魔王メーカー

壱元

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第三章

第二十九話

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 敵は軽く地面から浮かび上がると、両腕を鳥の羽ばたきのように振った。それに伴って、突き刺すような強風が吹き付けてくる。

目を開けているのも難しい。油断したら吹き飛ばされそうだ。

次の瞬間、私の半開きの目が恐ろしいものを捉えた。

私は咄嗟に身を翻して攻撃を避けた。

後方の樹が切断されて倒れる。

風に乗って飛んできたそれは、私の「鎌鼬サンビラソ」とほぼ同じものだったが、大きさが(そして後ろを見ればわかる通り、威力も)桁外れだった。

巨大「鎌鼬」がさらに次々と飛んでくる。

その角度や出現地点、飛行速度は不規則で、私は縦横無尽に動き回り、転び、地面を転がり傷だらけになり、切断された木々の屑に目をやられながらも死に物狂いで避け続けた。

息を切らしながら再度立ち上がった時、敵の攻撃が止んだ。

「くふふっ」

パドラマドラは私を見て面白げに笑った。

「ねえ人間さん。さっきの、もうちょっとだけ続けてあげようか?」

こいつ、私を馬鹿にしているのか。

だが私は冷静だった。

先程の攻撃によって嫌でも実力の差を知った。

そして、私は今まで実力の差を覆して勝ってきた。その時には感情が恐怖に震えて固まる身体を燃やし、前へと突き動かす「起爆剤」として必須だが、頭だけは氷のように冷たいままにしなければならないことを知っている。

一つ深呼吸して剣を構えなおす。

刹那、敵がこちらに急接近する。

乱風の仮翼ゲルムフォールンっていうの、さっきの。いい名前じゃない?」

吐息がぶつかる距離にまで笑った顔を近づけ、敵が言う。

私は思わず距離を取りながら大きく斬り上げた。

敵は斬撃の横をすり抜けながら接近し、私の目を狙って貫き手をしてきた。

咄嗟に避けたが、掠った頬が浅く切られる。

敵の爪はまるで短刀のように尖っている。あれで首をやられたら…

私は嫌な想像をして、再び距離を取った。

敵が半歩近付き、今度は頭部に回し蹴りを放ってくる。

私が上半身を反らして躱すと、敵は遠心力を利用して、もう片方の足で足払いを仕掛けてきた。

私はそれを足に力を入れて受け止め、ここぞとばかりに首目掛けて「隼斬り」を見舞った。

「おっと!」

敵は地面を蹴って後ろに下がり、初撃を回避した。

だがまだ終わらない。片足で「駿馬」を使って地面を一度大きく蹴り、その勢いを使って接近しながら“頭部へ”「隼斬り」を連続で繰り出す。

敵はどんどん後ろに下がりながらも身体を柔軟に動かし、攻撃を全て避けた。

気付けば距離が開き、その間に敵は体勢を立て直しつつある。

今しかない。

私は両足に魔力を込めて走り出し、大きく剣を振り上げた。

敵が上半身をわずかに曲げ、回避の姿勢を取る。

その刹那、私は剣を下向きに返し、姿勢を低くしながら、すれ違いざまに敵の右足を斬り抜いた。

乾坤けんこん流」:「脛打すねうち」。

この一撃が脳内にあったからこそ、私は今まで敵の首を狙い、頭を狙い、度重なる「隼斬り」を使って、肩から上への攻撃を深層意識に「刷り込んでおいた」のだ。

もはや敵の発想内に「足への攻撃」など存在しない。

今までやられっぱなしだった私の反撃の狼煙となる一閃。

そのはずだった。

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