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第五章
第四話
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鎧も着ず、武器も持たず、寝ぐせも付いたままで早朝の町を一人疾走するグレア。
(ラーラ…!)
彼女はとにかく必死だった。
顔を隠すフードが風で捲れようと、それさえ気にしなかった。
何度転ぼうとも足を止めることはなかった。
しかし彼女の必死さを嘲笑うように、或いは昨夜の残酷さを彼女自身に突き付けるかのように、ラーラの痕跡の一つでさえ見つけられないという事実だけがここに存在していた。
実に4時間。町の領域の7割を探索をし終える程の長い長い「人探し」の末、グレアの気力は遂に底をついた。
(駄目だ…)
疲れと絶望のあまり、その場にへたり込む。
喉は乾ききり、鳴り響くのは腹の虫。
その時、誰かが近付いて来る。
「大丈夫かい?」
不意に差し伸べられた手。
顔を上げると、そこには色白で金髪金眼、カールした長髪と童顔が特徴的な美少年が優しげに微笑んでいた。
美少年はラーラと視線を出会わせるや否や、目を丸くして半歩後ずさった。
「こほん」
高鳴る鼓動を誤魔化し、動揺を鎮めながら彼は言った。
「道に座り込んでいたから、気になって来てみたんだ。何か困ったことはないかい?」
「ご心配なく、ちょっと疲れてしまっただけですから」
返答を聞いて、少年の顔がさらに明るくなる。
「じゃ、じゃあ、そこの店で一緒にお茶しないかい? 息抜きには持ってこいなんだ。君は疲れているんだろう? 僕は冒険者でね、お金はいっぱいあるからご馳走させて欲しいんだ」
グレアには特に断る理由がなかった。例え後半の文言がなくとも誘いに乗っただろう。
「まだ名乗ってなかったね。僕はフェソロフォート。ワイバール王国を中心にフリーランスで銅級冒険者をやっているよ。君は?」
「私はグレア。同じく冒険者で、ケンダル王国の出身です」
「へー冒険者! なんだか奇遇だね。等級を聞いてもいいかな?」
グレアは一瞬黙ったが、動揺せずに答えた。
「ふふ、秘密です。…でも貴方より高いかも」
そのいたずらっぽい態度に少年の心臓が跳ねる。
だが急いてはいけない。落ち着いて反応した。
「すごいね! 銀級以上ってことでしょ? 僕とそんなに年齢は変わらないように見えるのに、すごく強いんだね。君は剣士? 魔法使い? それとも弓兵だったりするのかな?」
「剣士だけど、魔法もちょっとだけ」
「え、魔法剣士ってこと? 珍しいね。そんなことが出来るなんて、君はすごく器用な人なんだね。僕の方は剣士で、流派は『蒼風流』なんだけど、それだけでいっぱいいっぱいだよ」
「『蒼風流』なんですか? 私も『蒼風流』なんですよ」
「おお、そうなんだ! じゃあちょっと教えてもらおうかな」
「私で良ければ、もちろんですよ」
その後も二人の会話は盛り上がり、明日また会う約束を取り付けたフェソロフォートは嬉々として支払いに向かったが、グレアに引き留められる。
「待って。私が払います」
「いいのかい?」
「貴方に元気づけてもらったし、こんなにいいお店を紹介してもらったから、これはそのささやかなお礼です。大丈夫、私は貴方よりランクの高い冒険者ですから、お金は心配しないで」
「あはは、恥ずかしいなあ」
先の自分の誘い文句を思い出してフェソロフォートは照れ笑いをした。
奢られた彼は、店を出るや否や勇気を振り絞り、半ば緊張して言った。
「明日また会わないかい?」
グレアの表情は変わらなかった。
ただ、
「どこ?」
とだけ尋ねた。
フェソロフォートは嬉しくなり、嬉々として約束を取り付けた。
軽い足取りで自分と反対の方向へ帰路につく彼を尻目に、グレアもラーラの捜索は一旦諦め、宿に戻ることにした。
人気のない通りを歩いていると、突如周囲からぞろぞろと出てきて一瞬にして囲まれる。
全員がグレアと同世代の少女で、なにやらきな臭い雰囲気である。
「ねえ、あんた」
リーダーらしき者がグレアを人差し指で差しながら言う。
「よそ者のくせしてフェソ君をたぶらかして、何様のつもり?」
「…こちらとしては、貴方たちが何者なのか気になるのだけど」
グレアはきょとんとして答えた。
「はあ、やっぱり分かってないのね。フェソ君は私達のものなの。ちょっと顔が良いからって調子に乗らないでよね。みんな、こいつ馬鹿だから『教育』してあげようよ!」
少女たちはほうきやフライパンなどを取り出し、一斉にグレアに襲い掛かった。
グレアはそれを受け流したり回避したりしながら、目標を失ったとも知らずに未だどんちゃん騒ぎしている群衆の間を抜け出し、ゆっくりと宿に戻った。
(今日は変わったことが多かったな)
ベッドの上で寝ころびながらぼんやり思う。
(フェソロフォート…なんだか真っ直ぐでアルクに似た子だったな…。明日も会うのか…)
グレアの胸に何か不思議な感情が湧いてくるのだった。
(ラーラ…!)
彼女はとにかく必死だった。
顔を隠すフードが風で捲れようと、それさえ気にしなかった。
何度転ぼうとも足を止めることはなかった。
しかし彼女の必死さを嘲笑うように、或いは昨夜の残酷さを彼女自身に突き付けるかのように、ラーラの痕跡の一つでさえ見つけられないという事実だけがここに存在していた。
実に4時間。町の領域の7割を探索をし終える程の長い長い「人探し」の末、グレアの気力は遂に底をついた。
(駄目だ…)
疲れと絶望のあまり、その場にへたり込む。
喉は乾ききり、鳴り響くのは腹の虫。
その時、誰かが近付いて来る。
「大丈夫かい?」
不意に差し伸べられた手。
顔を上げると、そこには色白で金髪金眼、カールした長髪と童顔が特徴的な美少年が優しげに微笑んでいた。
美少年はラーラと視線を出会わせるや否や、目を丸くして半歩後ずさった。
「こほん」
高鳴る鼓動を誤魔化し、動揺を鎮めながら彼は言った。
「道に座り込んでいたから、気になって来てみたんだ。何か困ったことはないかい?」
「ご心配なく、ちょっと疲れてしまっただけですから」
返答を聞いて、少年の顔がさらに明るくなる。
「じゃ、じゃあ、そこの店で一緒にお茶しないかい? 息抜きには持ってこいなんだ。君は疲れているんだろう? 僕は冒険者でね、お金はいっぱいあるからご馳走させて欲しいんだ」
グレアには特に断る理由がなかった。例え後半の文言がなくとも誘いに乗っただろう。
「まだ名乗ってなかったね。僕はフェソロフォート。ワイバール王国を中心にフリーランスで銅級冒険者をやっているよ。君は?」
「私はグレア。同じく冒険者で、ケンダル王国の出身です」
「へー冒険者! なんだか奇遇だね。等級を聞いてもいいかな?」
グレアは一瞬黙ったが、動揺せずに答えた。
「ふふ、秘密です。…でも貴方より高いかも」
そのいたずらっぽい態度に少年の心臓が跳ねる。
だが急いてはいけない。落ち着いて反応した。
「すごいね! 銀級以上ってことでしょ? 僕とそんなに年齢は変わらないように見えるのに、すごく強いんだね。君は剣士? 魔法使い? それとも弓兵だったりするのかな?」
「剣士だけど、魔法もちょっとだけ」
「え、魔法剣士ってこと? 珍しいね。そんなことが出来るなんて、君はすごく器用な人なんだね。僕の方は剣士で、流派は『蒼風流』なんだけど、それだけでいっぱいいっぱいだよ」
「『蒼風流』なんですか? 私も『蒼風流』なんですよ」
「おお、そうなんだ! じゃあちょっと教えてもらおうかな」
「私で良ければ、もちろんですよ」
その後も二人の会話は盛り上がり、明日また会う約束を取り付けたフェソロフォートは嬉々として支払いに向かったが、グレアに引き留められる。
「待って。私が払います」
「いいのかい?」
「貴方に元気づけてもらったし、こんなにいいお店を紹介してもらったから、これはそのささやかなお礼です。大丈夫、私は貴方よりランクの高い冒険者ですから、お金は心配しないで」
「あはは、恥ずかしいなあ」
先の自分の誘い文句を思い出してフェソロフォートは照れ笑いをした。
奢られた彼は、店を出るや否や勇気を振り絞り、半ば緊張して言った。
「明日また会わないかい?」
グレアの表情は変わらなかった。
ただ、
「どこ?」
とだけ尋ねた。
フェソロフォートは嬉しくなり、嬉々として約束を取り付けた。
軽い足取りで自分と反対の方向へ帰路につく彼を尻目に、グレアもラーラの捜索は一旦諦め、宿に戻ることにした。
人気のない通りを歩いていると、突如周囲からぞろぞろと出てきて一瞬にして囲まれる。
全員がグレアと同世代の少女で、なにやらきな臭い雰囲気である。
「ねえ、あんた」
リーダーらしき者がグレアを人差し指で差しながら言う。
「よそ者のくせしてフェソ君をたぶらかして、何様のつもり?」
「…こちらとしては、貴方たちが何者なのか気になるのだけど」
グレアはきょとんとして答えた。
「はあ、やっぱり分かってないのね。フェソ君は私達のものなの。ちょっと顔が良いからって調子に乗らないでよね。みんな、こいつ馬鹿だから『教育』してあげようよ!」
少女たちはほうきやフライパンなどを取り出し、一斉にグレアに襲い掛かった。
グレアはそれを受け流したり回避したりしながら、目標を失ったとも知らずに未だどんちゃん騒ぎしている群衆の間を抜け出し、ゆっくりと宿に戻った。
(今日は変わったことが多かったな)
ベッドの上で寝ころびながらぼんやり思う。
(フェソロフォート…なんだか真っ直ぐでアルクに似た子だったな…。明日も会うのか…)
グレアの胸に何か不思議な感情が湧いてくるのだった。
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