10 / 202
第一章
第九話
しおりを挟む
しばらく服を乾かした後、私達は帰途についた。
「わっ、ウサギ!」
「え!?」
帰り道、一人の声に反応し、残りの全員も振り向く。
茂みの間から、確かに昼の雲みたいな白色のウサギが、二本足でちょこんと立ってこちらを伺っていた。
「追いかけようぜ!」
「あっ、待って!」
私の止める声も聞かずに、アルクは茂みを越えて行ってしまった。
「待ってよ、アルク!」
皆が続々とアルクを追いかけた。
これ以上ないほどに縦横無尽、無我夢中に駆け回ってしまった。
ウサギは足が速く、到底追いつけっこなかった。
みるみる道から外れ、暗い森の奥へと入っていく。
村の掟では、入ってはいけない領域だ。
撃ち抜いてやろうかと、一瞬迷った。
そうすればみんな止まると。
でも過去の記憶と現在の幸福感とが邪魔をした。
気づけば、ウサギはいなくなっていた。
「ここは…どこだ?」
周囲を見回す。
全面、入り組んで生えた太い木々が私達五人を囲っていた。
ここがどこなのか、全く見当がつかない。
人の痕跡もない。当然だ。
こんな深い所、普段みんなが来る訳がない。
「な、なあ戻ろうぜ」
「でもどこから来たかわかんないよ」
三人が明らかに怯えているのがわかった。
私は何か言葉を掛けようとしたが、いかんせん言葉が出てこなかった。
第一、私自身も不安だったのだ。
だがその時、アルクは明るい声色で、言った。
「大丈夫だ」と。
「まだお日様が出てるからオオカミは居ないだろうし、俺達が居るところだってそんなに深くねえはずだ。道がわかんなくても、いつか帰れるよ」
オオカミに立ち向かった時に感じた勇気とリーダーシップは本物だった。
やっぱりアルクはすごい人だ。
「向こうに行ってみようよ」
友達の提案に乗り、私達はひとまず西(だと思う)方に進んでいった。
どこまでいっても代わり映えがしないので、今度は別の方向に進む。
「おお!?」
鬱蒼とした森からようやく解放された。
木々が切り倒されて積まれ、砕けた石が散乱した、広い芝生の場所に辿り着いた。
何物にも遮断されない太陽の光が私達の全身を暖めていく。
「一旦ここで休んでいこうぜ」
私達のために強がっていたが、やはり少なからず心細さはあったのだろう。アルクは思わずそう口にした。
五人は地面に座り込み、笑顔を向け合った。
明るいから、暖かいから、広いから…それもあるが、何よりも石片や丸太。
「よかった、人の居た形跡があってーー」
その時、地面が大きく揺れた。
「何? 地震!?」
いや、違う。何かが違う。
私とアルクは跳ねるように立ち上がった。
揺れはどんどん近付いてくる。
木々の間に、「それ」の太い腹が見えた。
皮のズボンを履き、片手に石の大斧を携えた、緑色の肌を持つ太った巨人。
言い伝えそのままの姿だ。
魔物だ。
亜人の中で一番危険で、一番珍しい、「トロール」だ。
「わっ、ウサギ!」
「え!?」
帰り道、一人の声に反応し、残りの全員も振り向く。
茂みの間から、確かに昼の雲みたいな白色のウサギが、二本足でちょこんと立ってこちらを伺っていた。
「追いかけようぜ!」
「あっ、待って!」
私の止める声も聞かずに、アルクは茂みを越えて行ってしまった。
「待ってよ、アルク!」
皆が続々とアルクを追いかけた。
これ以上ないほどに縦横無尽、無我夢中に駆け回ってしまった。
ウサギは足が速く、到底追いつけっこなかった。
みるみる道から外れ、暗い森の奥へと入っていく。
村の掟では、入ってはいけない領域だ。
撃ち抜いてやろうかと、一瞬迷った。
そうすればみんな止まると。
でも過去の記憶と現在の幸福感とが邪魔をした。
気づけば、ウサギはいなくなっていた。
「ここは…どこだ?」
周囲を見回す。
全面、入り組んで生えた太い木々が私達五人を囲っていた。
ここがどこなのか、全く見当がつかない。
人の痕跡もない。当然だ。
こんな深い所、普段みんなが来る訳がない。
「な、なあ戻ろうぜ」
「でもどこから来たかわかんないよ」
三人が明らかに怯えているのがわかった。
私は何か言葉を掛けようとしたが、いかんせん言葉が出てこなかった。
第一、私自身も不安だったのだ。
だがその時、アルクは明るい声色で、言った。
「大丈夫だ」と。
「まだお日様が出てるからオオカミは居ないだろうし、俺達が居るところだってそんなに深くねえはずだ。道がわかんなくても、いつか帰れるよ」
オオカミに立ち向かった時に感じた勇気とリーダーシップは本物だった。
やっぱりアルクはすごい人だ。
「向こうに行ってみようよ」
友達の提案に乗り、私達はひとまず西(だと思う)方に進んでいった。
どこまでいっても代わり映えがしないので、今度は別の方向に進む。
「おお!?」
鬱蒼とした森からようやく解放された。
木々が切り倒されて積まれ、砕けた石が散乱した、広い芝生の場所に辿り着いた。
何物にも遮断されない太陽の光が私達の全身を暖めていく。
「一旦ここで休んでいこうぜ」
私達のために強がっていたが、やはり少なからず心細さはあったのだろう。アルクは思わずそう口にした。
五人は地面に座り込み、笑顔を向け合った。
明るいから、暖かいから、広いから…それもあるが、何よりも石片や丸太。
「よかった、人の居た形跡があってーー」
その時、地面が大きく揺れた。
「何? 地震!?」
いや、違う。何かが違う。
私とアルクは跳ねるように立ち上がった。
揺れはどんどん近付いてくる。
木々の間に、「それ」の太い腹が見えた。
皮のズボンを履き、片手に石の大斧を携えた、緑色の肌を持つ太った巨人。
言い伝えそのままの姿だ。
魔物だ。
亜人の中で一番危険で、一番珍しい、「トロール」だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
氷弾の魔術師
カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語――
平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。
しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を――
※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる