グラディア(旧作)

壱元

文字の大きさ
25 / 27
第二章

02-02「協働」

しおりを挟む
 結果は明日出る。

「来い。今日だけ選手寮の一室を貸してやる」

ヴィヴィアンに助けられた。

今のソウに帰る場所は無いからだ。

「だが、選手や職員との接触が審査に影響を与えないとも限らない。必要な物はやろう、だから部屋から出るな」

「わかった」

ソウはカードキーを受け取って「001」号室のドアを開けた。

全てが広い。

それに、洗面所、風呂、便所、寝室に人生初のテレビまで、全て揃っている。

ソウはあの時のようにベッドにダイブした。

ベッドはカローラの物よりももっとふかふかで、より高級なのが直感できた。

怠惰に寝そべったまま、その長い腕を伸ばして

リモコンを手に取り、ボタンを眺める。

その形や大きさ、色から機能を考察し、「電源ボタン」と思われる物を指の腹で軽く押し込む。

すると、大きなスクリーンに光が宿る。

流れたのは、「第4区」での企業ビル爆破事件の中継だった。

炎とネオンが夜の街を照らし、防具に身を包んだレポーターの後ろを血塗れの人がよろめきながら歩いている。

(へえ、「第4区」は治安が良いって師匠言ってたけど、こんなこともあるんだ…)

そんな事を思っていると、ドアをノックする音がした。

    開けてみると、そこには人型のロボットが立っていて、夕食を渡してきた。

(どうやって食べるんだろ、これ)

黄色いトロトロしたスープと平たい丸パンを前に、ソウは思案した。

考えた末、まずは別々に食べてみる。

スープは辛く、濃厚で、何やら複雑ないい匂いがする。

だが、単体では塩気が強いと感じられる。

(こっちは…)

パンを千切り、頬張る。

香ばしいが、これだけでは物足りない。

(じゃあこうだ)

千切ったパンにスープを付け、口の中へ運ぶ。

程よい塩気と辛味、しっくりくる食感…

(あ、これだ)

大正解。


 風呂に入って暖まり、快適なベッドの上に寝転んだままバラエティ番組を観る。

(合格出来るといいな。だってこんなに快適なんだし)

少年はその鋭敏な五感全てを幸せに包まれ、いつの間にか夢の中へ落ちていった。


 午前十時、選手達は広間に集められた。

どうやら、遠方から来た何人かの選手も昨夜は宿舎を利用したらしい。

(幸せな生活、手に入るかな…?)

勿論ソウは「使命」を忘却した訳ではない。

この合否がロキの死の真相への接近や夢の実現の可否を分けるのだ。

ヴィヴィアンとレオンが全員に書類用の小型デバイスを配布する。

「合否と契約内容が記載されています。解散後、合格者は指定された時間にこちらにいらして下さい」

選手達が次々出ていく。

広間の方を振り返り、ルナは安心したように微笑んだ。

広い部屋の中心には、ただ一人、ソウだけが残った。

「で、俺が最初なの?」

指定された時間は十時十分。現在時刻と一致する。

「ああ、そうだ」

ヴィヴィアンが頷く。

「我がクラブでは伝統的に、最優秀合格者が最初に招集される。お前は今回の候補者の中で最も優れていた。だから呼んだんだ」

「どうして?」

ソウの口から出たのは、純粋な疑問の声だった。

「俺よりもルナの方が優秀じゃないの?」

「…確かに、あいつは基礎能力ではお前より一枚上手だ。だが…」

ヴィヴィアンは力強くソウを見つめた。

「お前には他の連中が一生掛かっても手に入れられない特別な能力がある。敵味方の行動を予知して戦況を最適な方向へと導く、というのは現在このクラブでお前だけがなせる芸当だ。そこに私は付加価値を見出した。そういう事だ」

「監督がこんなにべた褒めするなんて、珍しいですよ。ソウさん本当に凄いです」

レオンも笑顔で賞賛をくれる。

こうして、ソウの「デスティニーヒル・ライオンズ」での生活が始まったのだった。


 午後六時。

灰色の前髪で左目を隠す小柄な少女:ラエタは部屋で武器の手入れをしていた所を、突如呼び出された。

一人、静かで暗い廊下を歩いて会議室へ向かう。

   扉を開けると、強い光に包まれ、見慣れた仲間たちの顔が見えた。

既に全員揃っているようだ。

(一体なんだろ…)

その憂いを帯びたオニキスのような眼を前方に向けた時、瞳に光が宿った。

「今日から我がチームに加わる、ジョーカーのソウとブロウラーのルナだ。仲良くしてやって欲しい」

(あの綺麗な人…!)

 交流試合。

彼女のキャリアにおいて、初見の相手の中で初めて攻撃の察知をしてきたソウ。

上半身を翻して反撃を放つその姿は、まるで花弁に包まれて現世に現れた、天使の様だった。

ラエタが胸をときめかせていると、いつの間にか紹介は終わり、解散した。

ラエタはすぐにソウに近付こうとしたが、監督と共に皆と逆方向へ行ってしまったのを見て、少しガッカリした。

でも、憧れの彼がここに来たという事実だけでラエタは満腹だった。

 「何が必要だ?」

空中に何枚ものホログラムが投影された部屋、通称「管理室」にてヴィヴィアンが問いかけてくる。

「それは、これからの戦闘で必要な備品という事ですか?」

ルナが質問する。

「そうだ。ここに来たのは在庫と保存状態を確認する為だ。もし今DHLに無くてもお前が欲するなら購入、何なら特注だって検討してやろう」

ソウ、ルナは少なくともチームに馴染むまでは二軍だが、ヴィヴィアンは二人の一軍への昇格にも意欲的だ。

ここでも手厚いフォローをしてくれる。

「俺は大丈夫」

ソウは答えた。

「契約で『備品の所有者は選手』って決まってたから、向こうから一式持ってきた」

お前は? とルナの方を向いて一瞬顎を上げる。

「そうですね…」

ルナは数々の希望する装備を挙げていった。

「いいのか? もう一段性能が上の物も買えるぞ」

「そうですか、ですが、まずはかつて使用していた装備で様子を見たいのです」

監督の目が、鋭く光る。

「高級品をねだると気が引けるか?」

ルナはそう言われて、明らかに驚いた。

「そう、ですね。よく分かりましたね…」

「人を観るのは得意なものでな。…安心しろ、お前の元居た所よりも二十倍以上資本がある。お前が何を買おうと痛くない」

「そうですか、でしたら少し考えさせて下さい…」

「今日の練習はどうする?」

そう。これから三十分程度、所属選手との合同練習試合があるのだ。

「今日はこれを使わせて貰いたいです」

ルナはMLKでのそれに良く似た装備達を指定した。

「レオンが案内するから、先行っていろ。ルナの装備はすぐに向こうに配達する」

「了解」

「わかった」

 廊下ではヴィヴィアン言う通りレオンが待機していて、二人を練習会場である、あの大きなドームの中へと導いた。

 ドームの中には既に参加者が揃っていた。

ドームは殆どスタディウムと同規模で、模擬試合には打って付けだ。

ガシッ…ガシッ…

物音に振り返ると、そこには昨日の人型ロボットが立っていた。

ロボットは挨拶をして荷物を置き、去っていった。

 ソウとルナはそれぞれ着替えた。

今回の参加者はソウ、ルナ、それからマークとラエタ。

「今回のチームを発表します」

後からやって来た監督の横で、レオンが言う。

「今回の練習では近接攻撃と遠距離攻撃の連携、同時に初めて組む相手との連携を磨いて頂く為…」

「ルナとマーク、ラエタとソウでやって貰う」

ヴィヴィアンにそう告げられた時、ラエタは思わず目を見開いた。

そんなラエタの元に、ソウが自らやって来る。

「俺ソウ、よろしく」

「は、はい。よろしくお願いします。ラエタです…」

隣に並んで思わずニヤけるが、こうしては居られない。

「あの…」

ラエタはこの「憧れの人」の為に、自分の出来る最大限の協力をしようと思った。

「何?」

「今回の作戦、なんですけど…」


 ヴィヴィアンが座り、レオンが電子ゴングを鳴らす。

試合が始まった。

開始早々、ソウはルナに一射放った。

「甘い!」

ルナは当然の如くレイピアで撃墜し、一気に近づいてくる。

反応して、ソウは距離をとる為に「横へ」走り出す。

マークの視界の中に突如ソウが出現する。

マークはすぐさま照準をソウに当てて発砲し、正確に額を撃ち抜く。

ソウは首と上半身を素早く後ろに反り、何とか回避する。

すると、追い付いたルナが体重の乗った素早い突きを繰り出し、ソウの腹に直撃する。

 ソウ、バリア49%消失

だが、ソウは構わずマークに向けて反撃の一矢を飛ばす。

なんて事ない。

マークは地面に伏せて危なげなく回避する。

…その時だった。

マークはその鋭い感覚で、背後に立つ真っ黒な影を感じた。

振り向いた時にはもう遅い。ラエタはマークのうなじに短剣を突き刺していた。

「…やられたぜ」

マークは散った。

 ソウはラエタの様子を密かに一瞥し、地面をドッと強く蹴って、一気に遠く後方へと跳び退いた。

ルナはその後を追おうとしたが、ソウの顔を見て、寸前で動作を止めた。

「なるほどな」

そう言うと、身体ごといきなり振り向き、突きを見舞った。

「わっ」

ラエタは辛うじて反応でき、後方にくるりと宙返りして避けた。

「危なかった。今回はお前の相方の視線の動きで分かったが、技術次第ではここまで気配を消せる物なのだな」

やはりルナは紛うことなき剣鬼。

だが敵による軽い仕切り直しに出会っても、ソウは殆ど動じなかった。

素早く弓を構え、未来を全て見透かしたような平静さで射撃する。

矢は水平方向の弧を描きながら突き進む。

普通なら矢をしっかりと捕捉し、剣を用いた精密な防御を行うルナだが、死角の住人:ラエタへの牽制は欠かせない。

苦しげな表情。

苦肉の策として、矢と逆方向に走りながら、首を回して一瞬だけ矢の位置を確認する。

そのたった一瞬。

時間にして0.42秒。

ラエタは音もなく加速して一気に視覚外に消え去り、ルナの脊椎、そこに渾身の一撃を放つ。

「あっ…!?」

驚愕の表情で後方を見る。

 ルナ、バリア100%喪失。


 「今回の作戦、なんですけど…」

「何?」

「私の得意なこと、もしかして知ってくださっていますか?」

「うん。知ってる。死角に隠れるやつでしょ?」

(見てくださっているんだ…!)

ラエタの顔がパッと明るくなる。

「試合映像は何回か見たからね。それに、色んな人から君たちの情報はもらったんだ」

「でしたら話、早いです。私は練習でマークと何回も戦った事、あります。だから、マークにはもう私の得意なこと、通じません。そこでソウ様のお力、お借りしたいです。いい方法、ないですか?」

「君が自由に行動する為には、注意を引き付けることが必要なんでしょ? だったら俺、マークがいつもの調子を崩して君を見逃すくらい引き付ける。でもやるからには絶対に自分のスタイルを崩しちゃ駄目。作戦が上手く行かなくなっちゃうから」

情報不足の為に、ソウはラエタの「例外」について詳しくはない。

…ただ裏を返せば、それはラエタの「仕事」の成功率が常識外れに高い事を意味していた。

ソウの中には、このほぼ初対面のミステリアスな少女に対する、「得意な土俵フィールドに持ち込むことさえできれば、確実に勝利をもぎ取ってくれる」という確かな信頼があった。


 ヴィヴィアンは終始静かに座って観ていた。

「レオンよ」

彼女は確信していた。

「ラエタとソウは必ず併用する。あいつらの潜在能力を引き出すにはそれが最適だ」


 「やったじゃん」

「はい!」

ラエタは頬を紅潮させた嬉々とした表情でソウを仰ぎ見た。

その目には「憧れとの共演」と共に、今まで秘匿されていたらしい自らの可能性を垣間見た喜びも交ざって光っていた。

向こうで安座しているマークも、仲間の成長を密かに喜んでいた。

「お前たち」

汗をハンカチで拭いながら、ルナが笑顔で近付いてくる。

「お前たち、本当にすごいじゃないか。額のこれは冷や汗だぞ」

「ありがと。でもルナもすごいよ」

ソウの返答に、ルナは首を振った。

「いや、私はお前達の術中に嵌まり、途中から後手に回るしか無くなった。今回に関してはお前達が勝つべくして勝ったんだ。戴冠したように気高くあれ」

甘美な称賛の雨に打たれ、ソウの目は希望に燦めいた。

DHLから授けられた「最優秀合格者」の肩書が、今になって実感を伴ってきた。

同時にラエタもこの称賛の対象になっている。

そう、彼の作戦に彼女は不可欠だった。

「ラエタ、また俺と組んでくれる?」

「ソウ様。あなたのお役に立てるなら喜んでまた貴方と恊働、します」

「うん。ありがと」

 二人は運命的な出会いを果たした。

また、ソウは本日からDHLの一員となった。

物語の歯車が回転し始める。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...