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第二章 後編
第八話
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私の近衛兵就任から一週間。
ラーラの傷は完治し、バセリアも運動ができるようになった。
伯爵直属となった今、私は自由に自己決定出来る。
私は自ら伯爵と交渉し、晴れてバセリアの弟子となった。
剣術の訓練初日、私が指定のとおり、城内の広場に到着した時、既に彼女は甲冑を装備していて、右手のみを使って腕立て伏せをしていた。
額には汗が光り、この基礎鍛錬が既に長時間に及んでいることが窺い知れた。
「おはようございます。バセリア様」
私が挨拶をすると、バセリアは顔を上げた。
「ああ、おはよう」
返してくれたが、動作は継続したままだ。
彼女が満足するまで、しばらく待機して見学してみることにした。
そよ風が吹き、葉が揺れ、さらさらと音を立てる。
時偶、その何枚かが落ち、乾いた音も聞こえる。
風は、私やバセリアの髪も静かに揺らした。
風が止むと、技巧に裏打ちされた、静かなリズムの存在に気付く。
バセリアの呼吸と運動は完璧に連動し、乱れがない。
基本的な動作にも美しさが見て取れる。
これが「武」であるのか、と感心しつつ、ふとある事を想起し、それを念頭に置いて改めて観察してみる。
その時、新しい真実に出会った。
「お疲れ様です」
「ああ。待たせたな」
彼女は汗を拭いつつ、いつぞやの木剣をいつぞやのように投げ渡してきた。
私は、今度は自ら望んでそれを受け取った。
「まずは基本の構えと剣の振り方を教える」
「はい」
バセリアは両手で剣をしっかりと握り、踵を少し上げ、軽く腰を落とした。
「やってみろ」
「…はい」
私も見よう見まねで構えてみるが、すぐに指摘される。
「全身に力が入り過ぎだ。あと、剣を傾け過ぎている」
私が修正すると、さらに指摘がいくつか入った。
これに応じても、また問題点が生まれて指摘され、それに応じても指摘される…
師に「よし」と言わせるまで、おそらく三十分は掛かっただろう。
「その姿勢を崩さないようにな。これから素振りと基礎的な歩法を教える。見ていろ」
バセリアは姿勢を保持しつつも、柔軟に身体を使い、前後に無駄のない動きで移動しつつ、体重移動に連動して木剣を振り下ろした。
「やってみろ」
私も真似してみたが、やはり指摘された。
「左腕に力が入っていない。あと、両脚の動きが固い。鞭のようにしならせるイメージだ」
私が応じると、さらに指摘され、それに対応すると、次なる指摘が待っている。
これも師に「よし」と言わせるまで、おそらく四十分は掛かっただろう。
「一旦休憩だ」
「はあ」
私は地面に倒れ込んだ。
肉体よりも、精神面がやられた。
そんな私の横にバセリアは胡座をかき、
「少し剣術について話してやろう。お前、そっちの方が得意だろう?」
と言って、語り始めた。
曰く、この世界には数えきれない程多くの武術があるという。剣術も数百の流派に分かれているが、その中でも特に勢力の大きな流派が六つある。
大陸西方北部地域発祥の、剛力に頼った強力な攻撃と、耐久力を盾にした真正面からの打ち合いを得意とする力強い「白巌流」。
大陸南方の島嶼群発祥の、二刀流や野太刀、仕掛けのある装備を用いた予測不能でトリッキーな戦い方を特徴とする「八星流」。
大陸北方地域発祥で、武器破壊や与傷によって敵を無駄なく無効化することに極致を求めた活殺自在の「乾坤流」。
大陸中央地域発祥で、魔法と剣術を組み合わせた技術体系を持ち、あらゆる局面において不可能を可能にする「魔人流」。
大陸東方地域発祥で、あらゆる「力」の操作と、魔力観察による先読みによって水のように柔よく剛を制す「泰然流」。
そして、大陸西方南部地域発祥の、独特な走・歩法による高速移動と目にも止まらない攻撃によって相手に反応させる隙を与えない「蒼風流」。
「私は『蒼風流』の『疾風のバセリア』だ」
彼女は誇らしげに言った。
休憩が終わり、再び構え+素振り。
やはり指摘の嵐。
厳しいが、それだけ細かく面倒を見てくれているということだろう。
私は嬉々として残りの二時間を過ごした。
初日の練習は午前中で終了となった。
だが熱は冷めず、昼食後、無理を承知でバセリアに懇願してみた。
すると、午前のように付きっきりとはいかないものの、彼女自身の練習の傍ら、監督してくれる事になった。
「やる気があるのはいい事だ」
バセリアは嬉しそうに微笑んだ。
午後、弟子と師は一緒に素振りの練習をしていた。
私は極力、隣のバセリアを観察し、自主的に動きの修正をするよう心掛けた。
しかし私一人では限界があるので、彼女が素振りを終えたタイミングで声を掛けてみた。
「見せてみろ」
言われるまま、私は自分なりの集大成を披露した。
本日唯一の称賛を得ることが出来ると思っていたのだが、結果はまたも惨敗。
「集中力が切れているな。剣に魂が篭っていない。お前は初日にしては良くやった。もう大人しく休め」
「はい」
指示の通り、私は一足先に帰城した。
ラーラの傷は完治し、バセリアも運動ができるようになった。
伯爵直属となった今、私は自由に自己決定出来る。
私は自ら伯爵と交渉し、晴れてバセリアの弟子となった。
剣術の訓練初日、私が指定のとおり、城内の広場に到着した時、既に彼女は甲冑を装備していて、右手のみを使って腕立て伏せをしていた。
額には汗が光り、この基礎鍛錬が既に長時間に及んでいることが窺い知れた。
「おはようございます。バセリア様」
私が挨拶をすると、バセリアは顔を上げた。
「ああ、おはよう」
返してくれたが、動作は継続したままだ。
彼女が満足するまで、しばらく待機して見学してみることにした。
そよ風が吹き、葉が揺れ、さらさらと音を立てる。
時偶、その何枚かが落ち、乾いた音も聞こえる。
風は、私やバセリアの髪も静かに揺らした。
風が止むと、技巧に裏打ちされた、静かなリズムの存在に気付く。
バセリアの呼吸と運動は完璧に連動し、乱れがない。
基本的な動作にも美しさが見て取れる。
これが「武」であるのか、と感心しつつ、ふとある事を想起し、それを念頭に置いて改めて観察してみる。
その時、新しい真実に出会った。
「お疲れ様です」
「ああ。待たせたな」
彼女は汗を拭いつつ、いつぞやの木剣をいつぞやのように投げ渡してきた。
私は、今度は自ら望んでそれを受け取った。
「まずは基本の構えと剣の振り方を教える」
「はい」
バセリアは両手で剣をしっかりと握り、踵を少し上げ、軽く腰を落とした。
「やってみろ」
「…はい」
私も見よう見まねで構えてみるが、すぐに指摘される。
「全身に力が入り過ぎだ。あと、剣を傾け過ぎている」
私が修正すると、さらに指摘がいくつか入った。
これに応じても、また問題点が生まれて指摘され、それに応じても指摘される…
師に「よし」と言わせるまで、おそらく三十分は掛かっただろう。
「その姿勢を崩さないようにな。これから素振りと基礎的な歩法を教える。見ていろ」
バセリアは姿勢を保持しつつも、柔軟に身体を使い、前後に無駄のない動きで移動しつつ、体重移動に連動して木剣を振り下ろした。
「やってみろ」
私も真似してみたが、やはり指摘された。
「左腕に力が入っていない。あと、両脚の動きが固い。鞭のようにしならせるイメージだ」
私が応じると、さらに指摘され、それに対応すると、次なる指摘が待っている。
これも師に「よし」と言わせるまで、おそらく四十分は掛かっただろう。
「一旦休憩だ」
「はあ」
私は地面に倒れ込んだ。
肉体よりも、精神面がやられた。
そんな私の横にバセリアは胡座をかき、
「少し剣術について話してやろう。お前、そっちの方が得意だろう?」
と言って、語り始めた。
曰く、この世界には数えきれない程多くの武術があるという。剣術も数百の流派に分かれているが、その中でも特に勢力の大きな流派が六つある。
大陸西方北部地域発祥の、剛力に頼った強力な攻撃と、耐久力を盾にした真正面からの打ち合いを得意とする力強い「白巌流」。
大陸南方の島嶼群発祥の、二刀流や野太刀、仕掛けのある装備を用いた予測不能でトリッキーな戦い方を特徴とする「八星流」。
大陸北方地域発祥で、武器破壊や与傷によって敵を無駄なく無効化することに極致を求めた活殺自在の「乾坤流」。
大陸中央地域発祥で、魔法と剣術を組み合わせた技術体系を持ち、あらゆる局面において不可能を可能にする「魔人流」。
大陸東方地域発祥で、あらゆる「力」の操作と、魔力観察による先読みによって水のように柔よく剛を制す「泰然流」。
そして、大陸西方南部地域発祥の、独特な走・歩法による高速移動と目にも止まらない攻撃によって相手に反応させる隙を与えない「蒼風流」。
「私は『蒼風流』の『疾風のバセリア』だ」
彼女は誇らしげに言った。
休憩が終わり、再び構え+素振り。
やはり指摘の嵐。
厳しいが、それだけ細かく面倒を見てくれているということだろう。
私は嬉々として残りの二時間を過ごした。
初日の練習は午前中で終了となった。
だが熱は冷めず、昼食後、無理を承知でバセリアに懇願してみた。
すると、午前のように付きっきりとはいかないものの、彼女自身の練習の傍ら、監督してくれる事になった。
「やる気があるのはいい事だ」
バセリアは嬉しそうに微笑んだ。
午後、弟子と師は一緒に素振りの練習をしていた。
私は極力、隣のバセリアを観察し、自主的に動きの修正をするよう心掛けた。
しかし私一人では限界があるので、彼女が素振りを終えたタイミングで声を掛けてみた。
「見せてみろ」
言われるまま、私は自分なりの集大成を披露した。
本日唯一の称賛を得ることが出来ると思っていたのだが、結果はまたも惨敗。
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