魔王メーカー

壱元

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第三章

第十六話

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 「金級」パーティ「夜明けの旅団」一同は、とある宿の一室にて会議を行っていた。

「キリカが未だに帰ってこない」

「奇跡のマギク」が頭を抱えながら言う。

「もうこれで三日だ」

「…若旦那」

老兵、「星狩りのジールバード」は壁にもたれかかりながらふと口を開いた。

「やっぱりあいつを一人で行かせたのは間違いだったのかもな」

「いや…だって、『無理をするな』って、『少しでも不利なら逃げろ』って僕は言ったはずだよ。それはありえない」

「…俺だってそう思った。確かにキリカには実力がある。特に近接戦闘に限ればこのパーティの中で一番だ。逃げようと思えば逃げられるしぶとさもある。しかも常に平静を保ち深追いはしない。だがあいつには少し不安定な所があるだろ。…死んだなんて言わねえ。だが、それが原因で何かしら望まれないことが起こってるってのは十分ありえるだろ」

「くっ…」

思い詰めるマギクを、隣にいた、長い赤髪と橙色の瞳に吊り目が特徴的な美少女が優しく抱き締める。

若き天才剣士「炎刃のリレラ」である。

「大丈夫。大丈夫だから。まだあの子が死んだとは決まってないだろ? …ジール、リーダーをいじめすぎ」

「…別にいじめたつもりじゃなかったんだけどな。わからないか? 俺も…こう見えても、責任を感じているんだ。最終決定権を持つのはマギクだ。だが、俺たちも尊重され対等な扱いを受けている以上、意見できずこの事態を引き起こした責任がある」

「…最初からそう言えばいいのに。リーダー、あたし達はリーダーの味方だからな。こんな若いのに一人で『金級』パーティを率いて、伝説級の魔物をバタバタ倒して、沢山の人を救って。だから、そんなに思い詰めなくていいんだ。責任はみんなで分け合おうぜ」

三人が頷く。

「…ありがとう、リレラ」

マギクはすっかり落ち着きを取り戻してリレラから離れた。

「…なんだかキリカは事故ったの確定みたいになってるが」

奥から声が聞こえた。

後ろに流した虹色の髪と傷だらけの白い肌が特徴的な青年、ベッドで寝ていたはずの「便利屋のウロ」だ。

「オレはそうは思わんね。あいつを一人でいかせんの、初っしょ? パーティでやってる時と違う、あいつなりの自己流があるんじゃね? だって、マギク、あいつ昔三日三晩寝ず飯食わずで砂漠歩いたこともあるんだろ?」

「まあ、そうだけど…」

「じゃあ持久戦向いてんじゃん。そしてそれをあいつ自身も分かってるに決まってる。…もうちょい待ってみようぜ。あいつを信じて」

「…確かにね」

マギクの表情は少し明るくなった。

「よし」

彼は立ち上がった。

「とりあえず、悩んでいても仕方がない。出来ることをやろう」


 夕暮れ時、「夜明けの旅団」は「ガナンの町周辺の治安維持」という依頼を終え、宿に戻ってきていた。

その時、ドアがノックされた。

「どうしたんですか?」

マギクがドアを開けると、宿主が手紙を差し出した。

一同に緊張が走る。

固唾をのんで開封してみると、町のはずれのとある路地を矢印で指し示した手描きの地図と、「ここで待っています」と一言だけ記された手紙とが入っていた。

 五人は戦闘準備を整えてその場所に向かった。

裏路地の暗闇の中に溶け込むようにして、背の高い黒いローブを着た人物が佇んでいた。

「みなさん、来られましたね」

声色からして聖人の女性らしかった。

その大きな手には黒い箱が抱えられていた。

「みなさんをお呼びしたのは、みなさんに『こちら』をお渡しすると共に、ある『依頼』をしたいと思ったからです」

「…まず名乗ったらどうだ? 悪いが、俺達は今あんたのことを一ミリも信用していないんだ。この恰好を見て分からないか?」

ジールバードが背中に背負ったライフルに指先で触れながら言う。

「…失礼いたしました」

相手はフードに手をやり、その顔を見せた。

やや緑がかったざらついた肌、赤く丸い目、太い骨格…。その人物の容姿には、「人間」の形質とともにトロールのそれも存在していた。

「申し遅れました。『レセモ商会』所属、デミトロールのユメリアといいます。『貴金属同盟』と取引をさせてもらっている一人…と言った方が分かりやすいでしょうか」

その首には、商会の所属であることを示す固有デザインの入ったネックレスを付けていた。

「…どうか、これまでの無礼をお許しください」

マギクが静かに頭を下げると、ユメリアは「その必要はありません。信用して頂けなかった、こちらの対応がまずかったのです」と応えた。

「…でも、信用していないのに来てくださったのですね。それだけ切迫しているということでしょうか?」

「…分かりますか。分かるなら早く」

「ええ、ええ。そのつもりですとも」

マギクの言葉を遮って彼女は言い、手元の箱を差し出した。

「お待たせ致しました。こちら、『皆さんが望みながら、望んでいないもの』です。…『こちら』じゃなくて『この方』と言った方がよろしかったでしょうか」

マギク達は緊張しながら箱を開けた。

そこには、かつて共に旅をし、感動と苦しみを分かち合った仲間の一部が入っていた。

覚悟を決めていた彼らだが、それと文字通り『対面』した瞬間絶句した。

「…心中お察し致します」

ユメリアは無機質とも思えるほど穏やかにそう言った。

「なあ」

「炎刃のリレラ」が目に涙を溜めながらも感情を懸命に抑えつつ、ユメリアの方を仰ぎ見た。

「教えてほしいんだ、どうやって『この子』を回収したのか」

「…『依頼』のお話に移りましょうか」


 夕食を終えた後、「夜明けの旅団」は部屋の中で静かに考え事をしていた。

「キリカ様の遺品…ネックレスと短刀は回収できませんでした」

ユメリアは言った。

「ですが、『現在それを持っている人物』の居場所は知っています」

彼女は続けた。

「私の故郷、『デザ村』はキリカ様の仇を匿っています。いかがでしょう? 仇討ちをするなら絶好の機会ですよ。皆さんであれば、そう難しくはない復讐となりましょう。但し、一つ条件があります。むしろ皆さんの復讐をいくぶんか楽にする条件かもしれませんが。それは…」

「…『私の故郷を滅ぼしてほしい』、か」

マギクがふと呟く。

加えて、依頼主は「もし依頼を受けてくれるなら、商会に話をする」とも言い、報酬として掲げた金額も決して悪くなかった。

つまり、彼女にとっては大金・各方面への根回しとが、彼女自身の「故郷」の消滅と同等の価値を持つ、ということだ。

「あの人も、昔色々あったんだろうな」

貴族の出身でありながら親との確執によって散々苦労を強いられた彼にはそれも多少響いたのかもしれない。

「みんな、さっきの依頼、引き受けないか?」


 翌朝、「夜明けの旅団」は東に向かっていった。

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