後で、小生は声を低めて言いました。
「それはだめ! 皆が殺されちゃう」
いきなりコレットは真剣な目付きになって、睨みました。
天涯孤独なコレットにとって、今のサーカスの仲間は家族同然なのでした。
既にヴァールブルクから心が離れ、これっとのこと以外はどうでも良くなっていた小生とは違います。
悪いことを言った気分になりました。
「ごめん」
「謝らなくていい。アランは臆病だからそう言うって思ってたから」
額を軽く指先で小突かれました。
たぶん、小生は顔を赤くしたんだと思います。
こんな状況なのに、コレットは砂の上で笑い転げていましたので。
もちろん、頬も熱くなってはいましたけどね。
小生は、怒るも笑うもどちらもできないで、ただ戸惑っているばかりでした。
月がちょうど真上に輝いて顔を照らしています。こんなにも間近に感じるのに、その雫を手にできないなんておかしく思いました。
「どうすりゃいいんだよ」
「歩くしかないよ」
そう言ってコレットは足早に歩き始めました。運動神経はなかなかのものなので、瞬く間にかなり先に進んでしまっています。
「待って」
小生は追いかけました。
並んで歩くまでにしばらく時間が掛かってしまいました。サーカスでは雑用役ばかりをやらされていて、演技を観客の皆様にお目に掛けることはできませんでした。
当時の小生に今の己の姿を見せたら、嘲笑うでしょう。
なんだ、お前には曲芸の才能はなかったのか、と。
二人だけで歩く砂漠はなんて静かで綺麗なんでしょう。
砂が銀色に輝いて、眩く眼を射ました。
「二人でこんなに話したことなんて今までなかったね」
コレットが話しかけてきました。
「確かに。サーカスだと周りに誰か必ずいるから」
また頬が熱くなるのを覚えました。
それだけではなく、コレットの周りにはいつもたくさんの男がいました。気さくな性格なので、誰とでも仲良くなれたのです。
見る度に胸騒ぎを覚えました。
今、この瞬間だけはコレットを独占していられる。
もし、皆が助かって、サーカスに帰ったらもう二度とこんなに話す時間は得られないかも知れない。
コレットだって自分より年上だ。なら、いつか恋人が出来て結婚してしまうかも知れない。
遠くにいってしまうかもしれない。
そう考えると、いつまでもこの時間が続いてくれたら良いのにとひたすら願っている自分に気付きました。
とたんに、アズィームとその家来たちの顔が浮かんできたので、急いで考えを掻き消しました。
「あ」
突然、コレットが声を上げて、向こうを指差しました。
またか、とは思いましたが、その視線の先には、隊商がいました。
いえ、ぱっと見ただけではすぐ隊商とはわからないのでしょうが、小生は心の中でそう決め付けていました。
途切れることもなく続く駱駝の列――そのコブのある影がひとつ、ふたつ、みっつと穏やかな波のように砂の上に長く伸びていきます。
「どこへいけばいいのかな」
すっかり暗い気分になっていました。
「砂漠はこんなに広いんだから、何とかなるって。月の雫だって、見つからないとは限らない」
コレットはさもせいせいしたと言うように手を広げました。
「二人で逃げよう。やつらも追ってこないよ」
アズィームの部下たちが周りに誰もいないことをちゃんと確認した後で、小生は声を低めて言いました。
「それはだめ! 皆が殺されちゃう」
いきなりコレットは真剣な目付きになって、睨みました。
天涯孤独なコレットにとって、今のサーカスの仲間は家族同然なのでした。
既にヴァールブルクから心が離れ、これっとのこと以外はどうでも良くなっていた小生とは違います。
悪いことを言った気分になりました。
「ごめん」
「謝らなくていい。アランは臆病だからそう言うって思ってたから」
額を軽く指先で小突かれました。
たぶん、小生は顔を赤くしたんだと思います。
こんな状況なのに、コレットは砂の上で笑い転げていましたので。
もちろん、頬も熱くなってはいましたけどね。
小生は、怒るも笑うもどちらもできないで、ただ戸惑っているばかりでした。
月がちょうど真上に輝いて顔を照らしています。こんなにも間近に感じるのに、その雫を手にできないなんておかしく思いました。
「どうすりゃいいんだよ」
「歩くしかないよ」
そう言ってコレットは足早に歩き始めました。運動神経はなかなかのものなので、瞬く間にかなり先に進んでしまっています。
「待って」
小生は追いかけました。
並んで歩くまでにしばらく時間が掛かってしまいました。サーカスでは雑用役ばかりをやらされていて、演技を観客の皆様にお目に掛けることはできませんでした。
当時の小生に今の己の姿を見せたら、嘲笑うでしょう。
なんだ、お前には曲芸の才能はなかったのか、と。
二人だけで歩く砂漠はなんて静かで綺麗なんでしょう。
砂が銀色に輝いて、眩く眼を射ました。
「二人でこんなに話したことなんて今までなかったね」
コレットが話しかけてきました。
「確かに。サーカスだと周りに誰か必ずいるから」
また頬が熱くなるのを覚えました。
それだけではなく、コレットの周りにはいつもたくさんの男がいました。気さくな性格なので、誰とでも仲良くなれたのです。
見る度に胸騒ぎを覚えました。
今、この瞬間だけはコレットを独占していられる。
もし、皆が助かって、サーカスに帰ったらもう二度とこんなに話す時間は得られないかも知れない。
コレットだって自分より年上だ。なら、いつか恋人が出来て結婚してしまうかも知れない。
遠くにいってしまうかもしれない。
そう考えると、いつまでもこの時間が続いてくれたら良いのにとひたすら願っている自分に気付きました。
とたんに、アズィームとその家来たちの顔が浮かんできたので、急いで考えを掻き消しました。
「あ」
突然、コレットが声を上げて、向こうを指差しました。
またか、とは思いましたが、その視線の先には、隊商がいました。
いえ、ぱっと見ただけではすぐ隊商とはわからないのでしょうが、小生は心の中でそう決め付けていました。
途切れることもなく続く駱駝の列――そのコブのある影がひとつ、ふたつ、みっつと穏やかな波のように砂の上に長く伸びていきます。
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