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第二章
02-01「テスト」
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道路標識のネオンが一本の線になって通り過ぎていく。
かれこれ一時間は走行し続け、気付けば時刻は十一時を回っていた。
「どうする?」
ヴィヴィアンが気怠げに訊いてくる。
「何が?」
ソウはその意味する所を尋ね返した。
「飯だ。あと一時間で向こうに着く。そこで食うか、その前にどこかに寄るかだ。どっちがいい?」
以前、仲間達と食べた時、レストランでの食事はとても美味しかった印象が残っている。
カローラは寮での食事も良かったが、聞いた限りではDHLの食事はそんな大層なものじゃ無さそうだ。
「じゃあ途中で食べたい」
「わかった」
運転手はハンドルを切り、少し先の店の駐車場に停めた。
「さあ行くぞ」
降車してみて分かった。
黒と橙の軍服にベレー帽を被った黒髪のアラサー、というヴィヴィアンの容姿は目立つ。
他の客とは異質だった。
それなりに人気な西洋料理店で、その名物はポトフ。
確かに美味しかった。
だが、あの時みんなで食べた物の方がずっと美味に思える。
ただの好みや料理の質品質だけの問題ではないのは、ソウも感じていた。
「どうした?」
浮かない顔をしていたのだろうか、ヴィヴィアンに心配されてしまった。
心配といってもその口調も表情も何一つ機械のように変わらないが。
「何でもないよ」
「…仲間との別れが悲しいか?」
「!」
ソウが図星を当てられてその表情を分かりやすく変化させた時、ヴィヴィアンは初めて笑った。
「こういうのは案外人間を見ていると分かるものだぞ。私は現役の頃、それを頼りにして戦っていた」
「へえ、監督も選手だったんだ」
「当然だ。我がクラブの従業員の大半がここに来るまで何らかの形でグラディアには関わっている。特にコーチや監督ともなればリーグで戦った経験は必須だ」
「そうなんだ」
ソウの目が鋭く光る。
「じゃあ、ロキについても、知っているの?」
ロキは有名だ。一般人でさえあんなに当たり前のようにその名を知っていたんだから、少しくらいは情報を持っているはずだ、と少年は推理した。
「ん?」
ヴィヴィアンは不思議な顔をした。
「ロキ? あいつとお前とに何の繋がりがある?」
「ロキからグラディアを教わったんだ」
「ほう…」
ヴィヴィアンの顔には一切の心情変化が見られなかった。だが、ソウの発言に何か感じたのは確かだった。
「教えてやれないこともない」
「本当?」
「ただし、条件がある。…察するに、お前の目的はそれだろう。だからこちらもそれを使わずただ放っておく訳にはいかない」
「条件、何?」
ヴィヴィアンは軍服のポケットから、掌大のデバイスを取り出し、電源を入れた。
「これだ。見ろ」
そこには立派なトロフィーの画像が映っていた。
「これは?」
「『セクンダ・リーガ』優勝トロフィーだ。お前にはこれをもぎ取ってもらう。もし私の契約に応じたら、使えるものは全部使って、何でも好きな情報をくれてやる。…あいつの死の真相もな」
それを聞いてソウの目は輝いた。
「分かった。俺、やるよ」
ヴィヴィアンは目を閉じて静かに頷いた。
そしてまた開眼し、厳格にソウを見つめる。
「だがその前に、分かっているな? お前はまだ入団さえ決定していない、言わば候補に過ぎない。この後の入団テスト次第でお前の処遇はどうとでも決められる」
「わかってる。まずは合格しないと二軍としての採用さえないかもしれないんでしょ?」
「そうだ。お前の実力を知っている。だが、我々の用意した条件に適合すると証明できなければ不要と判断する。均衡を壊し、チーム全体の能力を落とすマイナス因子になる可能性があるからだ」
二人は店を出て乗車した。
「まずは勝て。話はそれからだ」
「うん」
車はディスティニーヒルに入る。
「ホイール・オブ・フォーチュン・スタディウム」を通り過ぎ、さらに先にある真っ白な大きな施設と巨大なドームを望む。
ヴィヴィアンの車はこの施設の駐車場に停められると、すぐに全自動式で地下に格納された。
「付いてこい」
暗い地下駐車場の通路を、ヴィヴィアンに導かれるまま歩いて行く。
そのうち大きなドアが見えた。
隣に併設されたスキャナーにカードキーを差し込み、開扉する。
途端に、白い強烈な明かりがソウの目に突っ込んでくる。
内部塗装も真っ白で、暗地からのギャップもあるだろうが、驚くほど明るい。
中には、計十人の、十代から二十代の男女がいた。
その勇敢な面構えから、ソウは一目で彼等が自分と同じ立場の人間だと分かった。
よく見ると、見知った顔が一つあった。
元「ムーンライト・ナイツ」のルナだ。
彼女はこちらを見ると、小さく手を振った。
「これで全員だ」
ヴィヴィアンが閉まりゆくドアを背に、そう言った。
「はい」
すると奥から返事が聞こえる。
返事の主は薄紫色の縮れ髪を持つ優しげな青年。
ソウは彼の正体が「監督補佐兼コーチ」のレオンであることは、事前に知らされていた。
彼はインカムに電源を入れると、「あー、あー」と声を出してみた。
機能性を確認し終えると、レオンが話し始める。
「こんにちは、ようこそお越しくださいまして、ありがとうございます。事前にお知らせした通り、皆さんには当グラディア・クラブチーム、『デスティニー・ヒル・ライオンズ』の入団テストを受け、自身が僕たちの求める人材であることを証明してもらいます。早速始めますので、こちらへ」
レオンの隣にある巨大な扉が開く。
選手たちはその中へと入っていく。
中には更衣室への二つの入り口と、ルームランナーや筋力測定器具が多く並ぶ部屋へと通じる廊下がある。
「みなさんには、更衣室で測定用の衣服に着替えて頂きます。それが済みましたら、そのまま基礎体力の測定を行ってもらいます」
閉じられた扉の前、挑戦者達の後ろでレオンが説明を続けた。
ソウは一つ引っ掛かっていたが、ひとまず着替えることにした。
挑戦者たちが、着替え終わって出てくる。
ジャージにも似た動きやすい服には、センサーが多数取り付けられていた。
「では、ランニングマシンに乗って下さい。できるだけ長く走り続けて下さい。ただし、一定時間ごとに負荷を上げます」
まるでカローラでの役割決定の時のようだ、とソウは思った。
持久力には自信がある。
ソウは得意げにテストを開始した。
全員の体力、筋力測定が終わった。
筋力測定は未知の体験だったが、十分にこなすことが出来た。
高級クッションがたくさん置かれた休憩室でくつろいでいた時、ルナが近くにやって来た。
「久しぶりだな。隣、座ってもいいか?」
「うん」
ルナは寝転んでいるソウの隣に座り、興味津々な様子で話しかけてきた。
「ソウ、一つ尋ねてもいいか?」
「何?」
「どうしてお前はここに? 元いた場所をどうして離れた?」
「リーグが始まる前にこことの交流試合があって、その時にヴィヴィアンが俺に提案してきたんだ。ここに来ないかって。それで、メールを使って色々話して合意したから辞めてきた」
「契約期間が切れたのか? お前はかなり新人のようだが」
「なんか契約期間の規定がなかったから、すぐ辞めてきたよ」
「ん? ちょっと待ってくれ」
ルナは深呼吸を一つした。
「どうして、規定がなかったんだ?」
「監督が書くの忘れてたらしい」
「え!?」
そう答えたきり、ルナが何も言わなくなってしまったので、ソウは不審に思ってその顔を見た。
ルナは漫画のキャラクターのように目と口をまん丸に開き、「信じられない!」と言いそうな表情をしていた。
「失礼」
首を横に振り、またクールな様子を取り戻す。
「そのようなこともあったのだな。遅かれ早かれ、どこかで支障は出ていただろうからこの時分での退団は称賛に値すると言えよう。契約時に目を通さなかったのか?」
「契約したときは識字が無かったんだ。契約してから文字が読めるようになったから、気付いたんだ」
「そうだったのか、無神経で申し訳なかった」
「いいよ別に。それよりも、ルナはどうしてここに来たの?」
「ああ、丁度契約期限が切れて自由になったんだ」
「へー。偶然だけど、また会えて嬉しいよ」
その言葉を聞いた時、ルナは一瞬目を丸くし、それから頬を緩ませた。
「そうだな、こちらこそ再び会えて嬉しいぞ。それも今度は志を同じくする仲間として。未熟者だが、よろしく頼む」
「うん。よろしく」
テストはいよいよ後半戦へ。
「次に、実際の試合の中での皆さんの動きを見せてもらいます」
候補生達は装備を装着し、ドーム内部に来ていた。
契約上の役割を基に、二つのチームに分かれ、五人対五人、制限時間二十分間で試合を行う、ということらしい。
「勝敗は関係ありません。試合の中で、皆さんがどの様に行動するのかを重視します。では、頑張ってください」
ジョーカー:ソウ
ブロウラー:ルナ
ディフェンダー:ジャック
サポーター:アルベルト
アサシン:ジュリア
VS
ジョーカー:ジャン
ブロウラー:ホルヘ
アサシン:アレックス
レンジャー:フランソワ
サポーター:カトリーヌ
「同じチームか、共闘できて光栄だぞ」
「うん」
言葉を交わすと、ルナとソウは自分の持ち場へと離れていった。
こちらのチームはルナとジャックが前衛、ジュリアとソウが中衛、アルベルトが後衛。
相手はジャンとホルヘ、アレックスが前衛、フランソワとカトリーヌが後衛だ。
装備は同系の物を使用し、性能面は公平。
ソウは「リュウモン社」製「ストロングボウ-参式」を構えた。
ゴングが鳴らされ、開戦を知らせる。
ソウは誰よりも速く走り出した。
誰も居ない右手側に飛び出し、カトリーヌに標準を合わせる。
「そうはさせねえぜ!」
アサシンのアレックスが左手側から素早く走って近づいてくる。
ソウはアレックスに矢を向けながら後方へ走り、距離を取ろうとする。
だが、DHLにスカウトされただけあって、速い。
ソウは徐々に距離を詰められた。
「よっしゃ、頂き!」
間合いに入る直前、刃を持った腕を持ち上げる。
相手の意識は完全に攻撃に向いている、ソウは考えた。
下半身を脱力させ、同時に上半身をそらす。
ダイナミックに攻撃を避け、無防備になった敵の額に、至近距離から矢を叩き込む。
「お?」
アレックス、リタイア
矢を構えながら立ち上がる。
見ると、ルナが敵側のブロウラー:ホルヘと戦っていた。
思い切り振り回された大剣。
ルナはロングソードで軽く受け流し、流れるように肩に斬撃、そして腹に刺突を見舞う。
バリアを完全に破壊し、相手を消失させる。
ルナやソウはノッているが、他はそうではない。
こちらも既にディフェンダーのジャックがレンジャー:フランソワとホルヘによって倒され、アサシンのジュリアもフランソワの手によってバリアの56%を早くも失っている。
(問題はあいつだな…)
ソウはフランソワに狙いを定めた。
その時、視界の中をルナが駆け抜けていくのが見えた。
それに気付いたサポーター:アルベルトが、ルナの次の攻撃を強化する。
一方、肝心のフランソワはルナを気に留めず、弱ったジュリアへの追撃に全注意を注いでいる。
だが防御や妨害が得意なジョーカー:ジャンはルナの進撃に気付き、それを妨げようとしている…
(俺の行動次第で、みんなの考えたことがどれぐらい上手く進むのか、決まるんだ)
だとしたら、こうしよう。
ソウはジュリアとフランソワの間に入った。
唖然とするフランソワに向けて射撃する。
標的は慌てて姿勢を低くする。
すると、矢の軌道が大きく左に逸れ、なんとジャンに当たった。
防御のためにジャンの動きが一瞬停止し、同時にジュリアがソウの背後から出て来て、フランソワの方に向かっていく。
「感謝するぞ、ソウ」
ルナが先にフランソワの居る所に到達し、敵に反応させる間もなく素早い突きを放つ。
正確に心臓のあたりを刺し、退場させる。
フランソワ、リタイア。
ジュリアはサポーター:カトリーヌ討伐へ赴き、ルナは後方から襲い来るジャンとの抗戦を開始した。
(あれ、このテストの目的って、俺の凄さを見せることだよね。じゃあもう一回やっておくか)
ソウは再び曲がる矢を発射した。
矢はジャンを横から突き刺し、ルナが直撃を与え得る一瞬の間を作り出した。
ルナは手首を柔らかく使って剣を回転するように振り回し、盾の隙間を鋭く切り裂いた。
その時、向こうではジュリアもカトリーヌに一撃かまし、沈黙させた。
敵は居なくなった。
戦闘勝利
かれこれ一時間は走行し続け、気付けば時刻は十一時を回っていた。
「どうする?」
ヴィヴィアンが気怠げに訊いてくる。
「何が?」
ソウはその意味する所を尋ね返した。
「飯だ。あと一時間で向こうに着く。そこで食うか、その前にどこかに寄るかだ。どっちがいい?」
以前、仲間達と食べた時、レストランでの食事はとても美味しかった印象が残っている。
カローラは寮での食事も良かったが、聞いた限りではDHLの食事はそんな大層なものじゃ無さそうだ。
「じゃあ途中で食べたい」
「わかった」
運転手はハンドルを切り、少し先の店の駐車場に停めた。
「さあ行くぞ」
降車してみて分かった。
黒と橙の軍服にベレー帽を被った黒髪のアラサー、というヴィヴィアンの容姿は目立つ。
他の客とは異質だった。
それなりに人気な西洋料理店で、その名物はポトフ。
確かに美味しかった。
だが、あの時みんなで食べた物の方がずっと美味に思える。
ただの好みや料理の質品質だけの問題ではないのは、ソウも感じていた。
「どうした?」
浮かない顔をしていたのだろうか、ヴィヴィアンに心配されてしまった。
心配といってもその口調も表情も何一つ機械のように変わらないが。
「何でもないよ」
「…仲間との別れが悲しいか?」
「!」
ソウが図星を当てられてその表情を分かりやすく変化させた時、ヴィヴィアンは初めて笑った。
「こういうのは案外人間を見ていると分かるものだぞ。私は現役の頃、それを頼りにして戦っていた」
「へえ、監督も選手だったんだ」
「当然だ。我がクラブの従業員の大半がここに来るまで何らかの形でグラディアには関わっている。特にコーチや監督ともなればリーグで戦った経験は必須だ」
「そうなんだ」
ソウの目が鋭く光る。
「じゃあ、ロキについても、知っているの?」
ロキは有名だ。一般人でさえあんなに当たり前のようにその名を知っていたんだから、少しくらいは情報を持っているはずだ、と少年は推理した。
「ん?」
ヴィヴィアンは不思議な顔をした。
「ロキ? あいつとお前とに何の繋がりがある?」
「ロキからグラディアを教わったんだ」
「ほう…」
ヴィヴィアンの顔には一切の心情変化が見られなかった。だが、ソウの発言に何か感じたのは確かだった。
「教えてやれないこともない」
「本当?」
「ただし、条件がある。…察するに、お前の目的はそれだろう。だからこちらもそれを使わずただ放っておく訳にはいかない」
「条件、何?」
ヴィヴィアンは軍服のポケットから、掌大のデバイスを取り出し、電源を入れた。
「これだ。見ろ」
そこには立派なトロフィーの画像が映っていた。
「これは?」
「『セクンダ・リーガ』優勝トロフィーだ。お前にはこれをもぎ取ってもらう。もし私の契約に応じたら、使えるものは全部使って、何でも好きな情報をくれてやる。…あいつの死の真相もな」
それを聞いてソウの目は輝いた。
「分かった。俺、やるよ」
ヴィヴィアンは目を閉じて静かに頷いた。
そしてまた開眼し、厳格にソウを見つめる。
「だがその前に、分かっているな? お前はまだ入団さえ決定していない、言わば候補に過ぎない。この後の入団テスト次第でお前の処遇はどうとでも決められる」
「わかってる。まずは合格しないと二軍としての採用さえないかもしれないんでしょ?」
「そうだ。お前の実力を知っている。だが、我々の用意した条件に適合すると証明できなければ不要と判断する。均衡を壊し、チーム全体の能力を落とすマイナス因子になる可能性があるからだ」
二人は店を出て乗車した。
「まずは勝て。話はそれからだ」
「うん」
車はディスティニーヒルに入る。
「ホイール・オブ・フォーチュン・スタディウム」を通り過ぎ、さらに先にある真っ白な大きな施設と巨大なドームを望む。
ヴィヴィアンの車はこの施設の駐車場に停められると、すぐに全自動式で地下に格納された。
「付いてこい」
暗い地下駐車場の通路を、ヴィヴィアンに導かれるまま歩いて行く。
そのうち大きなドアが見えた。
隣に併設されたスキャナーにカードキーを差し込み、開扉する。
途端に、白い強烈な明かりがソウの目に突っ込んでくる。
内部塗装も真っ白で、暗地からのギャップもあるだろうが、驚くほど明るい。
中には、計十人の、十代から二十代の男女がいた。
その勇敢な面構えから、ソウは一目で彼等が自分と同じ立場の人間だと分かった。
よく見ると、見知った顔が一つあった。
元「ムーンライト・ナイツ」のルナだ。
彼女はこちらを見ると、小さく手を振った。
「これで全員だ」
ヴィヴィアンが閉まりゆくドアを背に、そう言った。
「はい」
すると奥から返事が聞こえる。
返事の主は薄紫色の縮れ髪を持つ優しげな青年。
ソウは彼の正体が「監督補佐兼コーチ」のレオンであることは、事前に知らされていた。
彼はインカムに電源を入れると、「あー、あー」と声を出してみた。
機能性を確認し終えると、レオンが話し始める。
「こんにちは、ようこそお越しくださいまして、ありがとうございます。事前にお知らせした通り、皆さんには当グラディア・クラブチーム、『デスティニー・ヒル・ライオンズ』の入団テストを受け、自身が僕たちの求める人材であることを証明してもらいます。早速始めますので、こちらへ」
レオンの隣にある巨大な扉が開く。
選手たちはその中へと入っていく。
中には更衣室への二つの入り口と、ルームランナーや筋力測定器具が多く並ぶ部屋へと通じる廊下がある。
「みなさんには、更衣室で測定用の衣服に着替えて頂きます。それが済みましたら、そのまま基礎体力の測定を行ってもらいます」
閉じられた扉の前、挑戦者達の後ろでレオンが説明を続けた。
ソウは一つ引っ掛かっていたが、ひとまず着替えることにした。
挑戦者たちが、着替え終わって出てくる。
ジャージにも似た動きやすい服には、センサーが多数取り付けられていた。
「では、ランニングマシンに乗って下さい。できるだけ長く走り続けて下さい。ただし、一定時間ごとに負荷を上げます」
まるでカローラでの役割決定の時のようだ、とソウは思った。
持久力には自信がある。
ソウは得意げにテストを開始した。
全員の体力、筋力測定が終わった。
筋力測定は未知の体験だったが、十分にこなすことが出来た。
高級クッションがたくさん置かれた休憩室でくつろいでいた時、ルナが近くにやって来た。
「久しぶりだな。隣、座ってもいいか?」
「うん」
ルナは寝転んでいるソウの隣に座り、興味津々な様子で話しかけてきた。
「ソウ、一つ尋ねてもいいか?」
「何?」
「どうしてお前はここに? 元いた場所をどうして離れた?」
「リーグが始まる前にこことの交流試合があって、その時にヴィヴィアンが俺に提案してきたんだ。ここに来ないかって。それで、メールを使って色々話して合意したから辞めてきた」
「契約期間が切れたのか? お前はかなり新人のようだが」
「なんか契約期間の規定がなかったから、すぐ辞めてきたよ」
「ん? ちょっと待ってくれ」
ルナは深呼吸を一つした。
「どうして、規定がなかったんだ?」
「監督が書くの忘れてたらしい」
「え!?」
そう答えたきり、ルナが何も言わなくなってしまったので、ソウは不審に思ってその顔を見た。
ルナは漫画のキャラクターのように目と口をまん丸に開き、「信じられない!」と言いそうな表情をしていた。
「失礼」
首を横に振り、またクールな様子を取り戻す。
「そのようなこともあったのだな。遅かれ早かれ、どこかで支障は出ていただろうからこの時分での退団は称賛に値すると言えよう。契約時に目を通さなかったのか?」
「契約したときは識字が無かったんだ。契約してから文字が読めるようになったから、気付いたんだ」
「そうだったのか、無神経で申し訳なかった」
「いいよ別に。それよりも、ルナはどうしてここに来たの?」
「ああ、丁度契約期限が切れて自由になったんだ」
「へー。偶然だけど、また会えて嬉しいよ」
その言葉を聞いた時、ルナは一瞬目を丸くし、それから頬を緩ませた。
「そうだな、こちらこそ再び会えて嬉しいぞ。それも今度は志を同じくする仲間として。未熟者だが、よろしく頼む」
「うん。よろしく」
テストはいよいよ後半戦へ。
「次に、実際の試合の中での皆さんの動きを見せてもらいます」
候補生達は装備を装着し、ドーム内部に来ていた。
契約上の役割を基に、二つのチームに分かれ、五人対五人、制限時間二十分間で試合を行う、ということらしい。
「勝敗は関係ありません。試合の中で、皆さんがどの様に行動するのかを重視します。では、頑張ってください」
ジョーカー:ソウ
ブロウラー:ルナ
ディフェンダー:ジャック
サポーター:アルベルト
アサシン:ジュリア
VS
ジョーカー:ジャン
ブロウラー:ホルヘ
アサシン:アレックス
レンジャー:フランソワ
サポーター:カトリーヌ
「同じチームか、共闘できて光栄だぞ」
「うん」
言葉を交わすと、ルナとソウは自分の持ち場へと離れていった。
こちらのチームはルナとジャックが前衛、ジュリアとソウが中衛、アルベルトが後衛。
相手はジャンとホルヘ、アレックスが前衛、フランソワとカトリーヌが後衛だ。
装備は同系の物を使用し、性能面は公平。
ソウは「リュウモン社」製「ストロングボウ-参式」を構えた。
ゴングが鳴らされ、開戦を知らせる。
ソウは誰よりも速く走り出した。
誰も居ない右手側に飛び出し、カトリーヌに標準を合わせる。
「そうはさせねえぜ!」
アサシンのアレックスが左手側から素早く走って近づいてくる。
ソウはアレックスに矢を向けながら後方へ走り、距離を取ろうとする。
だが、DHLにスカウトされただけあって、速い。
ソウは徐々に距離を詰められた。
「よっしゃ、頂き!」
間合いに入る直前、刃を持った腕を持ち上げる。
相手の意識は完全に攻撃に向いている、ソウは考えた。
下半身を脱力させ、同時に上半身をそらす。
ダイナミックに攻撃を避け、無防備になった敵の額に、至近距離から矢を叩き込む。
「お?」
アレックス、リタイア
矢を構えながら立ち上がる。
見ると、ルナが敵側のブロウラー:ホルヘと戦っていた。
思い切り振り回された大剣。
ルナはロングソードで軽く受け流し、流れるように肩に斬撃、そして腹に刺突を見舞う。
バリアを完全に破壊し、相手を消失させる。
ルナやソウはノッているが、他はそうではない。
こちらも既にディフェンダーのジャックがレンジャー:フランソワとホルヘによって倒され、アサシンのジュリアもフランソワの手によってバリアの56%を早くも失っている。
(問題はあいつだな…)
ソウはフランソワに狙いを定めた。
その時、視界の中をルナが駆け抜けていくのが見えた。
それに気付いたサポーター:アルベルトが、ルナの次の攻撃を強化する。
一方、肝心のフランソワはルナを気に留めず、弱ったジュリアへの追撃に全注意を注いでいる。
だが防御や妨害が得意なジョーカー:ジャンはルナの進撃に気付き、それを妨げようとしている…
(俺の行動次第で、みんなの考えたことがどれぐらい上手く進むのか、決まるんだ)
だとしたら、こうしよう。
ソウはジュリアとフランソワの間に入った。
唖然とするフランソワに向けて射撃する。
標的は慌てて姿勢を低くする。
すると、矢の軌道が大きく左に逸れ、なんとジャンに当たった。
防御のためにジャンの動きが一瞬停止し、同時にジュリアがソウの背後から出て来て、フランソワの方に向かっていく。
「感謝するぞ、ソウ」
ルナが先にフランソワの居る所に到達し、敵に反応させる間もなく素早い突きを放つ。
正確に心臓のあたりを刺し、退場させる。
フランソワ、リタイア。
ジュリアはサポーター:カトリーヌ討伐へ赴き、ルナは後方から襲い来るジャンとの抗戦を開始した。
(あれ、このテストの目的って、俺の凄さを見せることだよね。じゃあもう一回やっておくか)
ソウは再び曲がる矢を発射した。
矢はジャンを横から突き刺し、ルナが直撃を与え得る一瞬の間を作り出した。
ルナは手首を柔らかく使って剣を回転するように振り回し、盾の隙間を鋭く切り裂いた。
その時、向こうではジュリアもカトリーヌに一撃かまし、沈黙させた。
敵は居なくなった。
戦闘勝利
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