グラディア(旧作)

壱元

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第一章

01-05「獅子奮迅」

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 ソウ達は「第6区」北部デスティニーヒルの中央に聳える白色の外装が特徴的なドーム:ホイール・オブ・フォーチュンスタディウムに来ていた。

「大きいな…」

トクスが不安げに見上げていた。

GCカローラのスタディウムは業界では零細な方だ。

まるで自分達と相手方との実力の差の具現体の様に見えてしまったのである。

 控室で服の上から装備を着用する。

ミナーヴァとトクスが緊張しているのを、実はソウは解せずに居た。

強い敵と戦えるんだし、交流試合だから負けても大丈夫だし、ちゃんとした装備に守られているから安全だし、なのにどうして楽しそうじゃないんだろう?と。

「あんた」

ミナーヴァがローブを着ながら話しかけてくる。

「ジョーカーだからって、自分勝手に行動してあたし達の足を引っ張らないでよね?」

ソウはうん、と素直に頷いた。

 控室から廊下に出る。

この先が試合会場だ。

「行くわよ」

ミナーヴァを先頭に、3人は歩き出した。

遂に暗闇を抜け、スタディウムの高い丸い天井が目に入る。

観客たちの歓声が彼らを包み込む。

だが、この歓声は「外様ルーキー」なソウ達に向けられた物ではない。

 正面から歩いてくるのはデスティニーDヒルHライオンズLの若手たち。

こちらが水色なのに対し、ネオンは赤色に統一している。

先頭はオールバックの赤髪と左目の上下に伸びる一本の切り傷がトレードマークな約2mの長身で筋骨隆々な「ブロウラー」の少年:ジークフリート。

騎士の甲冑を思わせるがっしりした防具と痛々しい長い棘が何本も突き出たメイスを携えている。

 ソウから見て左側にいる少年の名はマーク。「レンジャー」である。

狼のような茶髪で、側頭部を剃り、前髪を伸ばしたヘアスタイルが特徴的である。その眼光は野獣のように鋭く、威力がある。

「オムニスーツ」に似た装備を着用し、口元を長いスカーフで覆っている。

武器はスナイパーライフル。

 そして、右側に居たのは「アサシン」の小柄な少女。

灰色の髪で、伸ばした前髪で左目を隠している。

黒色の眼はぱっちり大きく、体格も相まって幼げな印象も与えるが、その表情は憂いげでどこか大人っぽい。

灰色の長ズボンと長袖のシャツ型の装備を着ていて、その上には腰まで垂れるマントを纏った格好だ。

彼女の名前はラエタLaeta

「幸せ」を表す形容詞だ。


「あれがジークフリートか」

とトクス。

「彼は練習・対外試合どちらでも一度も敗けた事がないらしいね」

「じゃあ、今日初めての敗北を贈ってあげる」

ミナーヴァはそう言って強気な笑みを浮かべた。

だが、その表情は見るからに硬い。

これが虚勢以外の何物でもない事は明瞭だった。

「おい」

突如、マークが近づいてくる。

トクス、ミナーヴァは身構えた。

だが、ソウはその必要のないことを彼の鋭敏な五感で捉えていた。

「いい試合にしよう。約束する、俺たちは全力で君等の相手になる」

マークはそう言って、握手を求めた。

3人はそれに応じた。

「用は済んだか、マーク?」

「ああ、待たせてすまない」

ジークフリートに返答すると、紳士マークは戻っていった。

「時間だ。始めるぞ」

ジークフリートは兜を被り、腰を落として構えた。

マークは遠くに離れ、片膝をついた。

トクス、ミナーヴァも武器を構えた。

ソウはやや彼らに遅れて戦闘態勢を取った。

何か違和感を覚えていたのだ。

 ゴングが鳴った。

ジークフリートとトクスが互いの方に走り寄る。

ミナーヴァは弓を引きながら逆方向へ。

ソウは左手側に走り、マークに弓を向けた。

視線が出会う。

しかし次の瞬間、ソウの視界はジークフリートに遮られた。

「させぬ」

ジークフリートはメイスを大きく振り上げた。

メイスは一瞬で赤色のエネルギーを纏う。

ドラゴンインパクト。

「ぬ」

敵は攻撃を中断して遠くから飛んでくる矢を武器でらくらく弾いた。

ミナーヴァが舌打ちをする。

完全に意識の外側を突いたつもりだったのに。

「これ以上、好きにはさせないよ!」

トクスが駆けつける。

「速いね、君!」

素早くジークフリートの脇腹を切り裂く。

これも見切られ、防がれる。

だが、トクスの狙いは別にあった。

「ソウ君、撃て!」

ソウは限界まで引き絞った矢をジークフリートの眉間目掛けて放った。

約2mの距離から発射された一矢。

常識的に考えれば反応さえ出来ず、致命的な損傷を受けるはずだ。

だが、矢は防御に使った左腕に突き刺さった。

 バリア10%消失。

ジークフリートは水平方向にメイスを振り回した。

ソウは後方に宙返りして回避した。

トクスがジークフリートの正面に走る。

次こそ決める、そう意気込むミナーヴァは、静かにその様子を見ていた。

ふと、背後に違和感を感じた。

「え?」

次の瞬間、ミナーヴァは全てのバリアを失ってベンチにいた。

 そんなこともいざ知らず、ソウとトクスはジークフリートとマーク「だけ」に甚大な注意を払っていた。

トクスは敵の動きを見て、右に重心を傾けた。

だが次の瞬間、左に飛び出し、脇腹を突き刺す。

完璧に意表を突く戦術アサシンの得意技

だがその時想定外にもトクスの得物は衝撃を受けて床の上を滑り、トクスは肝心な所で攻撃の手段を失う。

「チェックメイトだ」

マークはさらに追撃を放つ。

弾丸は地面を蹴って背後に飛び出したトクスの鼻頭のちょうど1cm程先の空間を撃ち抜いた。

距離を取ろうと後ろ向きに走るトクスに、ジークフリートは一瞬で追いつく。

反応不能な速度で頭を殴り、一撃で退場させる。

クイックストライク。

 さあ、ソウは一人になった。

だが動じず、当初の予定通りにマークに矢を放つ。

ジークフリートは走って移動し、また壁となる。

だが矢の軌跡は大きく曲がりジークフリートの横を抜けてマークにぶつかった。

矢は盾に見立てた銃身に突き刺さり、蒼い光を散らした。

「危なっ」

 マーク、バリア22%消失。

曲がる矢カービングアローか。最初から使えば良かっただろうに」

ジークフリートはそう言って、武器を振り上げながら接近してきた。

ソウは慌てて地面を蹴って距離を取った。

敵は迅速だ。すぐに近づいてくる。

ソウは右に走り、素早く弦を引き絞った。

ジークフリートの動きが止まった。

マークも射撃出来るはずなのに、して来ない。

「やれ」

ジークフリートの声に呼応し、ソウの背後で小ぶりな影が音もなく揺らめく。

ソウだけが感じた何か違和感の正体。

「幽霊」のラエタ。

ミナーヴァにやったように、ソウの首筋に短剣を立てる。

だが、次の瞬間ターゲットは上半身を捻り、涼しくも緊迫感を含んだ表情で弓を大きく引いていた。

違法グラディア後の男の奇襲の時にも咄嗟に出た動き。

ソウにとっては脊髄反射にも等しい、なんてことのない行動であった。

だが、キャリア初の「反撃」を受けたラエタの眼に、それは本質とは真逆に映った。

矢はラエタの胸の中心を、心臓を、真っ直ぐに射抜いた。

ラエタは一撃でバリアが尽き、ベンチに瞬間移動した。

「お前」

ソウははっとして声の方に振り向いた。

ジークフリートが武器を大きく振り上げていた。

ソウは見計らって身体を反らした。

無事に回避成功するはずだったが、ジークフリートの動きは途中で止まり、鉄槌は軌道を変えて振り下ろされた。

「お前、中々なつわものだ。名を覚えていよう」

 ソウ、バリア100%消失。

最後の一人はフェイントの一撃に倒れた。

勝負あり。

生存数:2-0でデスティニーヒル:ライオンズの勝利。


「今回の試合についてどう思われますか、監督?」

薄紫色のくせっ毛が特徴的な、線の細い青年:レオンは脇に足を組んで座っている黒と橙の軍服にベレー帽を被った黒髪の30代前半の気の強そうな女性、DHL監督のヴィヴィアンに話しかけていた。

「…ジークフリートは一軍に回すべきだと再確認した。それが今回の収穫だ。だが…」

「だが?」

「得たものはもう一つある」

ヴィヴィアンの視界の中心には敵チームのジョーカーの姿が据えられていた。

「我がチームの状態は平常だった。だが想定外に手間取った。その理由は敵チームにある。最近加入したとか言う、あのジョーカーだ。あいつの戦いを見ることが出来たのは嬉しい誤算であった」

ヴィヴィアンは一人頷いた。

「一つ決めた」

 ベンチの監督席から離れた所に一人、ラエタが座っていた。

その脳内はある一人の人物の姿の再投影リプレイで溢れていた。

「きれい」

ラエタはただ一言だけ、そう呟いた。

 

「おい」

ウィルがソウの胸ぐらを掴む。

「何負けてんだよ、俺が代わってやったくせによ」

「まあまあ」

ジュピターが仲裁する。

「相手は大手だったんだ。負けることは想定していたよ」

その言葉を聞いて、ミナーヴァがやはり悔しそうに俯いた。

「でも今回、強豪相手でもある程度はうまくやれていたし、全く届かない訳じゃないってことも分かった。良い収穫だ」

ジュピターはそう言って拍手した。

真っ先にパールが続く。

さらにレインやウィルも三人を称賛した。


 身体を休めた後、全員がまた会議室に集合した。

スクリーンには試合の反省点が挙げられていた。

・訓練によって得た力や持ち味を活かせなかった→実戦を想定した練習が必要

・知識・経験の不足→資料の活用が必須

・対策の不足→事前分析の必要あり

「こんなものかな。これを実践すれば必ずGCカローラはもっと強くなる、君たちが強くなれるよう、私は全力でサポートする」

ソウ達の胸を躍らせたのは、この後の話だった。

「みんな、今日の交流試合がきっかけで、『第6区』のマイナーリーグ戦に参加出来ることになったよ」

話を聞く一同の目が煌めく。

「いつからですか?」

「いい質問だ、トクス君。リーグ戦は来月の1日から10日間で開催される。ルールは今日のように『3on3』で一戦。総当たり戦で、敗北したら勝ち点無し。勝利したら、終了時に残っていた味方の人数がそのまま勝ち点になるよ。それで勝ち点が一番多いチームがリーグの優勝者になる。5チームあるけれど、上位2チームは第6,7,8,9区の上位2チームで行われる『東部』トーナメントに参加して、さらにそこで優勝すれば都市各地の優勝者4チームで開催されるリーグ『セクンダ・リーガ』に参加できる。優勝したら莫大な賞金が手に入って、君たちの名前はグラディアの歴史に永遠に刻まれることになる」

「じゃあ、絶対優勝だな」

ウィルが言う。

「一つ、質問いいですか?」

パールが手を挙げる。

ジュピターは快く許可した。

「私達が対戦する方たちはどういったチームなのですか?」

「あれ、さっきの長い説明の中で言ってなかったっけ?」

「してないわよ」

ミナーヴァがやれやれといった感じでジュピターにツッコミを入れる。

「わかった、じゃあ説明しよう」

 参加チームは、GCカローラ、ムーンライト・ナイツ、GCチョップ、ブロックタウン・インパルス、そしてデスティニーヒル・ライオンズ。

「じゃあ、DHLに復讐リベンジ出来るってことですか。良いですね、復讐リベンジは大好物です」

レインが猟奇的ともとれる笑みを浮かべながら言う。

「もちろんDHLが一番の強敵だけれど、他のチームも油断ならない相手だ。このリーグ、中々厳しくなるだろう」

ジュピターがスクリーンに各チームの情報と主戦力を映し出した。

驚くべき戦績もいくつか目の当たりにした。

自信を失った若人達に、監督は爽やかな笑みを向けていた。

「敵は強い。でも、僕は君たちなら優勝出来ると信じているよ」

リーグの開始は約二週間後。

それに向けて、グラディアートル達は十分に切磋琢磨する。




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