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第三章
第十五話
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村の正式名称は「デザ村」というらしい。
私は「癒し手のキア」に「デザ村」を案内してもらった。
村の建造物の殆どは木造家屋だ。ただし複数階建てに限っては大柄なトロールの重みに耐えられるよう石や金属を中心に造られている。
出会ったトロールの多くが私を見かけると気さくに「汎人語」で話し掛けてくれた。
キアによると、デザ村は付近を行き交う人間の行商人との交易が昔から盛んで、「汎人語」話者は多く、人間の文化に対する偏見も少ないという。
村には井戸や畑、遊び場、料理店など人間の文化に存在している施設が一通り揃っていて、村長の許可が下りれば自由に使っていいということらしい。
「着いたよ」
そうこうしているうちに、村の中で一際豪壮な屋敷の前に辿り着いた。
玄関を入ったところに受付の男性トロールが居た。
彼は「亜人語」でキアと短いやりとりをした後、私に目をやり、「村長、身体大きい。けど、怖がらなくていいです。優しいひと」と言ってくれた。
私達は奥の部屋に案内された。
刹那、私は思わず息を詰まらせた。
部屋の奥にある、魔物の角を使った装飾だらけの玉座に座っていたのは、身長3.5mはあろうかという巨体を持つトロールだった。しかも彼は筋肉や脂肪をたっぷり蓄え、髭も長く伸ばしていたので、すごい迫力だった。
「椅子がある。人の子よ、座りなさい」
彼は地面を揺らすような低い声で私に語りかけた。
「はい。失礼します」
私は緊張しながら人間大の椅子に座り込んだ。キアはその横に胡坐をかいて座った。
「…それで」
彼は髭を撫でながら言った。
「人の子よ、今日は挨拶に来られたということでよいのだな」
「はい…。戦いの中で負傷し、魔力を失って死ぬ寸前であった私達を発見して救助し、あまつさえ回復するまで看病してくださり、ありがとうございました」
「…礼には及ばぬ。幼子が行き倒れていれば放っておくほうが難しい。…貴殿は十分に自分の身を癒したようだな。だが連れの方はどうか」
「それについては、私が」
キアはわざわざ私にも理解できるよう、「汎人語」でラーラの容態について説明してくれた。
「…わかった」
説明を聞いたのち、彼は相変わらず重々しい声で応えた。
「キアよ、看病より離れよ」
まさか、ラーラを見捨てるというのか。
私が気色ばんだのを悟ったのか、村長はすぐにこう続けた。
「お前が二日間の休暇を取っている間、他の者がお前の役割を請け負う。お前は十分に身体を休め、復帰後は交代で看病にあたれ」
「わかりました」
私は胸を撫でおろした。その時、声を掛けられた。
「人の子よ」
「…! はい!」
彼は厳格な様子で言った。
「我が一族に伝わる言葉で、『野獣を狩らば、骨髄まで使え』というものがある。獣は何物にも縛られず、ただ森を駆け回って暮らしている。だが、我らは自由な彼らを否応なしに捕らえ、自らの腹を満たすために利用する。我らと獣どもは同じ重さの命を持ってこの天地の合間に生を戴く、同じ生き物である。そうである以上、『命の利用』には責任が付随し、その身体を無駄にすることは許されぬ。貴殿らは狩りの収穫物ではなく、客人である。だが、我らは自らの意思でもって、許可なしに貴殿らをここに運んできた。最後までその責任は全うするつもりだ」
「…ありがとうございます」
その後、最終的に村の施設を利用してよいということにもなり、挨拶は無事に完了した。
「野獣を狩らば、骨髄まで使え」。
私達が来た道を戻った理由を、ラーラが無茶をしてでも私をジャサー城へ運んだ理由を、私は忘れてなどいない。
ラーラの意識が戻り次第、いや、戻らなくてもジャサー城にいる「同胞」を救いに行くつもりだ。
私には彼らの王を倒し、自己統治を強いた責任がある。
…とはいえ、しばらくここに滞在することになりそうだ。
私は「癒し手のキア」に「デザ村」を案内してもらった。
村の建造物の殆どは木造家屋だ。ただし複数階建てに限っては大柄なトロールの重みに耐えられるよう石や金属を中心に造られている。
出会ったトロールの多くが私を見かけると気さくに「汎人語」で話し掛けてくれた。
キアによると、デザ村は付近を行き交う人間の行商人との交易が昔から盛んで、「汎人語」話者は多く、人間の文化に対する偏見も少ないという。
村には井戸や畑、遊び場、料理店など人間の文化に存在している施設が一通り揃っていて、村長の許可が下りれば自由に使っていいということらしい。
「着いたよ」
そうこうしているうちに、村の中で一際豪壮な屋敷の前に辿り着いた。
玄関を入ったところに受付の男性トロールが居た。
彼は「亜人語」でキアと短いやりとりをした後、私に目をやり、「村長、身体大きい。けど、怖がらなくていいです。優しいひと」と言ってくれた。
私達は奥の部屋に案内された。
刹那、私は思わず息を詰まらせた。
部屋の奥にある、魔物の角を使った装飾だらけの玉座に座っていたのは、身長3.5mはあろうかという巨体を持つトロールだった。しかも彼は筋肉や脂肪をたっぷり蓄え、髭も長く伸ばしていたので、すごい迫力だった。
「椅子がある。人の子よ、座りなさい」
彼は地面を揺らすような低い声で私に語りかけた。
「はい。失礼します」
私は緊張しながら人間大の椅子に座り込んだ。キアはその横に胡坐をかいて座った。
「…それで」
彼は髭を撫でながら言った。
「人の子よ、今日は挨拶に来られたということでよいのだな」
「はい…。戦いの中で負傷し、魔力を失って死ぬ寸前であった私達を発見して救助し、あまつさえ回復するまで看病してくださり、ありがとうございました」
「…礼には及ばぬ。幼子が行き倒れていれば放っておくほうが難しい。…貴殿は十分に自分の身を癒したようだな。だが連れの方はどうか」
「それについては、私が」
キアはわざわざ私にも理解できるよう、「汎人語」でラーラの容態について説明してくれた。
「…わかった」
説明を聞いたのち、彼は相変わらず重々しい声で応えた。
「キアよ、看病より離れよ」
まさか、ラーラを見捨てるというのか。
私が気色ばんだのを悟ったのか、村長はすぐにこう続けた。
「お前が二日間の休暇を取っている間、他の者がお前の役割を請け負う。お前は十分に身体を休め、復帰後は交代で看病にあたれ」
「わかりました」
私は胸を撫でおろした。その時、声を掛けられた。
「人の子よ」
「…! はい!」
彼は厳格な様子で言った。
「我が一族に伝わる言葉で、『野獣を狩らば、骨髄まで使え』というものがある。獣は何物にも縛られず、ただ森を駆け回って暮らしている。だが、我らは自由な彼らを否応なしに捕らえ、自らの腹を満たすために利用する。我らと獣どもは同じ重さの命を持ってこの天地の合間に生を戴く、同じ生き物である。そうである以上、『命の利用』には責任が付随し、その身体を無駄にすることは許されぬ。貴殿らは狩りの収穫物ではなく、客人である。だが、我らは自らの意思でもって、許可なしに貴殿らをここに運んできた。最後までその責任は全うするつもりだ」
「…ありがとうございます」
その後、最終的に村の施設を利用してよいということにもなり、挨拶は無事に完了した。
「野獣を狩らば、骨髄まで使え」。
私達が来た道を戻った理由を、ラーラが無茶をしてでも私をジャサー城へ運んだ理由を、私は忘れてなどいない。
ラーラの意識が戻り次第、いや、戻らなくてもジャサー城にいる「同胞」を救いに行くつもりだ。
私には彼らの王を倒し、自己統治を強いた責任がある。
…とはいえ、しばらくここに滞在することになりそうだ。
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