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第三章
第十二話 後編
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(帰らないと…生きて帰らないと…)
キリカが残った手足で地面に這いつくばり、腕を伸ばして武器を掴む。
敵は二人とも最期の一撃の準備が出来ていた。
(マギク…)
刹那、グレアが「光槍」を発動する。
だがそこに標的の姿はなかった。
ラーラの背後にキリカは浮かんでいた。
グレアがハッとした様子で振り返る。
空中で全身をくねらせて体勢を整えた暗殺者は、全力を以て刃を振り下ろした。
次の瞬間彼女が見たのは、水色の光だった。
キリカはそれに押し返された。
「結界魔法」。
ラーラはゼゼゾームと、彼の「腕輪」から結界の仕組み自体についてはかねてより知っていた。だが、そこに潜む複雑性故に再現には苦戦し、安定した成功はなかった。
「不発」に終わる可能性が高く、もしそうなれば死は免れない。
これも命を対価にした重大な賭けだった。彼女は、相方の「接木」を使った決死の行動に影響されたのである。
「結界」の向こう側、左手に魔力を集めているもう一人の敵の姿が、キリカには見えた。
結界が切れた瞬間に「光槍」が発動するはずだ。
キリカは結界に向かって「影渡り」で接近し、刃先を突き立てた。
先端に「闇」が集まる。
今までに披露したものとは異なる、一点突破による破壊の為に存在する技法。
盾が脆いか刃が鋭いか、キリカの反撃は結界を破り、グレアに反応させる間も与えず、勢いを維持したままラーラの胸の中心から右脇腹をすり抜けた。
「くっ!」
怒り心頭のグレアが遅れて斬撃を見舞う。だがキリカは「隼斬り」よりさらに速く「影渡り」を発動し、再び距離を取った。
傷口から血液が勢いよく噴き出し、ラーラは息を切らしながら跪いた。
「大丈夫ですか…!」
「…なんとか。心臓はやられていないみたいです。でも消化器系が駄目ですね…けはっ!」
「もういいです!」
「いえ、喋らせてください…」
止血処置をしながら、苦し気な声でラーラは続ける。
「もう私は動けません。『貴女を守る』って約束したのに…ごめんなさい…あとはお願いします」
「…わかりました」
グレアは答えると剣を構えなおした。その全身の筋肉は魔力で満たされていく
「でも私もこの後動けなくなるかもしれません」
キリカがグレアの視界内から消失する。
グレアはすぐさま振り返り、今までの何倍も速く剣を振るった。
キリカは攻撃を繰り出す程の時間も与えられず、焦りながら「影渡」った。
敵が後方20mの地面に出現するや否や、グレアは過剰な魔力に充ちた肉体で「駿馬」を使い、未だ落下途中のキリカを斬りつけた。
キリカは反射的に短剣の峰で受けたが、受けきれず身体全体が遠くの地面に弾き飛ばされた。
砂や石で皮膚を切りながら地面を滑るキリカに、グレアが再び追い付き、剣を豪快に振り下ろす。
暗殺者は残った二本の手と足で地面を転がって紙一重で避けると、黒い斬撃を発生させた。
だがグレアは地面に刺さった剣を素早く引き抜いてすぐに回避し、その後「雲歩」で接近し薙ぎ払う。
辛うじて「影渡り」が間に合うが、またも追い付かれて斬撃に見舞われる。
さらに「渡」り、斬られ、「渡」り、斬られる…
(あんな力で振り回したら、手足がちぎれるはずだ。なのになんでだろ)
「任務」に当たっては常に集中力を切らさない「紅き黒猫」が、今まさにパニックになり始めていた。
(魔力も切れないし。どうして? マギクにきかなきゃ)
「あ、そうだ」
次の瞬間、キリカは上半身だけで地面に転がった。
グレアが右腕を力なく垂らし、左腕一本で剣を持ち上げている。その瞳には敵の首の部分が映っていた。
(そうだ、帰ったらマギクに伝えよう。今までありがとう、これからもずっと一緒にいてほしい、って…)
短剣を目掛けて伸ばした手がぴたりと止まり、金製のネックレスが血だまりの中に落ちる。
(マギクが大好きだ、って…)
地面を転がったキリカの頭から、ようやく意識が消える。
キリカが残った手足で地面に這いつくばり、腕を伸ばして武器を掴む。
敵は二人とも最期の一撃の準備が出来ていた。
(マギク…)
刹那、グレアが「光槍」を発動する。
だがそこに標的の姿はなかった。
ラーラの背後にキリカは浮かんでいた。
グレアがハッとした様子で振り返る。
空中で全身をくねらせて体勢を整えた暗殺者は、全力を以て刃を振り下ろした。
次の瞬間彼女が見たのは、水色の光だった。
キリカはそれに押し返された。
「結界魔法」。
ラーラはゼゼゾームと、彼の「腕輪」から結界の仕組み自体についてはかねてより知っていた。だが、そこに潜む複雑性故に再現には苦戦し、安定した成功はなかった。
「不発」に終わる可能性が高く、もしそうなれば死は免れない。
これも命を対価にした重大な賭けだった。彼女は、相方の「接木」を使った決死の行動に影響されたのである。
「結界」の向こう側、左手に魔力を集めているもう一人の敵の姿が、キリカには見えた。
結界が切れた瞬間に「光槍」が発動するはずだ。
キリカは結界に向かって「影渡り」で接近し、刃先を突き立てた。
先端に「闇」が集まる。
今までに披露したものとは異なる、一点突破による破壊の為に存在する技法。
盾が脆いか刃が鋭いか、キリカの反撃は結界を破り、グレアに反応させる間も与えず、勢いを維持したままラーラの胸の中心から右脇腹をすり抜けた。
「くっ!」
怒り心頭のグレアが遅れて斬撃を見舞う。だがキリカは「隼斬り」よりさらに速く「影渡り」を発動し、再び距離を取った。
傷口から血液が勢いよく噴き出し、ラーラは息を切らしながら跪いた。
「大丈夫ですか…!」
「…なんとか。心臓はやられていないみたいです。でも消化器系が駄目ですね…けはっ!」
「もういいです!」
「いえ、喋らせてください…」
止血処置をしながら、苦し気な声でラーラは続ける。
「もう私は動けません。『貴女を守る』って約束したのに…ごめんなさい…あとはお願いします」
「…わかりました」
グレアは答えると剣を構えなおした。その全身の筋肉は魔力で満たされていく
「でも私もこの後動けなくなるかもしれません」
キリカがグレアの視界内から消失する。
グレアはすぐさま振り返り、今までの何倍も速く剣を振るった。
キリカは攻撃を繰り出す程の時間も与えられず、焦りながら「影渡」った。
敵が後方20mの地面に出現するや否や、グレアは過剰な魔力に充ちた肉体で「駿馬」を使い、未だ落下途中のキリカを斬りつけた。
キリカは反射的に短剣の峰で受けたが、受けきれず身体全体が遠くの地面に弾き飛ばされた。
砂や石で皮膚を切りながら地面を滑るキリカに、グレアが再び追い付き、剣を豪快に振り下ろす。
暗殺者は残った二本の手と足で地面を転がって紙一重で避けると、黒い斬撃を発生させた。
だがグレアは地面に刺さった剣を素早く引き抜いてすぐに回避し、その後「雲歩」で接近し薙ぎ払う。
辛うじて「影渡り」が間に合うが、またも追い付かれて斬撃に見舞われる。
さらに「渡」り、斬られ、「渡」り、斬られる…
(あんな力で振り回したら、手足がちぎれるはずだ。なのになんでだろ)
「任務」に当たっては常に集中力を切らさない「紅き黒猫」が、今まさにパニックになり始めていた。
(魔力も切れないし。どうして? マギクにきかなきゃ)
「あ、そうだ」
次の瞬間、キリカは上半身だけで地面に転がった。
グレアが右腕を力なく垂らし、左腕一本で剣を持ち上げている。その瞳には敵の首の部分が映っていた。
(そうだ、帰ったらマギクに伝えよう。今までありがとう、これからもずっと一緒にいてほしい、って…)
短剣を目掛けて伸ばした手がぴたりと止まり、金製のネックレスが血だまりの中に落ちる。
(マギクが大好きだ、って…)
地面を転がったキリカの頭から、ようやく意識が消える。
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