グラディア(旧作)

壱元

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第一章

01-15「主役」

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 三人はダンテを囲んで立っていた。

単体で蛮勇の攻撃を仕掛けても、このレベルの相手には意味をなさないことを悟っていた。

では、どうするか。

道は一つだ。

「あんたたち、行くわよ!」

ミナーヴァ、ソウ、レインは一斉に攻撃を仕掛けた。

二本の矢は牡鹿の角の如く左右に曲がり、

 スタッグホーンショッツ

レインは両腕を脱力させながら敵の死角の中を真っ直ぐ進撃していく。

 ウォーターハンズ

ダンテは顔色一つ変えず、飛んでくる矢を見つめていた。

だが突如としてハンマーを水平に振るう。

すると、凄まじい突風が飛び出し、矢を押し返してくる。

「何よ、これ!」

風の障壁は遂にソウとミナーヴァまで迫り、約7m後方にまで吹き飛ばす。

 ヴェント・ディ・コルパ

その時、レインは既に剣を振り上げていたところだった。

ダンテが一瞬にして身体を回転させ、その勢いのまま武器をぶん回す。

レインは武器で受けるのが最善の手と考えた。

しかし脳裏に先程の苦い光景が浮かび上がった。

 突如ボロボロ崩れて役目を終える愛刀…。

レインは全身を脱力させて地面に倒れた。

 リリースド・パペット。

地面からみて直角になった視線の上を、赤いものが通過していく。

(よし、僕の技はこいつにも通じる!)

レインは敵に足を掛けた。

(なら、このパターンも通用してくれよ!)

だが、その淡い期待に反して、ダンテの身体はびくともしなかった。

ハンマーが持ち上がる。

「ラッ!」

レインは足を解き、素早く後転して逃げた。

耳を劈くような打撃音と地震のような振動が頭のすぐ後ろで響いた。

(危ねえ!)

直ぐ様立ち上がる。

ダンテは追撃に来ない。

冷静に戦況を読解しようとした時、視界の隅に全力疾走中のソウが映った。

 ソウは接近しながら敵の後方に弾幕を張り巡らす。

 スパークス。

ダンテは振り向き、ソウを視界の中央に捕捉した。

だが、矢を避ける素振りは全く見せず、その身に豪雨のような矢を受け止める。

 ダンテ、バリア計21%消失。

(ああ、俺の作戦、バレちゃったんだ)

遠くで「操られ」たミナーヴァが矢を放つ。

矢は凄まじい光、薔薇の花を散らしながら茨とともに襲来する。

 デッドリー・ソーン。

本来なら突き刺さって運命を変える筈だったそれは、あっさり地面に叩き落された。

自ら「最適」な状況を作り出すことでミナーヴァに「デッドリー・ソーン」を撃たせ、

ダンテに痛手を負わせる寸法だった。

だが、敵もさる者。完全に予見されていたようだ。

ただ、副産物として「スパークス」はほぼ全弾命中した。

少しずつだが確実にダメージは与えられる。

(もう一回だ。でもあいつ賢そうだし、多分同じ手は食わないよね。工夫しないとだ)

ソウは再び弓を構えた。

すると、ダンテが突然全力で走り出し、ソウに近付いてくる。

「待て!」

レインも反応し、後からその背中を追う。

ソウは後ろ向きに逃げ、ダンテはそれを追い掛け、更にそれをレインが追う、という慌ただしい構図が完成した。

 「スパークス」を何度も放ち、ダンテに浴びせんとする。

だが、その異常な動体視力及び俊敏性で全て躱してしまう。

ソウは流れるように、また弓を引いた。

やはり「スパークス」の構えだ。

だが今度は少しだけ、指の力の入れ方を変えてある。

(さあ、行け)

矢は放たれてダンテに真っ直ぐ向かっていく。

ダンテは何ら特別に警戒する事も無く、ただ平然と避けた。

その瞬間、矢の軌道がぐにゃりと湾曲し、ダンテの肩を見事に穿つ。

 カービングアロー×スパークス=

                          ライトニング・スネーク

  ダンテ、バリア計30%消失。

(さっき思い付いた事だけど、上手く行ったみたいだね)

だが、閃光のような成功の代償は高くつくのが世の常。

ダンテは既に力を溜めていた。

ハンマーを大きく振ると、あの風が発生する。

 ヴェント・ディ・コルパ

「いや、無理…」

ソウは狂風を全身に受け、勢いよく後方に吹き飛んだ。

接地し、そのまま床をざざざっと滑る。

ようやく止まり、仰ぎ見ると、ダンテは足を止め、そのハンマーを大きく掲げていた。

 フオーコ・デル・プルガトーリオ…

フルは視線を縦横無尽に動かして回り、次の一手を思い付く。

「ミナーヴァ、そのまま撃て。レイン、足止めしてくれ」

レインは頷かなかった。

だが素早くダンテに組み付き、肉体の自由を封じる。

「最初からそのつもりでしたよ」

そしてミナーヴァの方をキッと見て言う、

「僕ごと撃つつもりで、早く!」

「分かった!」

ミナーヴァは既に極限まで弓を引き絞り、必殺の一撃への手筈は整っていた。

「行くわよ!」

ミナーヴァは指を離した。

弦が荒ぶり、花びらと茨を辺りに散らす。

 デッドリー・ソーン!

ダンテはその両腕に力を込め、拘束を振りほどこうとした。

「うぅぅ…!!」

レインも持てる全ての力で抵抗し、辛うじて束縛を続行する。

(何て力だ...! 同じ人間とは思えない…)

力では明らかに分が悪い。

解かれるのも時間の問題だ。

(何か良い策はないか…何か…)

レインは妙案を思いついた。

ダンテが思わず目を見開く。

レインの身体が水のように柔軟になり、岩のように重くなった。

(レインと言ったらこれだろ、「脱力」だろ!)

その時、白い光が見えた。

矢がダンテの身体の中心を完璧に撃ち抜く。

辺りに花弁が風に乗って舞い、白い光の中、時が止まるーー

   「嘘でしょ…」

「あれ?」

ダンテはまだそこに佇んでいた。

「デッドリー・ソーン」は最大火力の一撃。

直撃して立っていた者は、今までたったの一人もいなかったのだ。

レインも信じられない、という顔をしている。

  ダンテ、バリア合計72%喪失。

次の瞬間、束縛が緩まる時を狙ってダンテはレインを投げ飛ばした。

レインは地面に叩きつけられ、とうとう残り少ないバリアも尽きる。

   レイン、退場…。

「私はいつも、人の『格』を確かめてから彼らと手合わせをしています」

ダンテはハンマーを空中に飛ばした。

今度は白く、細長く変形する。

今までとは打って変わって、神々しい造形だ。

同時に服の色も薄黄色に変色していく。

「私はその為、私に攻撃を当てるチャンスを設けることがあります」

映像資料で見た、不可解な動きの正体。

「この試合でも『格』を感じる方に対してはそうさせて頂きました。ですが、ソウさん以外のお二人が『格』を宿していたのは誤算でした」

空中で回っていた武器を掴む。

その手に持っているのは、白く角張った骨組みに、黄金のネオンを輝かせる大弓。

ソウやミナーヴァの「フーギン-004」よりも二回り以上大きい。


ブロウラー⇒レンジャー


 煉獄⇒天国


「素晴らしい『格』をお持ちの御三方、私は全身全霊でお相手することに決めました。さあ、征きますよ」

ダンテは黄金の弦に指を掛け、引く。

「ソウ、やりましょ!」

「うん」

ソウとミナーヴァも弓を引く。

両チームは同時に射出した。

二本の蒼い矢と一本の金色の矢はすれ違い、凄まじい勢いで互いの敵に向かっていく。

ダンテの矢は恐ろしく速い。

ソウ、ミナーヴァは大急ぎで左右に別れて走ってそれを避けた。

二人の放った矢の軌跡が内側に曲がる。

ダンテはそれを上半身を極限まで後方に反らして避けた。

すかさず三人は次なる矢をつがえ、また放つ。

ダンテの矢はミナーヴァに向かってきた。

だが彼女が身構えた瞬間、急転換して弧を描き、ソウの居る方に飛んで行った。

(めちゃくちゃ曲がるじゃん、早く避けないと)

ソウは前方に飛び込み、地面を転がって躱した。すぐ後ろを矢が通り抜けていく。

ソウとミナーヴァの矢は敵に真っ直ぐ進み、回避のタイミングに合わせ、今度は外側に曲がった。

ダンテは後方に宙返りして躱した。

三本目の矢をつがえる。

しかし、すぐ射出したのはソウだけだ。

ミナーヴァとダンテはそれぞれ通常よりも力強く引き絞り、必殺技の準備中。

3秒後、ミナーヴァが先に矢を放つ。

 デッドリー・ソーン。

その超高速で遅れた出ながらソウの「カービングアロー」と合わさり、敵にぶつかる。

複雑な攻撃だが、ダンテは横に走って軽々回避する。

(こっちの狙い、完全に読まれているわね)

ダンテの矢の先端には、黄金の光が結集していた。

そして指を離すと同時に一本の太い光線となって空中に飛び出す。

 ラ・ステッラ

黄金の光線は「デッドリー・ソーン」よりも、ダンテの通常射撃の矢よりも、何倍も速くソウに近付いて来る。

ソウが走り出した時、その速度を維持したまま軌道を曲げる。

ミナーヴァは驚愕し、絶望した。

(あんなの、無理よ。避けられない)

光線はソウにどんどん迫っていく。

(逃げられないな、これ。じゃあこうするか)

ソウはレインを脳裏に思い浮かべた。

全身の力を抜き、地面にへにゃっと落ちる。

光線はその上を突き抜けていった。

その光景に一番驚いたのはダンテでも、ベンチのレインでもなく、ミナーヴァだった。

(土壇場で真似したっての…!? 何よりあれ…)

「ミナーヴァ!」

突如ソウの声が響く。

見ると、敵の矢が飛んで来ていた。

遅れて反応した彼女は避けきれず、肩に被弾する。

   ミナーヴァ、バリア72%消失。

「ミナーヴァ、俺が敵を引き付ける。だから、必殺技を使え」

ソウの声に頷く。

(今度もまたあたしを操ったつもりかしら? 確かにあんたは凄いけれど…)

真っ直ぐな目で走り回るソウ。

(あいつを引きつけるのは流石に無理よ)

ミナーヴァは思い切り引き絞り、「デッドリー・ソーン」を準備する。

(どっちみち試合には勝てない。だったら最後にわざとあんたの計画に乗っかって、あんたの能力を反証してから終わってやる!)

ダンテはソウに矢を向けていた。しかし、ミナーヴァの脅威に気付くとすぐに対象をそちらに変えた。

(ほら見ろ、もうあんたの計画は破綻よ)

ソウは気付く様子も無く、敵の方にただ走り回っている。

(最後の最後にしくじったわね…)

敵の矢が光に包まれ、太い光線に変質する。

ミナーヴァに真っ直ぐ放たれる。

その時、ソウは急加速してダンテに近付き、右腕を振り上げた。

その手には…「ヘイト・ブレイド」が握りしめられていた。

「はあああああ!!!!」

ダンテが気付いた時、鮮やかな水色の刃は既に身体に触れていた。

バリアをバリバリと切り裂き、全てを破壊する。

全てを終えたソウは、満足気な表情でミナーヴァへと視線を送った。

(え…?)

視線を正面に戻した時、視界全体に光が見えた。

(全部、あんたの掌の上だったって訳ね。あたしが計画失敗って思い込むのも、驕って敵に注目されるのも、その結果あんたが一瞬自由になるのも…)

「いや」とミナーヴァは呟いた。

この試合の全ての瞬間、全ての時…思えば行動の起点には必ずソウが居た。

(最初から全部あんたの物だったのか…この試合の主役は…ダンテあいつでも、ミナーヴァあたしでもなく、ソウあんただったのね…)

「これは…負けたわ」

ミナーヴァは敵の攻撃を受け、退場した。

フィールドには、ただ一人、ソウだけが立っていた。

まるで舞台の主役の様に、スポットライトと観客の視線を独り占めしていた。






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