魔王メーカー

壱元

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第一章

第十話

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 緑色のザラザラとした肌、太短い足、毛皮を縫い合わせて作られたズボン、丸くて大きな腹、石と木の枝を結びつけて出来た斧、鳥の嘴のように尖った鼻と耳、敵意を持ってこちらを見つめる真っ赤な丸い目、頭頂部にちょこんと生えた短い髪、最低でも2メートルはありそうな身長。

トロールは地面を揺らしながら、ゆっくりとこちらに近付いてきた。

 アルクは地面に座ったまま動けない三人に、

「逃げろ!」

と叫んだ。

三人は猫に見つかった鼠のように走り出そうとした。

「逃げないで! 向こうにもう一匹いるかも知れないから!」

幸いにも、私の声で止まってくれた。

アルクは私に何か言おうとしたが、ここまでの転嫁不可の経緯と切迫した現状とを鑑みてか、結局沈黙していた。

トロールはしばらく頭をポリポリ掻いていたが、とうとう私達の方に走り寄ってきた。

斧を振り上げながら。

「グレア、やるぞ。俺が引き付けるから、お前が魔法で攻撃してくれ。お前、そういうの得意だろ」

まさか彼にそんなことを言われるとは思わなかった。

ショックを受け、不吉な言葉が喉から出かかって居たが、今は初めての口論をしている場合じゃない。

「…わかった」

私は両手の掌を敵に向けた。

手が震えている。でも、魔力は集中できる。

やることは一つだ。怯えるな。

「おらあああ!!」

その時、アルクが雄叫びと共に走り出す。

地面に落ちた石片を拾いながらトロールの横に回り込む。

敵の視線が私から彼の方に移動する。

身体を回転させ、その持ち上げた腕に力を込める。

「アルク!」

斧が思い切り振り下ろされ、小石と土埃が舞う。

その中から声が聞こえた。

「大丈夫だ!」

アルクだ。ひとまずは安心だ。

「かかってこいよ、太っちょ!」

彼は石を投げつけた。

石はトロールの鼻頭に当たり、出血させた。

トロールは斧を顔の前で構え、後退りながら、もう片方の手でそこに触れ、付着した物を見るや、血相を変えた。

「『大火球ビシア』」

私の両手から、直径50cm程の炎の球が勢いよく飛んでいく。

火球は敵の膝、そして毛皮のズボンに直撃した。

「グヲヲヲ…」

敵は思わず跪いて、苦しげに、重く低く唸った。

だが本当の地獄はこれからだった。

焦げて抉れた膝の上でズボンはどんどん燃えていく。

敵がそれに気づくまで、時間は掛からなかった。

「ガアアアアアアア!!」

敵は地面に寝転び、割れんばかりの大声で叫びながら、砂や石を飛び散らせてのたうち回った。

灼熱は腿から股間へ、さらには反射的に伸ばした手に、伝わっていく。

「今だ! アルクは石を出来るだけ多く持って! みんなで逃げるよ!」

「おう!」

私達は、この隙に退散した。

勿論、他のトロールが居る可能性も頭に入れながら。 

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