26 / 27
第二章
02-03「ライバル」
しおりを挟む
共同練習後、ソウとルナは新人歓迎会に招待された。
「行くぞ」
ヴィヴィアンに導かれ、入場すると、そこにはすっかり正装に身を包んだ仲間達が居た。
(もちろんソウとルナも同様である。)
彼らは暖かな拍手で迎えてくれる。
]出席者全員で大きな長テーブルを囲んで座る。
しばらくすると料理と飲物が運ばれてくる。
ヴィヴィアンの声でグラスを高く掲げ、乾杯する。
未成年であるソウとルナは炭酸水を飲む。
それから高級料理を堪能し、全体的に雰囲気が暖まってきた。
「さて、新人が入ったんだ。お前ら自己紹介ぐらいしていけ」
ヴィヴィアンはこの時を狙っていたようだ。
指を指され、一番左に座っていた整えられた金髪と紫色の吊り目が特徴的な美少年がこの「リレー」を開始する。
「紹介が遅れました。初めまして、役割:ブロウラーのランスと申します。年齢は19で、DHLに来て今年で2年目になります。スピード重視の攻撃が得意で、趣味はサッカーです。以後、お見知り置きを」
ランス
DHLの一軍で最強と謳われるブロウラー(ただしDHL VS カローラの戦いでは休養していた為警戒されなかった)。剣と盾を装備し、その恵まれた身体能力とハイレベルな判断能力によって敵に一切の隙を与えず打ち倒す。その太刀筋の美しさでも知られ、美貌も相まって集客要員としても優秀である。
続いて、その隣の、肩まで伸ばした黒い髪と大きな黒い目を伴った童顔が象徴的な長身の少女。
「クイーン。役割はサポーター。歳は18で今年で3年目。サポーターだけど、たまに攻撃する。あと皆が正常に行動するか見るのが仕事だから互いのために邪魔しないでね。あと、趣味は掃除ね」
クイーン
広い視野で戦場全体を常時監視し、必要に応じて支援や攻撃を行う。基礎身体能力もさることながら、何よりも予知と判断に長け、戦況が混沌としている時にこそ力を発揮する。清掃業者が見逃した汚れを発見し、選手寮の公衆衛生に一役買っている。
どこかで見た事がある、白いボブカットと観る者を引き付けるサファイアのような双眸を持つ美少女。
「ステラだよー。ブロウラーやってます。今15歳で、もう少しで入って2年目になりまーす。武器は槍で、間合いを上手く使うのが得意でーす。趣味は歌うことでーす。よろしくね!」
ステラ
華奢な体格に似合わない槍を巧みに操るブロウラー。槍使い特有の間合いの長さを有効に使った攻防も強みの一つだが、唐突に展開される流星群のように苛烈で美麗な連続攻撃こそが彼女の真髄である。「天才」と呼ばれ、そのポテンシャルは現時点でもプロの世界でも通用する物だろうと評価されている。ジュピターもジュカイやダンテと並べて警戒していた。
一つ空席を飛ばして、今度はジュカイの番が回ってきた。
「ジュカイと言う。役割はニンジャ…ではなくアサシンで、DHLは4年目。まだ17の青二才だ。忍術を使ってどの局面にも対応出来るが、それ以上に走る事が得意だ。趣味は忍術研究だ。未熟者だが、宜しく頼む」
ジュカイ
「忍術」を使った多彩な戦術と敏捷性を武器とするアサシン。ホーミング機能付の投擲武器で中距離、背中に差す忍者刀で近距離の対応が出来、その高い実力はリーグの中でも特に注目されている。
次は彼の隣にいた、オールバックの赤髪と左目の上下に伸びる一本の切り傷がトレードマーク、長身で筋骨隆々な少年。
「ブロウラーのジークフリートだ。真っ向からの殴り合いを得意としている。齢は19。1年目だ。己を高める行為が俺の喜びだ。強き者たちよ、宜しく頼む」
ジークフリート
この半年間の練習・公式戦において、通算敗北記録を「ゼロ」に維持している期待の新人。恵まれた体格と超人的な身体能力に加え、精神力や判断能力にも秀でている。ついこの間一軍に昇格した。
ソウ達の居る対岸へと回り、眉に剃りこみを入れている、つり上がった目が特徴的な少年の番になる。
「俺はウォール。ディフェンダーやってて、足もそこそこ早えし、当然守るのも得意だ。でも本当は殴りあいが好きだ。歳は17で2年目だから、まあこん中じゃクソガキだ。で、趣味は格闘技観戦。特に総合(格闘技)が好きだな。同年代だし、仲良くしようや」
ウォール
小手と一体化した小盾が武器のディフェンダー。その特異な両手を用いて打撃と防御両方をこなす。以前所属していたクラブではスピード型のブロウラーをやっていた為、迅速に支援に向かうことが出来る。現在は二軍だが、「どこにでも居る守護人」として影で高い評価を受けている。
続いて、ソウの右隣のラエタ。
「ラエタ、です。15歳です。ここに来て大体、半年です。役割はアサシンで、気配、消すの、得意です。趣味はえーと、ぼーっとすることですかね…」
ラエタ
ソウとの協働を目の当たりにするまで、ヴィヴィアンはラエタを三軍に降格させようかと考えていた。理由はラエタの出来ることが少ないということであった。事実、「死角に移動する」という能力以外、あらゆる能力値が平均未満であるというデータが測定されていたのだ。
だが、ソウとの邂逅によってヴィヴィアンにその真価を証明出来た。
初日に紹介を終えている新人二人を除く、出席者全員の自己紹介が終わった。
ソウは一つ残念がっていた。
あのダンテと食卓を囲むことが出来ない。
途中省かれた空席は彼の物だろう、そう思っていた。
「シャクラはどうした?」
例の空席を横目にヴィヴィアンがレオンに問いかける。
(あれ?)
「彼は相変わらずです。また自主練ですよ」
「そうか」
ヴィヴィアンは一杯飲んだ。
「ねえ監督、ダンテは?」
ソウはたまらず質問を口にした。
「あの席はダンテじゃないの? ダンテはどこに行ったの?」
真っ先に答えたのはジュカイだった。
「奴はお前らとの戦いの後、すぐにメジャーに昇格した。残念だが、ここには居ないんだ」
「…そうなんだ」
少々寂しさを引き摺りながらもソウは歓迎会を終え、帰ってきた。
自室のドアを閉め、いつものようにとっとと入浴してしまおうとした。
(あっ)
そうだ、借りていたスーツだ。返さないと。
寝間着姿でぐしゃぐしゃに丸めたスーツを抱え、ヴィヴィアンが仕事している「事務室」を目指して歩いていた。
その途中、練習場の明かりが付いているのが目に入った。
(誰だろ…)
時刻は10時を回っていた。
これほど並外れてストイックなのは誰なのかと、ソウの好奇心は衝動を抑えられず、ふらっとその入口の所まで行き、そっと覗いてみた。
見た事のない選手だった。
茶色の肌、茶色の髪を持つ、高慢そうな美少年。
髪は全体的に長く、後ろ髪は一つ結びにしてある。
黄色に光る目は印象的で、目尻は細く強気に吊り上がっている。
スタイリッシュな造形の分厚い装甲が段々に重なった銀色の鎧の上から黄土色の長いマントを着ている。
頭には先端を上に向ける角の装備を着けていて、武器は先端に白色光を発する宝石を付けた黄色の杖であり、長さは背丈ほど(約1.8m)もある。
少年は地面を蹴って後ろに跳ぶ。
すると先程まで彼が立っていた所を丸太のように太い機械のアームが振り抜いていく。
相手は高さ5m程もある巨大なロボット。
上半身は多少人間に近い造形だが、下半身は大部分がホバー装置であり、俊敏に動く事が出来るようだ。
ロボットの頭部のセンサーが動き、少年の姿を正確に捕捉する。
直ぐさま、左胸にある銃口から真っ赤な光線を放射する。
少年は右に走って回避し、杖を翳す。
次の瞬間、ソウの目は大きく見開かれた。
バリバリバリッ
先端から「雷」が放たれ、ロボットの銃口を的確に破壊する。
そしてそのまま雷を上へと登らせ、頭部まで焼き尽くす。
ロボットは炎上しながら腕を振り回してくる。
少年はそれを杖で受け流すと、右手を振り上げた。
バリバリッ
太い雷が上空から落ち、ロボットを上から下へと貫く。
ロボットは機能停止して地面に落下し、ズン、と振動が伝わる。
「おい」
いつの間にその視線に気付いたのだろうか。
ソウは突然声を掛けられ、反応が遅れた。
「お前らの前居た雑魚クラブでは、寝間着で脱いだ服を抱えた阿呆な姿で練習を見学するのが決まりだったのか?」
「…違うよ」
「違うならそんなダセエ格好でここに来るな。目障りだ」
「…ごめん」
ソウは素直に非を認め、さっさと本来の目的を果たした。
自室に帰っていくソウの脳裏には、雷の閃光が鮮明に焼き付いていた。
朝食後、ソウはヴィヴィアンに呼び出された。
「契約書にも書いてあるとおり、今日は休日に該当する。契約違反にならぬよう、クラブ内での練習はするな。それ以外なら自由に行動して貰って構わない。だがその前に…」
「うん」
「お前には『目標』となる選手が居るか?」
「どういうこと?」
「多くの場合、憧憬の念が起因するものだが、どのような選手にも、基本的に途方も無い己の実力強化の道標として他人を据える。
例えば、ラエタの『目標』は一瞬の隙を利用して死角を突く戦術で有名なメジャーリーガー:フィリッパだ。あいつはフィリッパの戦闘形式に共感や憧憬しつつ、熟達の為の手本としている。
…お前もそのような『目標』を探せ。人間の能力というのは目的地無くして闇雲に進んでも伸びないからな」
「誰でもいいの?」
「お前がある一点においてでも自分より『格上』と判断出来る者だ。そうであれば何でも」
「じゃあ…」
憧憬、共感、格上…
ソウにメジャー選手に関しての知識は全く無かった。
だがそれ以上にセンセーショナルな何かが作用していたのがその原因だった。
「だったら、昨日夜一人で練習してたアイツを『目標』にしたい」
「シャクラか?」
「シャクラ?」
どこかで聞いた名前だ。
そうだ、あの空席だ。
「だとしたら『目標』というより『ライバル』だな」
「ライバル...」
「どうして奴なんだ?」
「…俺、あいつの練習見たんだ。雷を操ってた。俺もあれをやってみたい」
「なるほどな。だが、その為にはまず、『MCC』を使えるようになる必要がある。…説明が必要だな」
ヴィヴィアンはデバイスに画像を表示した。
黒い正方形の機械だ。
「『神話的創造チップ』、『MCC』だ。ここ2年グラディアで流行り始めた。通常装備に埋め込む形で用いる。その性能は質の程度に左右されるが、基本的に複雑なエネルギー操作によって本来の物理法則では不可能な現象を引き起こす事が出来る。見る限り、ルナやお前の元チームメイトのミナーヴァも使い手だろう」
舞い散る薔薇と茨、一撃必殺の射撃。
星を散らして舞うルナ。
「我がチームでは、原則一軍となった選手全員に『MCC』を与えている。シャクラの雷も『MCC』に因る。お前もその内得るだろうから、そうしたら練習するといい」
「うん」
ソウは事務室を後にした。
テレビを見たり、昼寝をしてみたり、パズルを弄ってみたり。
これで半日は潰す事が出来たが、流石に飽きてくる。
路上生活時代に暇な時間なんて無かったし、
GCカローラの契約では今より練習時間は少ないが、休日は設けられていなかった。
どう「休む」のか分からなかった。
人間関係は希薄。頼みのルナも外出中だった。
誰かと一緒に遊ぼう。とはいかない。
(ラエタはどうだろう…)
見つからない。
次いでにヴィヴィアンも見つからない。
仕方が無いので、レオンの部屋を訪ねた。
「でしたら、郊外にある『グッド・フォーチュン・フィールド』に行ってみてはどうでしょう? あそこなら名目上はDHLの施設ではありませんし、他のクラブと直接関わる訳ではありませんから、契約違反にはならない筈です」
「グッド・フォーチュン・フィールド」。
DHLと某クラブチームが共同管理する「自由練習場」。
プロのグラディア選手であれば誰でも無条件で利用可能。試合形式の練習が可能である。
装備の貸出はない。
装備入りのキャリーバッグを引き回している所、偶然通り掛かったラエタに声を掛けられた。
「どこ、行かれるんですか?」
ソウは説明する。
「じゃあ、私も御一緒しても、いいですか?」
「いいよ」
ラエタは嬉しそうに頬を緩めながらソウの横を歩いていた。
コンクリートの地面を数分歩いた所に、駅がある。
二人はデバイスを使って改札を通過し、地下を通る青色ネオンのリニアモーターカーに乗り込んだ。
ソウは色々知らなかったから、ここまで来るのにラエタに大いに助けられた。
ソウは少しばかり尊敬の念を織り交ぜた視線を彼女に向けていた。
各駅停車時間も含めて2分程で目的の駅に辿り着く。
階段を登り、また歩く。
「あれ、ですね」
5分程歩くと、白色のドームが見えてきた。
入口には、精巧な獅子と蠍の石像が立っていた。
試合場には何人かの選手達が居て、激しく争っていた。
入ってすぐの所でその光景を見ていると、横を一人が通り過ぎた。
「ん?」
彼は振り返り、ソウに訝しげな表情を向けた。
太い眉、実直そうな目付きを持つモンゴロイドの少年。
「もしかして、あなたがソウさんですか?」
「うん。そうだけど、何?」
突然初対面の人間に声を掛けられ、思わずソウも首を傾げた。
「そうですか」
そう一言言うと、少年はソウの前に出てきて、その顔を睨みつける。
「そうですか。ではあなたが、カローラを裏切った方なんですね」
「行くぞ」
ヴィヴィアンに導かれ、入場すると、そこにはすっかり正装に身を包んだ仲間達が居た。
(もちろんソウとルナも同様である。)
彼らは暖かな拍手で迎えてくれる。
]出席者全員で大きな長テーブルを囲んで座る。
しばらくすると料理と飲物が運ばれてくる。
ヴィヴィアンの声でグラスを高く掲げ、乾杯する。
未成年であるソウとルナは炭酸水を飲む。
それから高級料理を堪能し、全体的に雰囲気が暖まってきた。
「さて、新人が入ったんだ。お前ら自己紹介ぐらいしていけ」
ヴィヴィアンはこの時を狙っていたようだ。
指を指され、一番左に座っていた整えられた金髪と紫色の吊り目が特徴的な美少年がこの「リレー」を開始する。
「紹介が遅れました。初めまして、役割:ブロウラーのランスと申します。年齢は19で、DHLに来て今年で2年目になります。スピード重視の攻撃が得意で、趣味はサッカーです。以後、お見知り置きを」
ランス
DHLの一軍で最強と謳われるブロウラー(ただしDHL VS カローラの戦いでは休養していた為警戒されなかった)。剣と盾を装備し、その恵まれた身体能力とハイレベルな判断能力によって敵に一切の隙を与えず打ち倒す。その太刀筋の美しさでも知られ、美貌も相まって集客要員としても優秀である。
続いて、その隣の、肩まで伸ばした黒い髪と大きな黒い目を伴った童顔が象徴的な長身の少女。
「クイーン。役割はサポーター。歳は18で今年で3年目。サポーターだけど、たまに攻撃する。あと皆が正常に行動するか見るのが仕事だから互いのために邪魔しないでね。あと、趣味は掃除ね」
クイーン
広い視野で戦場全体を常時監視し、必要に応じて支援や攻撃を行う。基礎身体能力もさることながら、何よりも予知と判断に長け、戦況が混沌としている時にこそ力を発揮する。清掃業者が見逃した汚れを発見し、選手寮の公衆衛生に一役買っている。
どこかで見た事がある、白いボブカットと観る者を引き付けるサファイアのような双眸を持つ美少女。
「ステラだよー。ブロウラーやってます。今15歳で、もう少しで入って2年目になりまーす。武器は槍で、間合いを上手く使うのが得意でーす。趣味は歌うことでーす。よろしくね!」
ステラ
華奢な体格に似合わない槍を巧みに操るブロウラー。槍使い特有の間合いの長さを有効に使った攻防も強みの一つだが、唐突に展開される流星群のように苛烈で美麗な連続攻撃こそが彼女の真髄である。「天才」と呼ばれ、そのポテンシャルは現時点でもプロの世界でも通用する物だろうと評価されている。ジュピターもジュカイやダンテと並べて警戒していた。
一つ空席を飛ばして、今度はジュカイの番が回ってきた。
「ジュカイと言う。役割はニンジャ…ではなくアサシンで、DHLは4年目。まだ17の青二才だ。忍術を使ってどの局面にも対応出来るが、それ以上に走る事が得意だ。趣味は忍術研究だ。未熟者だが、宜しく頼む」
ジュカイ
「忍術」を使った多彩な戦術と敏捷性を武器とするアサシン。ホーミング機能付の投擲武器で中距離、背中に差す忍者刀で近距離の対応が出来、その高い実力はリーグの中でも特に注目されている。
次は彼の隣にいた、オールバックの赤髪と左目の上下に伸びる一本の切り傷がトレードマーク、長身で筋骨隆々な少年。
「ブロウラーのジークフリートだ。真っ向からの殴り合いを得意としている。齢は19。1年目だ。己を高める行為が俺の喜びだ。強き者たちよ、宜しく頼む」
ジークフリート
この半年間の練習・公式戦において、通算敗北記録を「ゼロ」に維持している期待の新人。恵まれた体格と超人的な身体能力に加え、精神力や判断能力にも秀でている。ついこの間一軍に昇格した。
ソウ達の居る対岸へと回り、眉に剃りこみを入れている、つり上がった目が特徴的な少年の番になる。
「俺はウォール。ディフェンダーやってて、足もそこそこ早えし、当然守るのも得意だ。でも本当は殴りあいが好きだ。歳は17で2年目だから、まあこん中じゃクソガキだ。で、趣味は格闘技観戦。特に総合(格闘技)が好きだな。同年代だし、仲良くしようや」
ウォール
小手と一体化した小盾が武器のディフェンダー。その特異な両手を用いて打撃と防御両方をこなす。以前所属していたクラブではスピード型のブロウラーをやっていた為、迅速に支援に向かうことが出来る。現在は二軍だが、「どこにでも居る守護人」として影で高い評価を受けている。
続いて、ソウの右隣のラエタ。
「ラエタ、です。15歳です。ここに来て大体、半年です。役割はアサシンで、気配、消すの、得意です。趣味はえーと、ぼーっとすることですかね…」
ラエタ
ソウとの協働を目の当たりにするまで、ヴィヴィアンはラエタを三軍に降格させようかと考えていた。理由はラエタの出来ることが少ないということであった。事実、「死角に移動する」という能力以外、あらゆる能力値が平均未満であるというデータが測定されていたのだ。
だが、ソウとの邂逅によってヴィヴィアンにその真価を証明出来た。
初日に紹介を終えている新人二人を除く、出席者全員の自己紹介が終わった。
ソウは一つ残念がっていた。
あのダンテと食卓を囲むことが出来ない。
途中省かれた空席は彼の物だろう、そう思っていた。
「シャクラはどうした?」
例の空席を横目にヴィヴィアンがレオンに問いかける。
(あれ?)
「彼は相変わらずです。また自主練ですよ」
「そうか」
ヴィヴィアンは一杯飲んだ。
「ねえ監督、ダンテは?」
ソウはたまらず質問を口にした。
「あの席はダンテじゃないの? ダンテはどこに行ったの?」
真っ先に答えたのはジュカイだった。
「奴はお前らとの戦いの後、すぐにメジャーに昇格した。残念だが、ここには居ないんだ」
「…そうなんだ」
少々寂しさを引き摺りながらもソウは歓迎会を終え、帰ってきた。
自室のドアを閉め、いつものようにとっとと入浴してしまおうとした。
(あっ)
そうだ、借りていたスーツだ。返さないと。
寝間着姿でぐしゃぐしゃに丸めたスーツを抱え、ヴィヴィアンが仕事している「事務室」を目指して歩いていた。
その途中、練習場の明かりが付いているのが目に入った。
(誰だろ…)
時刻は10時を回っていた。
これほど並外れてストイックなのは誰なのかと、ソウの好奇心は衝動を抑えられず、ふらっとその入口の所まで行き、そっと覗いてみた。
見た事のない選手だった。
茶色の肌、茶色の髪を持つ、高慢そうな美少年。
髪は全体的に長く、後ろ髪は一つ結びにしてある。
黄色に光る目は印象的で、目尻は細く強気に吊り上がっている。
スタイリッシュな造形の分厚い装甲が段々に重なった銀色の鎧の上から黄土色の長いマントを着ている。
頭には先端を上に向ける角の装備を着けていて、武器は先端に白色光を発する宝石を付けた黄色の杖であり、長さは背丈ほど(約1.8m)もある。
少年は地面を蹴って後ろに跳ぶ。
すると先程まで彼が立っていた所を丸太のように太い機械のアームが振り抜いていく。
相手は高さ5m程もある巨大なロボット。
上半身は多少人間に近い造形だが、下半身は大部分がホバー装置であり、俊敏に動く事が出来るようだ。
ロボットの頭部のセンサーが動き、少年の姿を正確に捕捉する。
直ぐさま、左胸にある銃口から真っ赤な光線を放射する。
少年は右に走って回避し、杖を翳す。
次の瞬間、ソウの目は大きく見開かれた。
バリバリバリッ
先端から「雷」が放たれ、ロボットの銃口を的確に破壊する。
そしてそのまま雷を上へと登らせ、頭部まで焼き尽くす。
ロボットは炎上しながら腕を振り回してくる。
少年はそれを杖で受け流すと、右手を振り上げた。
バリバリッ
太い雷が上空から落ち、ロボットを上から下へと貫く。
ロボットは機能停止して地面に落下し、ズン、と振動が伝わる。
「おい」
いつの間にその視線に気付いたのだろうか。
ソウは突然声を掛けられ、反応が遅れた。
「お前らの前居た雑魚クラブでは、寝間着で脱いだ服を抱えた阿呆な姿で練習を見学するのが決まりだったのか?」
「…違うよ」
「違うならそんなダセエ格好でここに来るな。目障りだ」
「…ごめん」
ソウは素直に非を認め、さっさと本来の目的を果たした。
自室に帰っていくソウの脳裏には、雷の閃光が鮮明に焼き付いていた。
朝食後、ソウはヴィヴィアンに呼び出された。
「契約書にも書いてあるとおり、今日は休日に該当する。契約違反にならぬよう、クラブ内での練習はするな。それ以外なら自由に行動して貰って構わない。だがその前に…」
「うん」
「お前には『目標』となる選手が居るか?」
「どういうこと?」
「多くの場合、憧憬の念が起因するものだが、どのような選手にも、基本的に途方も無い己の実力強化の道標として他人を据える。
例えば、ラエタの『目標』は一瞬の隙を利用して死角を突く戦術で有名なメジャーリーガー:フィリッパだ。あいつはフィリッパの戦闘形式に共感や憧憬しつつ、熟達の為の手本としている。
…お前もそのような『目標』を探せ。人間の能力というのは目的地無くして闇雲に進んでも伸びないからな」
「誰でもいいの?」
「お前がある一点においてでも自分より『格上』と判断出来る者だ。そうであれば何でも」
「じゃあ…」
憧憬、共感、格上…
ソウにメジャー選手に関しての知識は全く無かった。
だがそれ以上にセンセーショナルな何かが作用していたのがその原因だった。
「だったら、昨日夜一人で練習してたアイツを『目標』にしたい」
「シャクラか?」
「シャクラ?」
どこかで聞いた名前だ。
そうだ、あの空席だ。
「だとしたら『目標』というより『ライバル』だな」
「ライバル...」
「どうして奴なんだ?」
「…俺、あいつの練習見たんだ。雷を操ってた。俺もあれをやってみたい」
「なるほどな。だが、その為にはまず、『MCC』を使えるようになる必要がある。…説明が必要だな」
ヴィヴィアンはデバイスに画像を表示した。
黒い正方形の機械だ。
「『神話的創造チップ』、『MCC』だ。ここ2年グラディアで流行り始めた。通常装備に埋め込む形で用いる。その性能は質の程度に左右されるが、基本的に複雑なエネルギー操作によって本来の物理法則では不可能な現象を引き起こす事が出来る。見る限り、ルナやお前の元チームメイトのミナーヴァも使い手だろう」
舞い散る薔薇と茨、一撃必殺の射撃。
星を散らして舞うルナ。
「我がチームでは、原則一軍となった選手全員に『MCC』を与えている。シャクラの雷も『MCC』に因る。お前もその内得るだろうから、そうしたら練習するといい」
「うん」
ソウは事務室を後にした。
テレビを見たり、昼寝をしてみたり、パズルを弄ってみたり。
これで半日は潰す事が出来たが、流石に飽きてくる。
路上生活時代に暇な時間なんて無かったし、
GCカローラの契約では今より練習時間は少ないが、休日は設けられていなかった。
どう「休む」のか分からなかった。
人間関係は希薄。頼みのルナも外出中だった。
誰かと一緒に遊ぼう。とはいかない。
(ラエタはどうだろう…)
見つからない。
次いでにヴィヴィアンも見つからない。
仕方が無いので、レオンの部屋を訪ねた。
「でしたら、郊外にある『グッド・フォーチュン・フィールド』に行ってみてはどうでしょう? あそこなら名目上はDHLの施設ではありませんし、他のクラブと直接関わる訳ではありませんから、契約違反にはならない筈です」
「グッド・フォーチュン・フィールド」。
DHLと某クラブチームが共同管理する「自由練習場」。
プロのグラディア選手であれば誰でも無条件で利用可能。試合形式の練習が可能である。
装備の貸出はない。
装備入りのキャリーバッグを引き回している所、偶然通り掛かったラエタに声を掛けられた。
「どこ、行かれるんですか?」
ソウは説明する。
「じゃあ、私も御一緒しても、いいですか?」
「いいよ」
ラエタは嬉しそうに頬を緩めながらソウの横を歩いていた。
コンクリートの地面を数分歩いた所に、駅がある。
二人はデバイスを使って改札を通過し、地下を通る青色ネオンのリニアモーターカーに乗り込んだ。
ソウは色々知らなかったから、ここまで来るのにラエタに大いに助けられた。
ソウは少しばかり尊敬の念を織り交ぜた視線を彼女に向けていた。
各駅停車時間も含めて2分程で目的の駅に辿り着く。
階段を登り、また歩く。
「あれ、ですね」
5分程歩くと、白色のドームが見えてきた。
入口には、精巧な獅子と蠍の石像が立っていた。
試合場には何人かの選手達が居て、激しく争っていた。
入ってすぐの所でその光景を見ていると、横を一人が通り過ぎた。
「ん?」
彼は振り返り、ソウに訝しげな表情を向けた。
太い眉、実直そうな目付きを持つモンゴロイドの少年。
「もしかして、あなたがソウさんですか?」
「うん。そうだけど、何?」
突然初対面の人間に声を掛けられ、思わずソウも首を傾げた。
「そうですか」
そう一言言うと、少年はソウの前に出てきて、その顔を睨みつける。
「そうですか。ではあなたが、カローラを裏切った方なんですね」
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる