魔王メーカー

壱元

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第二章 前編

第十六話

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 私達は並んでベッドの上に座った。

「そういえば」

今度は私の方から切り出す。

「伯爵は、どうして私を殴ったのでしょう?」

「ああ…あの人は昔からそういう『へき』なのです」

「へき?」

私が不思議に思って尋ねると、ラーラははっとした様子で口元を隠した。

「何でもないです。あの人は『美しいものを自分の手で傷つけること』がお好きなのです。…思い出してください。貴女、私、バセリア、それからあの執事…セインと言うのですが…あと、女中たち。全員容姿端麗といえませんか?」

「あ、確かに!」

それに、あの作業部屋にあった壺。

恐らくあれも伯爵が破壊したものだろう。

「では、ラーラ様も、その、殴られたのですか?」

ラーラは黒い丈の長い服を着ていたが、その裾を掴んでたくし上げた。

紫色の光を受けた真っ白なお腹には、痣が薄く残っていた。

「…そんなまじまじと見られると、少し恥ずかしいです」

「あ、ごめんなさい」

彼女は服装を元に戻し、話を再開した。

「ところで、そのネックレス。それに手を触れてみてください」

「…? はい」

私は手を近付けた。しかし、ネックレスに触れる寸前でどうしても止まってしまう。

「あれ?」

「…やっぱり」

ラーラは真剣な顔で私からネックレスを取った。

「これだけ配下に対して横暴を極めているのに、伯爵は『名君』で居られるのか気になりませんか? その理由がこれです。このネックレスには、所謂『洗脳魔法』が掛かっています。初期段階では『取り外しを禁止する』効能しか持ちませんが、睡眠などで着用者の意識が不鮮明になっている間に、宝石によって洗脳が進行し、『指定された人物の行動を無条件に合理化する』ようになります。そして、それは、仮にネックレスを外しても効果を失わないのだと思われます。…付けていないと怪しまれますから、掛けられている魔法だけを打ち消します」

小さな両手で宝石を握ると、彼女は器用にもそれに魔力をぶつけた。

「消えました。付けても大丈夫です」

「ありがとうございます」

受け取ったネックレスからは確かに魔力が消えていた。

 その後も色々話したが、夜も深まってきたので、解散することにした。

私が立ち上がり扉の前まで行くと、彼女は小さく手を振った。

「おやすみなさい、私の素敵な共犯者さん」

「おやすみなさい」

私は階下の自室に移動した。


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