グラディア(旧作)

壱元

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第一章

01-06「嵐の前の静けさ」

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 ソウはスタディウムの床を走り回り、ウィルを射抜く。

ウィルは剣で矢を撃ち落とす。

「一旦ストップ」

ジュピターが試合を中断させ、選手二人の元に歩み寄る。

「二人共、練習したとおりの動きが出来ていないよ。ソウ君、矢を発射するタイミングが少し遅いせいで相手にとっては防ぎやすくなっている。ウィル君は全体的に足を止めがちになっているよ」

 練習後、二人は並んで床に座り込み、揃って水分補給をしていた。

「むずいな」

ウィルが口の中に物を飲み込み、ふと呟く。

「ジュピターは帰っちまったが、この後も練習しねえか?」

「うん」

ソウも現状を早く打開したく思っていた。

この申し出を断ろうとは思わなかった。

二人はスタディウムに入り直すと、再び武器を構え合った。


 シャワールームで汗を流し、ソウはふと会議室にやって来た。

そこではトクスとレインがテーブルを挟んで向き合い、何やらやっていた。

「なにそれ?」

「知らないんですか、チェスですよ」

レインが答えた。

「ルールを説明してあげるから、ソウ君もやろうよ。良いよねレイン?」

「仕方がないですね」

トクスとレインからの説明を受け、ソウは人生初のチェスに挑戦した。

相手はトクスだ。

「最初だから、少し手加減するね」

ゲームが始まった。

 ソウはルークを動かしてキングの王冠をチョンチョンつついた。

「チャックメイト、でしょ?」

トクスはあっさり負けてしまった。

「全く、手加減し過ぎなんですよ貴方は」

トクスは途中から手加減など辞めていた。

レインはそう言ってトクスと代わると、「格の違いを見せてあげます」と笑った。

「おいおい、君はこのチームで一番強いんだから、少しは手加減しろ」

流石にソウも本気のレインには勝てないだろう、トクスはそう思っていた。

 「ナイトはこう動かせるんですよ」

「うん。知っている」

そう言ってソウはナイトでクイーンを取った。

それから数手でキングも討ち取ってしまった。

「これで終わり? 思ったより弱いね」

そう言われてしまったレインは額に冷や汗を浮かべながら

「まあ、初心者の君に忖度してあげただけですよ」

と吠えた。

「飽きたからやめる。遊んでくれてありがとう」

そう言ってソウは自室に戻っていった。

目を疑う程利口。

チッ

レインはソウの背中が見えなくなった時、密かに舌打ちをした。

誰も見なかったその表情の奥にはどす黒い感情が透けていた。


 丁度八つ時に、パールはエプロン姿でおぼんを持ってやって来た。

おぼんの上にはチョコレートチップのクッキーがいっぱいに並べられていた。

「クッキー、焼いてみたのでよかったら食べてみて下さい」

チームメイト達はまだ熱宿るそれを頬張り、口々にうまい、おいしいと言った。

「あんたも食べたら? 美味しいわよ」

ミナーヴァに勧められ、ソウもクッキーを一枚手に取った。

初めての味だったが、その味にたちまち魅了され、気づいたら半分ぐらい一人で食べてしまっていた。

「こらこら、みんなの物なのよ! 一人で全部食べないの!」

ミナーヴァに叱責されて正気を取り戻し、ソウは申し訳無さそうに「ごめん」と呟いた。

「まあまあ、良いではないですか」

「もう、パールは優しすぎなのよ!」

ミナーヴァの目にはソウへの苛立ちや非常識への憤りだけでなく、しょんぼりとした彼の姿を見ている内に自然と生まれてしまった、それとは真反対にベクトルを伸ばす感情も僅かに含まれていた。


 夕食は寿司だった。

ミナーヴァ、ジュピター、パールが箸を完璧に使いこなす中、ソウは二本の細い木の棒を前にどうすればいいかわからずに居た。

「手で食えばいいじゃねえか」

ウィルがサーモン握りを口に運びながら言った。

そうは言われても、夕方の一件で怖気づき、ソウは助けを求めて瞳を泳がせていた。

「大丈夫。行儀が悪い訳じゃないから」

ミナーヴァが声を掛けた。

「手で食べなさいよ」

「…君が言うなら」

ソウはトロをつかみ、口に入れた。

途端に全神経に電撃が走り、また指が止まらなくなった。

ミナーヴァは満足気に微笑んでいたが、それ以上にソウを見た父親の笑顔が弾けているのをみると、なんだかまた醜い感情がちらついた。

(あんな顔、娘のあたしには見せたことないのに)

 

 ソウは食後はシャワーを浴び、すぐに眠った。

今日も幸せで平穏な一日だった。

こんな日がいつまでも続けばなぁ、そう思っていた。

 


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