魔王メーカー

壱元

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第三章

第三十話 前編

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 「脛打ち」を仕掛ける私の足に何かが引っかかった。

バランスを崩し、不安定な姿勢のまま振るった刃は敵の膝上辺りを軽く掠めるだけに留まった。

私は「駿馬」の勢いを殺しきれないまま地面に飛び込み、木に激突した。

意識が朦朧とし、生暖かいものが額を伝って瞼の上を流れ落ちる。

歪みゆく視界の中で、私は信じられないものを見た。

先程私が転んだ場所、そこには木の根が飛び出していたのだが、それがうねうねと動いているのだ。

それだけではない。樹木はその重い身体を持ち上げ、そのまま根っこを足のように使って歩き出したのだ。挙句の果てに、私が頭をぶつけた樹までも同様に歩き出す。

間違いなく幻覚だった。これまで頭をこんなに強く打ったことはなかったから、その解釈が正しくないはずがなかった。

…なのに、その「幻覚」は実体を持って私に襲い掛かってくるのだ。

先程ぶつかった樹が私を目掛けて倒れてくる。

「うわっ!」

私は砂埃と葉に目を瞑りながら、地面を蹴って辛うじて回避する。

だが回避した先で別の樹の枝に脇腹を刺される。

痛みに気を取られている間に左右から樹が倒れこんでくる。

両足に魔力を込めて素早く抜け出す。

背中ごしに伝わる倒木の重々しい音に背筋が凍った。

 見ると、辺りには倒木や根の抜けた穴だらけの無残な光景が広がっていた。自然破壊としか言いようのない酷い景観が。

「…自然を壊されるのが嫌なんでしょう? こんなことしていいの?」

私は木々の間、余裕気に佇むパドラマドラに投げかけた。

「当然よ。言ったでしょう、あたしだけが自然の声を聞ける。だから、自然はあたしを選んだの。あたしだけは自然と相思相愛なの。愛があるならどんなことでも許されるでしょう?」

「…狂人が」

私は全身に魔力を流し込んだ疑似「回生」状態で走り出した。

速度を生かして迫りくる樹々の間をギリギリ潜り抜け、全身の筋肉を動員して敵を斬りつける。

しかし次の瞬間、刃はつるりと敵の身体の上を滑り抜けてしまった。

「これ、『氷面流しトルシャッバ』。一瞬摩擦を無くす魔法だよー」

反撃の後ろ回し蹴りを剣で受けるが、そのまま数メートル後方に弾き飛ばされる。

脇腹の傷に響いて息が詰まった。

「これは『大地の力アレムゴレ』。キミが今使ってるのとほぼおんなじ。あ、さっきのは『歩く樹々ジュレセーム』っていうの」

単純に考えて相手も「回生」を使っているということか。

「回生」は”全ての動作に魔力出力を伴う”為、あらゆる動作の効果が数倍に跳ね上がる一方、とにかく消耗が激しい。

どうする? 敵の魔力切れを待つか? いや、ずっと格上の魔法使いである敵の魔力量は計り知れない。もし持久戦を仕掛ければ、先に動けなくなるのは私だ。

私はあれこれ考えた後、敵の回し蹴りを剣で受け流してから、反撃に転じることにした。

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