311 / 541
第一部
第三十話 蟻!蟻!(4)
しおりを挟む
「待てよ」
ズデンカは意を察し、並んで歩く。
「何をしたい?」
「サシャさんがキーマンだ。なら、イザークさんに話を聞かないといけない」
ルナはあっさり答えた。
「また男と話すのか」
ズデンカは男が嫌いなのだ。それはルナも同じことだと確認を取っていたはずだが。
「ああ、必要なら話すさ。好き嫌いとそれは別だ」
ルナは勢い込んで、厩舎の中で蟻を何匹も掃き散しているイザークの元へ走っていった。
ズデンカは外で待つことにした。
「弟さんとはどうだったんですか」
「あまり話はしないな」
イザークはとても無口だ。しかもルナの顔も見ずに話した。
一匹が横転した以外、馬の被害はないようだった。
「失踪する以前には?」
そう訊くルナにイザークは答えず、黙々と作業をやり続けるだけだった。
――兄弟でも色々だな。
ズデンカは前ランドルフィ王国で出会った、礼儀正しい兄弟とは大違いだと思った。
「やれやれ参ったよ」
ルナはしばらく粘っていたが、イザークのあまりの無口さに断念して引き上げてきた。
他の連中にも訊いてみたが断られたのだという。
「例の力を使えばいいんじゃないか」
ズデンカはうっかり口を滑らしたが、すぐに後悔した。
ルナは自分や他人の頭に浮かんだイメージを実体化出来る能力がある。
中立国ラミュの首都デュレンマットでスワスティカ残党に襲撃された際はその力を使いすぎてルナは消耗していた。また同じことの繰り返しになることを恐れたのだ。
「うーん、そうするかぁ。わたしとしたら本人の口から聞きたかったんだけど」
ルナは迷っているようだった。
「なら止めろ」
「いや、やるよ」
ルナはパイプを取り出した。火を点すと、もくもく煙が周囲にあふれる。
するとその煙の中から、まだ顔に幼さの残る青年が姿を現し、厩舎の中へと歩いていった。
ちょうど、蟻の掻き出しが終わり、一段落付いた頃合いだった。
「サシャ!」
働いている連中はイザークも含めて驚いていた。
「無事だったのか」
「どこへ行っていた?」
周りに駆け寄られても、手で押し退け、サシャは厩舎の中心まで移動した。
胡座を掻いて坐り込む。
そのまま動きが止まってしまう。
「これは……あの時と一緒だ!」
誰かが叫んだ。
「サシャがいなくなった時と!」
「当たり前だね」
ルナが嘯いた。皆の記憶の中にある光景を実際化したのだから、当然というわけだろう。
突然、サシャが何かぶつぶつと呟き始めたが、意味がよくわからない。ズデンカはネルダ語がかなりよく聴き取れる方だが、まるで支離滅裂だった。
と、いきなり、サシャの口が開いた。そこから無数の蟻が次から次へと涌きだした。
「うわぁ!」
周りの人々はいきなり蟻に身体を集られ、混乱して、逃げ惑っていた。
サシャはそれを見届けると無表情のまま外へ出ていった。
そして消えた。
蟻も一緒に。
「これが、みんなが実際に目にしたことさ」
ルナは言った。
「刺激が強すぎたな」
まだ身体をかきむしっている人々を前にズデンカは言った。
「同じ恐怖を二度体験させちゃったわけだからね。答えて貰えなかったんだから仕方ないよ」
ルナは少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「答えりゃよかったのに」
「仕方ないさ、ここではわたしたちはよそ者だ。それにサシャさんの」
とルナはここで黙る。
「何だよ?」
ズデンカは訊いた。
ズデンカは意を察し、並んで歩く。
「何をしたい?」
「サシャさんがキーマンだ。なら、イザークさんに話を聞かないといけない」
ルナはあっさり答えた。
「また男と話すのか」
ズデンカは男が嫌いなのだ。それはルナも同じことだと確認を取っていたはずだが。
「ああ、必要なら話すさ。好き嫌いとそれは別だ」
ルナは勢い込んで、厩舎の中で蟻を何匹も掃き散しているイザークの元へ走っていった。
ズデンカは外で待つことにした。
「弟さんとはどうだったんですか」
「あまり話はしないな」
イザークはとても無口だ。しかもルナの顔も見ずに話した。
一匹が横転した以外、馬の被害はないようだった。
「失踪する以前には?」
そう訊くルナにイザークは答えず、黙々と作業をやり続けるだけだった。
――兄弟でも色々だな。
ズデンカは前ランドルフィ王国で出会った、礼儀正しい兄弟とは大違いだと思った。
「やれやれ参ったよ」
ルナはしばらく粘っていたが、イザークのあまりの無口さに断念して引き上げてきた。
他の連中にも訊いてみたが断られたのだという。
「例の力を使えばいいんじゃないか」
ズデンカはうっかり口を滑らしたが、すぐに後悔した。
ルナは自分や他人の頭に浮かんだイメージを実体化出来る能力がある。
中立国ラミュの首都デュレンマットでスワスティカ残党に襲撃された際はその力を使いすぎてルナは消耗していた。また同じことの繰り返しになることを恐れたのだ。
「うーん、そうするかぁ。わたしとしたら本人の口から聞きたかったんだけど」
ルナは迷っているようだった。
「なら止めろ」
「いや、やるよ」
ルナはパイプを取り出した。火を点すと、もくもく煙が周囲にあふれる。
するとその煙の中から、まだ顔に幼さの残る青年が姿を現し、厩舎の中へと歩いていった。
ちょうど、蟻の掻き出しが終わり、一段落付いた頃合いだった。
「サシャ!」
働いている連中はイザークも含めて驚いていた。
「無事だったのか」
「どこへ行っていた?」
周りに駆け寄られても、手で押し退け、サシャは厩舎の中心まで移動した。
胡座を掻いて坐り込む。
そのまま動きが止まってしまう。
「これは……あの時と一緒だ!」
誰かが叫んだ。
「サシャがいなくなった時と!」
「当たり前だね」
ルナが嘯いた。皆の記憶の中にある光景を実際化したのだから、当然というわけだろう。
突然、サシャが何かぶつぶつと呟き始めたが、意味がよくわからない。ズデンカはネルダ語がかなりよく聴き取れる方だが、まるで支離滅裂だった。
と、いきなり、サシャの口が開いた。そこから無数の蟻が次から次へと涌きだした。
「うわぁ!」
周りの人々はいきなり蟻に身体を集られ、混乱して、逃げ惑っていた。
サシャはそれを見届けると無表情のまま外へ出ていった。
そして消えた。
蟻も一緒に。
「これが、みんなが実際に目にしたことさ」
ルナは言った。
「刺激が強すぎたな」
まだ身体をかきむしっている人々を前にズデンカは言った。
「同じ恐怖を二度体験させちゃったわけだからね。答えて貰えなかったんだから仕方ないよ」
ルナは少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「答えりゃよかったのに」
「仕方ないさ、ここではわたしたちはよそ者だ。それにサシャさんの」
とルナはここで黙る。
「何だよ?」
ズデンカは訊いた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる