魔王メーカー

壱元

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第三章

第二十五話

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 「大きな狼」は全身にある数え切れないほどの眼で私達を見下ろした。

確認を取り合う間もなく、私達は別方向に逃げ出した。

しばらく走ってふと後ろを振り返ると、夜霧の向こうに大きな影が見えた。

あいつは、もうすぐそこまで来ている。

足は向こうの方がずっと速い。このまま普通に走っているだけでは追い付かれるだろう。

ならば…。

私は右へ急転換すると、「駿馬」を使って走り出した。

一気に引き離す。

敵の姿は見えなくなった。

一安心かと思って振り返った時、再び大きな影が見えた。相手も今まで本気で走っていなかったのだ。

まずい…と思いながら前方に視線を戻したとき、突如倒木が霧と闇の中から現れた。

私はスピードを落としたが、止まりきれず足をとられて転倒した。

もう駄目かと思ったが、敵も私の急停止に対応出来なかったようで、勢いのまま私の頭上を飛び越えて行き、慌てて着地した時に前足が地面に深くめり込んだ。

この状況に、一瞬の隙が生まれた。

「逃亡」か「闘争」か…。

私は一瞬迷ったが、一度攻撃を仕掛けて様子を見てみたいと考えた。

左手から渾身の「中火球ミドシア」を放つ。

しかし、敵が尻尾を一振りすると、「中火球」は呆気なくかき消されてしまった。

「え?」

私は今目の前の出来事が信じられなかった。

目を凝らして観察すると、尻尾は長く、その形は蛇のようだった。


「これ、『ロックスケイルパイソン』。大きいのは7m。鱗は普通に見える。けど、石みたいに硬くて斬れない」


その頑丈さは魔法をも無効化するのか…。

敵は前足を地面から引き出し終え、こちらに向き直った。

死の追いかけっこが再度始まった。

再び「駿馬」を使う。

敵は私に追い付き、その大きな口をゆっくりと開けた。

その瞬間、私は左に急転換した。

敵は対応できず、速度を維持したまま地面を削りながら滑り、近くの木々をなぎ倒して止まった。

今だ。

後ろからの攻撃は無効化される。だが、前方からはどうか。

しかも、今回は迷いのあった先程に比べて「攻撃する」という意識が整っている。

落ち着いて選ぶ次の一手は「絹糸セーア」。

無数の光線が敵を切り刻み、様々な形の肉と様々な色の体液がバラバラと落ちる。

その中には「デッドリースプラッシャー」の毒液もあった。

かすり傷に入っただけで致死になる毒液だ。もしも近接戦闘を選んでいたら…死んでいた。

「グロロロロロロ!!!」

敵は苦し気に雄たけびを上げながら動き出した。

こちらも再び足に魔力を込め、走り出す。

その直後、足元に何かの気配を感じてから、ふくらはぎに激痛が走った。

「った!」

思わず足が止まる。

見てみると、数匹の鼠のようなものが深々と刺さっている。

バレットマウスだ。


「今のは『バレットマウス』。もっと速く走れる。速すぎて、飛び跳ねた時に空を飛ぶこともある」


だがただのそれではない。鼻先が刃のように変形し、獲物を負傷させるのに最適な構造となっている。

いわば敵の「飛び道具」になり果てているのだ。

やられた。

敵は動きを止めた私に近付き、その口をかっ開いた。

少しでも距離を稼ごうと、地面を必死で這う。

その甲斐あって、魔法の発動が間に合った。赤い光線が闇夜を照らし、周辺の木々ごと敵の首を切り取った。

敵は動きを止め、力なく地面に倒れた。

私は歯を食いしばりながら鼠を引き抜き、近くにあった「のこぎりの草」をすり潰して雨水と混ぜ、即席の傷薬としてすり込んだ。

よろめきながら立ち上がり、敵の方を見ると、肩のあたりにある目と視線がぶつかった。そのいくつかは今も生き生きと瞬きしている。

嫌な予感がした。

複数の異なる生き物が生きたまま融合して出来ている生物なんて聞いたことがない。

こんなイレギュラーな存在なのだから、脳が頭以外の場所にあっても、「ただ頭の形をしただけの部位」であっても、おかしくはない。

直感は的中した。

敵の体表はうねうねと蠢き、頭を形成していく。

立ち上がった敵は、全体的な体積は縮小していたが、頑丈なロックスケイルパイソンによって構成された頭を持っていた。

…戦闘続行だ。


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