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第一部
第四十六話 オロカモノとハープ(1)
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ゴルダヴァ中部――
「文明の利器を発明をするという、人間の習性は褒めるべきものがあるよ!」
翼を広げた蝙蝠のような日傘を片手に持ちながら綺譚蒐集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツが言った。
「これ一つで差すだけで、こんなに楽ちんなんだから」
「どれだけ捜したと思ってる。そして幾ら金を使ったのか」
メイド兼従者兼馭者だが今は徒歩で行く吸血鬼《ヴルダラク》ズデンカは詰問した。
つい先程旅立った谷戸にある村の衆に一人一人あたって、日傘を買い求めたものの、ふっかけられたのだ。
ルナは日射病になりやすい。
ならば多少は金を払っても日傘を入手するしかなかった。
「まあいいじゃないですか。村で持ってる人がいただけでもよかったですよ」
同行するナイフ投げ、カミーユ・ボレルがほんわかと言った。
「お前はそう言うがな。ルナの持っている金だって無限じゃない。いざという時のために必要なんだ」
金を持たずに長距離移動した経験のあるズデンカは殊の外不必要な出費には厳しかった。
「いいよ。少なくとも今後十年ぐらいは楽に生きられる。カミーユもお菓子とか欲しいのがあったらなんでも買ってあげる」
ルナが言った。
「ええっ! ホントですか!」
カミーユは目を輝かせた。
その喜びを無碍《むげ》にしかねたズデンカは、黙ることにした。
三人は歩みを進める。
荷物は多い。両腕を鞄やトランクの持ち手で鈴なりにしていた。
一番抱えているのはズデンカだ。
もちろん、吸血鬼の体力なら難しいことではない。
だがルナはスワスティカの残党に追われている。即座に応戦できるように身軽にならなければならないのだ。
「ともかく都合のいい町を捜して、この荷物を何とかするぜ」
本当なら前行ったパヴィッチで倉庫を借りて預けておくべきだったのだ。
「えー」
ルナは嫌そうだった。欲しい物が見つかるとなんでも買ってしまう性分なのだ。
食欲というか、物欲というか、知的好奇心というか。
――真の随から快楽主義者と呼べるのかもしれんが。
ズデンカは呆れた。
実際、ズデンカの故郷に向かっているのもルナの飽くなき探究心によるものなのだ。
「ほんとうにお前は良いのか、こんな馬鹿みたいな旅に付き合うなんて」
ズデンカはカミーユに言った。
「もうズデンカさん。ここまできて、そんなこと言いっこなしですよ!」
カミーユは頬を膨らませた。
「そ、そうか」
ズデンカは言葉に詰まる。
「わたしはずっとルナさんとズデンカさんについていくって決めたんです。そりゃ、最初のうちこそ座長から言われたって意識はありましたよ。でも、旅しているうちにこの人たちしかいないって思えるようになったんです!」
「過大評価だぜ」
ズデンカは顔を背けた。
先へ先へ急ぐ。
山道はどんどんきつくなる。
登りだ。
先を行く人がいたからこそ切り拓かれた道なのだろうが、それでも草が蔽い尽くして、進みづらくしていた。
「はぁ、はぁ!」
案の定ルナが息を切らし始めた。
カミーユはと言えば勢いよく上へ上へと上がっていく。
「体力を使いすぎるなよ」
「寝てすっかり恢復《かいふく》、ですよ!」
カミーユが振り返って笑顔で言った。
その時、夏場には珍しい涼やかな楽の音が聞こえてきた。
「何て楽器でしょう」
とカミーユ。
「あれは……そうだ。ハープだ。まさかこんなところで訊けるなんて!」
ルナが答えた。
「文明の利器を発明をするという、人間の習性は褒めるべきものがあるよ!」
翼を広げた蝙蝠のような日傘を片手に持ちながら綺譚蒐集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツが言った。
「これ一つで差すだけで、こんなに楽ちんなんだから」
「どれだけ捜したと思ってる。そして幾ら金を使ったのか」
メイド兼従者兼馭者だが今は徒歩で行く吸血鬼《ヴルダラク》ズデンカは詰問した。
つい先程旅立った谷戸にある村の衆に一人一人あたって、日傘を買い求めたものの、ふっかけられたのだ。
ルナは日射病になりやすい。
ならば多少は金を払っても日傘を入手するしかなかった。
「まあいいじゃないですか。村で持ってる人がいただけでもよかったですよ」
同行するナイフ投げ、カミーユ・ボレルがほんわかと言った。
「お前はそう言うがな。ルナの持っている金だって無限じゃない。いざという時のために必要なんだ」
金を持たずに長距離移動した経験のあるズデンカは殊の外不必要な出費には厳しかった。
「いいよ。少なくとも今後十年ぐらいは楽に生きられる。カミーユもお菓子とか欲しいのがあったらなんでも買ってあげる」
ルナが言った。
「ええっ! ホントですか!」
カミーユは目を輝かせた。
その喜びを無碍《むげ》にしかねたズデンカは、黙ることにした。
三人は歩みを進める。
荷物は多い。両腕を鞄やトランクの持ち手で鈴なりにしていた。
一番抱えているのはズデンカだ。
もちろん、吸血鬼の体力なら難しいことではない。
だがルナはスワスティカの残党に追われている。即座に応戦できるように身軽にならなければならないのだ。
「ともかく都合のいい町を捜して、この荷物を何とかするぜ」
本当なら前行ったパヴィッチで倉庫を借りて預けておくべきだったのだ。
「えー」
ルナは嫌そうだった。欲しい物が見つかるとなんでも買ってしまう性分なのだ。
食欲というか、物欲というか、知的好奇心というか。
――真の随から快楽主義者と呼べるのかもしれんが。
ズデンカは呆れた。
実際、ズデンカの故郷に向かっているのもルナの飽くなき探究心によるものなのだ。
「ほんとうにお前は良いのか、こんな馬鹿みたいな旅に付き合うなんて」
ズデンカはカミーユに言った。
「もうズデンカさん。ここまできて、そんなこと言いっこなしですよ!」
カミーユは頬を膨らませた。
「そ、そうか」
ズデンカは言葉に詰まる。
「わたしはずっとルナさんとズデンカさんについていくって決めたんです。そりゃ、最初のうちこそ座長から言われたって意識はありましたよ。でも、旅しているうちにこの人たちしかいないって思えるようになったんです!」
「過大評価だぜ」
ズデンカは顔を背けた。
先へ先へ急ぐ。
山道はどんどんきつくなる。
登りだ。
先を行く人がいたからこそ切り拓かれた道なのだろうが、それでも草が蔽い尽くして、進みづらくしていた。
「はぁ、はぁ!」
案の定ルナが息を切らし始めた。
カミーユはと言えば勢いよく上へ上へと上がっていく。
「体力を使いすぎるなよ」
「寝てすっかり恢復《かいふく》、ですよ!」
カミーユが振り返って笑顔で言った。
その時、夏場には珍しい涼やかな楽の音が聞こえてきた。
「何て楽器でしょう」
とカミーユ。
「あれは……そうだ。ハープだ。まさかこんなところで訊けるなんて!」
ルナが答えた。
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