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第三章
第十四話
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目が覚める。
木製の天井が見える。
私は林の中、青空の下で意識を失ったはずだ。少なくとも私の記憶はそう伝えている。
ならば何故?
気になった私は身体を起こすや否や、驚いて一瞬軽いパニックに陥った。
「ああっ!!」
緑色のざらついた肌、太短い足、毛皮を縫合して作られた服、真っ赤な目、岩のように大きな身体。すぐそこに座っていたのは私のトラウマ、トロールだったのだ。
「ああ、起きたのね」
想像していたよりも高く、優しい声。しかも少し発音に訛りがみられるとはいえ、それは十分に流暢な「汎人語」だった。
「彼女」は椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに近付いた。
「大丈夫、怖がらなくていい。大丈夫。食べないし殴らないから」
敵意は感じられない。私は警戒を緩めて応えた。
「食べられるなんて思っていません。ただ、少し驚いたんです」
「そう、ならいいけど」
彼女はそう軽い感じで流すと、私の横に視線を移した。
そうか! と私も横を見る。そこには、予想通り、ラーラが寝ていて、落ち着いた寝息を立てていた。
「あぁ…」
良かったと胸を撫でおろす。
「この子もまとめて助けてくれたんですね」
「…この子、まだ起きないね」
私の言葉はトロールの耳に入っていないようだった。彼女はただただ深刻そうな表情を浮かべていた。
そのうち、彼女はラーラに顔を近付けた。
私は一瞬身構えたが、彼女は匂いを嗅いでいるようだ。
「どうしたんですか?」
「…やっぱり」
彼女が下がり、顎に手を当てる。
「魔力のにおいが、しないの」
「え?」
「普通、生き物からは魔力のにおいする。でも、この子からはしない」
魔力切れになっているということだろうか。きっとあの奇襲者との戦いの負担が効いているか、或いはそのあと、私が寝ていた間に繰り返し何かの魔法を使ったのかもしれない。そういった旨を説明した。
だが、
「でもおかしい」
彼女は反論した。
「魔力、寝てれば治る。二日か三日ずっと寝れば。今日は三日目なの。でも全然治らないし、起きないの」
「…ラーラは怪我していた筈です。それで魔力回復が遅くなって、回復の為に寝ているとか…」
「ううん。普通、傷より魔力が早く治る。この子、傷が治ってきてる。でも魔力ずっと戻らないから、おかしいの」
「…え?」
私は居ても立っても居られず、寝床から降りた。
その途端、全身に激痛が走る。
「痛たたっ」
「無理しないで。あなた、まだ身体ぼろぼろ」
そうだ。思い出した。私は全身に魔力を流し込んで疑似的に「回生」を再現し、無理に動き回ったのだ。身体が無事な訳がない。
痛みによって冷静さを取り戻した私は、再び彼女の話に静かに耳を傾けた。
「この子、魔力は戻らない。でも、呼吸してるし、心臓の音も聞こえる。口から入れれば食べ物も食べるし、水も飲むのよ。だから、『私達』はもう少し様子を見るつもり」
私は胸を撫でおろした。
「そうですか、良かった。安心しました。ところで、『私達』? …他にもお仲間がいるのですか?」
「…ここは私達トロールの村なのよ。身体が治ったら案内してあげる。あと何日かすれば治るはずだから」
それから四日が経った。私達の世話をしてくれていたトロールの女性は「癒し手のキア」というらしい。
キアは四日間献身的に私達の看病をしてくれた。彼女のお陰で、少なくとも私「は」歩けるまでに回復した。
未だ眠ったまま、魔力がないままのラーラのことは気がかりだが、まずはキアとともに村長に挨拶に行くことにした。
木製の天井が見える。
私は林の中、青空の下で意識を失ったはずだ。少なくとも私の記憶はそう伝えている。
ならば何故?
気になった私は身体を起こすや否や、驚いて一瞬軽いパニックに陥った。
「ああっ!!」
緑色のざらついた肌、太短い足、毛皮を縫合して作られた服、真っ赤な目、岩のように大きな身体。すぐそこに座っていたのは私のトラウマ、トロールだったのだ。
「ああ、起きたのね」
想像していたよりも高く、優しい声。しかも少し発音に訛りがみられるとはいえ、それは十分に流暢な「汎人語」だった。
「彼女」は椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに近付いた。
「大丈夫、怖がらなくていい。大丈夫。食べないし殴らないから」
敵意は感じられない。私は警戒を緩めて応えた。
「食べられるなんて思っていません。ただ、少し驚いたんです」
「そう、ならいいけど」
彼女はそう軽い感じで流すと、私の横に視線を移した。
そうか! と私も横を見る。そこには、予想通り、ラーラが寝ていて、落ち着いた寝息を立てていた。
「あぁ…」
良かったと胸を撫でおろす。
「この子もまとめて助けてくれたんですね」
「…この子、まだ起きないね」
私の言葉はトロールの耳に入っていないようだった。彼女はただただ深刻そうな表情を浮かべていた。
そのうち、彼女はラーラに顔を近付けた。
私は一瞬身構えたが、彼女は匂いを嗅いでいるようだ。
「どうしたんですか?」
「…やっぱり」
彼女が下がり、顎に手を当てる。
「魔力のにおいが、しないの」
「え?」
「普通、生き物からは魔力のにおいする。でも、この子からはしない」
魔力切れになっているということだろうか。きっとあの奇襲者との戦いの負担が効いているか、或いはそのあと、私が寝ていた間に繰り返し何かの魔法を使ったのかもしれない。そういった旨を説明した。
だが、
「でもおかしい」
彼女は反論した。
「魔力、寝てれば治る。二日か三日ずっと寝れば。今日は三日目なの。でも全然治らないし、起きないの」
「…ラーラは怪我していた筈です。それで魔力回復が遅くなって、回復の為に寝ているとか…」
「ううん。普通、傷より魔力が早く治る。この子、傷が治ってきてる。でも魔力ずっと戻らないから、おかしいの」
「…え?」
私は居ても立っても居られず、寝床から降りた。
その途端、全身に激痛が走る。
「痛たたっ」
「無理しないで。あなた、まだ身体ぼろぼろ」
そうだ。思い出した。私は全身に魔力を流し込んで疑似的に「回生」を再現し、無理に動き回ったのだ。身体が無事な訳がない。
痛みによって冷静さを取り戻した私は、再び彼女の話に静かに耳を傾けた。
「この子、魔力は戻らない。でも、呼吸してるし、心臓の音も聞こえる。口から入れれば食べ物も食べるし、水も飲むのよ。だから、『私達』はもう少し様子を見るつもり」
私は胸を撫でおろした。
「そうですか、良かった。安心しました。ところで、『私達』? …他にもお仲間がいるのですか?」
「…ここは私達トロールの村なのよ。身体が治ったら案内してあげる。あと何日かすれば治るはずだから」
それから四日が経った。私達の世話をしてくれていたトロールの女性は「癒し手のキア」というらしい。
キアは四日間献身的に私達の看病をしてくれた。彼女のお陰で、少なくとも私「は」歩けるまでに回復した。
未だ眠ったまま、魔力がないままのラーラのことは気がかりだが、まずはキアとともに村長に挨拶に行くことにした。
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