グラディア(旧作)

壱元

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第二章

02-04「無力」

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 少年の視線は、まるで二本の剣の切っ先のようだった。

「奇遇ですね、こんな所で貴方と出会うなんて思いませんでした。…ソウさん、貴方には裁きを与えます。みんなの気持ちを蔑ろにした事、みんなを悲しませた事、その清算をしなければなりません」

ソウとラエタは顔を見合わせた。

少年はそんな事を歯牙にもかけず、ソウに手招く。

「貴方は僕と戦い、裁きを受けるのです。さあ、来て下さい」

ソウは状況の理解が不十分だったが、相手が一人で更衣室へと歩いていき、数分後フル装備で帰ってきたのを見て、やっと、あれが試合の申し込みだと分かった。

「ちょっと戦って来る」

「装備、持って来なくて、お力になれず、すみません」

「いや、いいよ。多分どっちにせよ俺が戦わないといけないと思うし」

 ソウも装備を身に着け、遅れて入場した。

少年は一人で待っていた。

これは一対一での戦いらしい。

「遅かったですね。怖気付きましたか? そうですね、僕は専門学校でグラディアを学んだ優秀選手ですが、貴方は小汚いホームレス出身のド素人。今までは運良く皆に助けられて活躍できていたつもりだったかもしれませんが、実力には雲泥の差がありますから恐れるのも仕方ないです。降参するなら今のうちですよ。その代わり皆に謝罪して下さいね」

「いや...」

ソウは困惑しながら頭をポリポリ掻いた。

「遅くなったのは単純に...」

「分かりました。自責の念ですね、自責の念で思わず戦意を失ってしまったと。やっと分かってくれたみたいですね。やはり…」

「そろそろ始めようよ」

ソウは言葉を遮って、静かに弓を引いた。

「どうでもいいけど、戦うなら早くやろうよ」

相手はそれに応じて、格好付けて剣を構え、ソウを睨みつけた。

「格の違いを見せてやります。謝罪は必要ですが、メンバーとして帰ってこなくていいですよ。カローラには既に僕が居ますから」

ラエタはドキドキしながらパネルに手を伸ばす。

「ソウ様、頑張って」

カーンッ

ラエタによって電子ゴングが鳴らされた。

二人は同時に動き出す。

少年は剣を大きく構え、素早く近づく。

反対に、ソウは弓を前に構えたまま、地面を蹴って距離を取る。

(様子見…)

ソウは軽く矢を放った。

矢は軌道を緩やかに曲げながら、敵に向かっていく。

「その程度ですか?」

敵は全ての力を込めて振り下ろした剣で矢を叩き落とし、自慢げな顔を向ける。

「やはり貴方は弱いですね、曲がる矢が得意だと聞いていましたが、この程度では...」

その時、複数の矢が纏めて敵に襲いかかる。

スパークス。

「へ?」

相手は対応できず、全てを身体に受けてしまう。

バリア、34%消失。

ソウは攻撃の手を緩めない。

正面に通常攻撃を放つ。

「あ、え?」

敵はぎこちなく防御しようとしたが、肩に直撃し、さらにバリアを失う。

バリア、57%消失。

ソウが次の矢を継がえた瞬間、やっと敵が動き出す。

剣を振り上げ、必死な形相で直行し、ソウの頭上に下ろす。

ソウは軽やかな足捌きでこの渾身の一撃を躱し、上半身を捻って至近距離から一矢撃つ 。

これが決まり手となった。

相手は驚いた様な表情で勢いのまま、前方の地面へと転げた。

機能停止した装備の重さに耐えきれず、地面にぐったり倒れていた所を転送された。

(あれ…?)

予想外の呆気なさ。

相手の話を聞く限り、相手は強く、ソウに対しても勝算があるみたいだった。

(思ってたより弱かったな...)

自分が強いのか相手がおかしいのか、何にせよソウは勝ててホッとした。


 着替えて出てくると、ラエタが待っていた。

「お疲れ様でした。ソウ様、流石です! 相手、手も足も出ませんでした!」

「うん」

ソウは辺りを見渡した。

さっきまで居たあの少年は何処に?

「そういえば、あいつは?」

「なんか何も言わず、走って、いきました。どこに行ったかは、分かりません」

「ああ、そうなんだ…」


 「くそっ! くそっ! くそっ!」

少年は大声で暴言を叫び、泣きながら、困惑する通行人の中を走っていった。


 帰舎後、ソウは食堂でメニューを選び、それが乗ったトレーを運んでいた。

食事を終え、食堂を後にしようとしていた監督が進路を変え、ソウの方にやって来る。

「食後、時間あるか? 無理強いはしないが、お前と相談したい事がある」

 ソウは言われた通り、今度は「カウンセリング室」にやって来た。

「来たな。まあ座れ」

「うん」

小さなテーブルを挟み、向かい合って座る。

「一日に二度も呼び出して済まないな。どちらも今後のやり方に関する協議だ」

「うん。それで、今度は何?」

ヴィヴィアンは「唐突だが…」と前置きした。

「お前、グラディアの歴史やルールについてどの程度知っている?」

「歴史は分からないけど、ルールは一通り…」

「本当か?」

ヴィヴィアンは言葉を遮り、重々しく問い掛けた。

「では一つ質問する。グラディアの『浮遊』と『飛行』に関する規定を述べてみろ」

「…何それ」

ヴィヴィアンは「やはりな」とでも言いたげな表情を見せた。

「グラディアでは一部の絞め技や極め技が禁止になっているが、その基準は何だ?」

「しめ…? きめ…?」

「『ゴールデン・グラディウス賞』の歴代受賞者、何人の名を言える?」

「ごめん、分かんないや」

「…」

ヴィヴィアンは目を閉じた。

そして目を開いた時、毛色の違う質問をしてきた。

「ではこうする。カローラからここに移籍後、グラディアに関して何か矛盾点や違和感は無かったか?」

「…あ」

入団テスト。

更衣室は性別によって別れていた。それに、装備も基本的に下着の上から身に着けていた。

GCカローラでは、みんな上着の上から着用し、さらに男女一緒に着替えていた。

それを可笑しいと、ずっと思っていた。

「向こうでは、確かにそう指示されていたのだな?」

「うん」

「そうか...」

ヴィヴィアンは溜息を一つついた。

「それは間違った指導だ。こちらでのやり方が一般的だ。それはグラディアをやる者なら知っていて当然の事柄だ。馬鹿馬鹿しい。
それに、お前はグラディアの基礎的な知識を一切教育されていない。これも指導者としては言語道断だ。
…ジュピター・カローラはそこらのアマチュアにも及ばない。向こうに居続けていたら、いつかお前の身の上に何かしら致命的な支障が出ていただろう。
移って正解だったな」

「うん」

ヴィヴィアンの話は長くて、昼の一件を思い出した。

でも、彼女はあれと違って、理論的に話してくれている。

あんな気違いを(恐らくソウの穴埋めとして)雇用するという判断と、ヴィヴィアンによって明かされた狂気の真実とを統合的に鑑みる。

GCカローラがいかに異常であったか、否、異常であるのか…

「そういえば」

とヴィヴィアン。

「明日から『東部』大会が始まる。大会の詳しい説明は後の全体ミーティングで話すが、出場前にお前は仲間との連携の確認をすることになる。把握しておいてくれ」

「分かった。...DHLは初戦から戦うの?」

「当然明日が初戦な訳だが、我々は明後日の『モンテロホGC』が一戦目だ。明日は『GCカローラ』と『GCホットスプリングタウン』の試合が行われる」

「そうなんだ...」

自分なきGCカローラ。

どう変容したのか、多少興味はある。

だが、期待は持てないだろう。


 大会初日。

ジュピターは更衣室から出てきた選手達を鼓舞していた。

「ここまで来れた君達なら出来る筈! 恐れず存分に実力を発揮して来てくれ!」

「はい!」

威勢よく返事したのは、数日前にグラディア専門学校「ユーウェニスズ・アカデミー」デスティニーヒル校で学んでいた所をジュピターにスカウトされた、元ブロウラー:マコト。

本人曰く、「創造的行動」が得意だそうで、自らジョーカーとなることを望み、ジュピターは完全に彼を信じ込んだ。

このマコトこそが、昨日のソウとの直接対決に大敗した、その人だ。

持ち前の卓越した思考回路によって、どうしてか「僕の不調が敗北の要因であり、万全な状態であれば、結果は全く真逆だったはずだ」と解釈している。

「格の違いを見せてやります!」

「その意気だ!」

「...」

弓を抱えて横に立つミナーヴァは、何も言わず、ただ冷めた視線を彼に向けていた。

一方、もう一人の出場者、ウィルはマコトに期待しているようだった。

ピーーッ

入場の合図だ。

「さあ、頑張って!」

監督に後押しされながら、マコト、ミナーヴァ、ウィルが会場に足を踏み入れる。

途端に凄まじい拍手と歓声に圧倒される。

だが怯んでは居られない。

向こうから対戦相手が歩いてくる。

 金髪青目で恰幅のいい、背の低い少年、ディフェンダー:ボイル。

赤、白、青で華やかに塗装された、巨大な蟹の鋏を両腕に装備し、分厚い装甲をまとっている。

不敵な笑みはフルフェイス型の兜に触覚を付けたような頭部装備の薄色なバイザーの向こうに透けて見えている。

 二人目はボサボサの赤毛とそばかす、眠たげな緑眼が特徴的な若手の女子選手、ジョーカー:スカーレット。

ハット型の頭部装備とフィッシングベストをモチーフにした軽装鎧、足には長靴。手にはリール付きの釣竿のような物を携えている。

 三人目は背の高い、灰色の瞳を持つ、大人びた顔つきで人の良さそうなネグロイドの少年、ブロウラー:ブレイブ。

灰色の装甲が重なった設計の全身鎧を身にまとい、赤いマントをなびかせ、手には金色の鍔さえ付けて剣に似せたデザインの巨大チェーンソーを持っている。

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

ブレイブが兜を脇に抱え、にこやかに挨拶する。

ミナーヴァが応じようとした時、マコトがそれを遮るように前に出てきた。

すんでのところで足を踏まれるところだった。

「よろしくお願いします」

ミナーヴァはムッとしたが、ぐっと堪えた。

「おいミナーヴァ、見ろよ」

不意にウィルに言われて彼の指差す方を見る。

「ひひ、あいつら弱いぞ。今のあいつら、絶対な」

「ふわあ、早く終わらせて帰ろ?」

ボイルが嘲笑し、スカーレットは気だるげに欠伸する。

「随分余裕ね。礼儀正しいのはブレイブだけみたいだし」

「ミナーヴァ、俺ら三人で調子乗ってるあいつらに一泡吹かせてやろうぜ」

(三人、ね…)

ミナーヴァはマコトの方を一瞥した。

(あいつが変なことをしなきゃいいけれど)

 合図で両チームは離れ、戦闘態勢を取る。

GCカローラはマコトとウィルを前線に置き、ミナーヴァが後ろで弓を引く。

一方、GCホットスプリングタウンでは、ブレイブが極端に前に出てチェーンソーを唸らせ、距離を大きく開けてボイル、その後ろにスカーレットが居て、「釣竿」を伸ばし、ネオンの糸を垂らしている。

どちらも「役割ロール」を重視したフォーメーションだ。

カーンッ

ゴングと同時に、近接攻撃三人が走り出す。

マコトは剣を振り上げ、ウィルも構える。

ブレイブもチェーンソーを構えた。

(まあ、二対一ならそれなりに勝負になるでしょう…さて、)

ミナーヴァが目をやったのは、ボイル。そしてその奥のスカーレット。

(あたしは好き勝手やらせてもらうわ。どうせあたしに全体指揮は務まらないし)

いきなりエネルギーを溜め、必殺技を放つ。

 デッドリー・ソーン。

矢は真っ直ぐ敵に向かっていく。

すると、ボイルは蟹挟を振り上げた。

「エイヤッ!」

力強く降ろし、何と矢を軽々叩き落とした。

 クラブハンマー。

ボイル、バリア:2%喪失。

花びらと割れた矢とが寂しく地面に落ちる。

(流石は東部最高クラスの防御力ね。隙を作らないと駄目か!)

ソウが頭をよぎるのを感じた。

一瞬非現実に憧れた。

だが、もうこれからは己の力だけで、父親を助けるのだ。

そんな思考で妄想を上書きし、次の矢を放つ。

今度は「カービングアロー」。

ボイルの眼前で軌道を変え、横からスカーレットに迫る。

「うへ」

スカーレットは身体を捩って回避する。これも計算通り。

また二本の矢を連続して放つ。

「また来たし。ねえボイルぅ、ちゃんと落としてね?」

「お安い御用さ、ひひ」

両腕を広げ、交差させて振り下ろす。

X字型をしたエネルギーの斬撃が飛び出し、矢を切り刻んで相殺する。

 フライングシザース。

(厄介ね…)

手詰まりを感じていた時、ミナーヴァはとても深刻な事に気づいた。

ブレイブによって、いつの間にかウィルが倒されていた。

マコトとブレイブは一騎打ちの状態だが、マコトは攻撃を躱すだけで精一杯だ。

ちゃっかりバリアを八割程失っている。対するブレイブのバリアはほぼ完全だ。

(想定以上に押されている! かなりまずいわ!)

ミナーヴァはマコトに援護射撃を行った。

(あんたの事は癪だけど、同じチームだし背に腹はかえられないから!)

ブレイブは瞬時に武器を矢に向け、刃で受けてバラバラにしてしまった。

「これで終わりです」

そのまままるで閃光のような一撃でマコトを切り裂く。

反撃に転じようとして剣を振り上げ切っていたマコトは反応出来ず、とうとう泣け無しのバリアを破られてしまった。

(嘘、あたし一人...?)

ブレイブが接近し、あの大剣でキレのある斬撃を繰り出す。

「くっ!」

ミナーヴァは必死で身体を動かし、三撃全て避け切った…はずだったが、動く刃が掠ったようで、バリアを20%程失っていた。

(チェーンソー特有の構造がこんなに厄介なんて!)

ミナーヴァは矢をつがえながら距離を取る。

その時、遠くで何かが光った。

よく見ると、それは糸のようであり、スカーレットの武器の先端から伸びていた。

次の瞬間、全身が力強く引っぱられた。

だが釣り針は服や身体に引っかかっていたのではない。

バリアそのものに刺さっていた。

「えいっ」

糸がピンと張る。

バリアが装備から無理やり「引き」剥がされ、完全に破壊される。

(本当にあたしたち、無力なのかも。ソウが居ないと…)

GCカローラは初戦、呆気なく敗北した。

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