魔王メーカー

壱元

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第三章

第十二話 前編

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 ラーラが後方に「影渡りヌイコーゼ」しての攻撃の警戒にあたっている間、グレアとキリカは静かに睨みあっていた。

(次で仕留める…)

(この勝負、次で決着するな)

三人のうち、二人が同時に動き出す。

勝負は一瞬で決した。

グレアは剣を振るった。だがそこに敵の姿はなかった。

キリカは懐に入った。

彼女の黒い斬撃は、グレアの首を切断する。












しかしここで不思議なことが起こった。

刃は確実に首の中を貫通し、肉の中を横へと通り抜けた。

キリカの腕は確かであり、その感覚に狂いは断じてなかった。

なのに、事実として、グレアの首は繋がったままなのである。

グレアの反撃の一撃が、一瞬にしてキリカの右腕を身体から切り離す。


 先程のことだ。

グレアが立ち上がり、両手で剣を構えて敵と向かい合う。その時にラーラに囁きかけた。

「隙を作ります。だから追撃を」

グレアは返事を聞く前に敵とかち合った。

その踏み出しは速くも、斬撃は遅かった。刃に纏わりついた「闇」によって、文字通り瞬く間にグレアは首を切断された。

そう、キリカの攻撃はあまりに速かった。速すぎたのだ。そして洗練されすぎていた。

だから切断面積は最小限で、刃が入ってから切断完了するまでに要した時間は、例えば血液が噴き出すより遥かに短かった。

断頭後の人間の意識の有無については様々議論があるが、あまりに常軌を逸した短時間であれば「消える」方が難しいのではないだろうか。

そして「思考」はその超短時間に追いつくスピードの持ち主である。

だから、グレアの脳から発せられた「頸部への『接木』発動の命令」は切断直後、切断前と”ほぼ変わらない”位置・状態のまま存在している、切断された頸部をごく自然に繋ぎ合わせることに成功した。


 非情にも、彼女は唯一無二の右腕を喪失して初めてようやく自分の置かれた状況を理解し、魔法を使って距離を取った。

しかしながら、彼女の「理解」は少しばかり浅かった。

「あ」

「影渡り」した先の地面に左足が「喰われ」た。

今度もまた状況を飲み込めないまま、地面に臥せる。

 彼女が「落ちこぼれ」たる所以はここにあった。

見る者全てが心を奪われる美貌、閉所では無双の中近距離戦闘能力、痕跡からそれが誰のものかさえ特定できてしまう魔力探知能力…

彼女は闇討ちや騙し打ち、市街戦向けに「設計」されたのだが、それらに必要不可欠なある要素が欠けていた。

いくら「魔麻布」が貴重で高価で、かつ「引き換えに体力を消耗する」というデメリットがあろうと、相手が「銀級」を軽く屠る強豪で、さらには自分が相手に数で負け、魔力残量で劣っているならば傷を負う前に迷わず使用するのが筋であろう。

少なくとも他の「夜明けの旅団」メンバーならばそうしただろう。

彼女は、少々愚鈍だったのである。


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