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第四章
第四話
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魔法都市べレムジア、そのとある路地裏にて。
「ユメリア様、ユメリア様…!」
「レセム協会」ユメリアに息を切らし、必死の形相で呼び掛けていたのは、左目に大きな傷のある男性トロール。
「ええ、分かっていますとも、『傷顔』さん」
ユメリアは客人とは対照的に落ち着き払い、柔らかく微笑みながら答えた。
「貴方が村にやってきた『伯爵殺し』についての情報を提供してくださったお陰で、私は計画を実行に移すことが出来ました」
「なら、それなら…!」
「ですが」
ユメリアが重々しく言い放つ。
「ご存知ですか? いえ、村の情報屋だった貴方が知らないはずがございませんね」
「傷顔」には話題の見当など全くついていなかった。ただ欠くことのできない契約相手を失望させたくなかったという理由で、こう答えた。
「ええ!! ええ!! 存じております!」
ユメリアがにやける。
「…私は復讐を邪魔された。何十年と暖めてきた復讐計画が不完全燃焼で終わってしまった。この気持ちは貴方にもお判りでしょう。でも、『復讐を取り返せ』なんて無理な話です。…今、私はせめて自分の『足跡』を消し、連中から『いわくつきの宝物』を奪いたい。確実に生き続ける為に。やれとは言いません。…でも、もし貴方がやってくれるなら、いつもの二倍用意するかもしれませんね」
「傷顔」はその話を聞いて涎を垂らした。
「やる、やるやるやるやるやるやるやる!! やります!! やりますとも!!」
ユメリアはくすりと笑った。
「そうですか、ありがとうございます。『足跡』はもうじきこの町にやって来ますので、よろしくお願いいたします」
彼女は懐から二種類の物体を取り出した。
それを見つめる「傷顔」の目が煌めき、頬が紅潮する。
「前回の依頼の報酬、それと…」
新たな「依頼」の為に取った宿の一室の中で、「傷顔」は「報酬」を飲み込むと、白目を剥き、口から涎を垂らしたまま身体を痙攣させた。
そのうち彼は家具を倒しながら上機嫌に踊りだし、部屋が震えるほど高らかに笑った。
その網膜には色とりどりの存在しない「何か」が映り、その鼓膜は同じく存在しない耽美な音色によって侵されていた。
酒や煙草、賭博とは比較にならない中毒性と毒性を持つ「それ」は東からの遥かな旅の末、商人の手によってケンダル王国内部に持ち込まれ、「レセム商会」のユメリアによって他人を自らに依存させる為の「餌」として用いられることになったのだ。
ひととおり酔い痴れた後、「中毒患者」は「主人」から渡された「もう一つの物体」をポケットから取り出してぼんやりと眺めていた。
やりとりを思い出す。
「こ、これは、何でございましょう?」
「貴方の能力は間違いなく一級品。ですが、今回は相手も強力です。もしも更なる力が必要になればこれをお使いなさい。偶然横流しして頂いた、『蟲王』の心臓です」
幼い頃から人間の商人と関わりの多かった「傷顔」は彼らの語る昔話の中で、その名を幾度も聞いたことがあった。
だからこそ、重圧と全能感によってその身体は再び震えだすのだった。
「ユメリア様、ユメリア様…!」
「レセム協会」ユメリアに息を切らし、必死の形相で呼び掛けていたのは、左目に大きな傷のある男性トロール。
「ええ、分かっていますとも、『傷顔』さん」
ユメリアは客人とは対照的に落ち着き払い、柔らかく微笑みながら答えた。
「貴方が村にやってきた『伯爵殺し』についての情報を提供してくださったお陰で、私は計画を実行に移すことが出来ました」
「なら、それなら…!」
「ですが」
ユメリアが重々しく言い放つ。
「ご存知ですか? いえ、村の情報屋だった貴方が知らないはずがございませんね」
「傷顔」には話題の見当など全くついていなかった。ただ欠くことのできない契約相手を失望させたくなかったという理由で、こう答えた。
「ええ!! ええ!! 存じております!」
ユメリアがにやける。
「…私は復讐を邪魔された。何十年と暖めてきた復讐計画が不完全燃焼で終わってしまった。この気持ちは貴方にもお判りでしょう。でも、『復讐を取り返せ』なんて無理な話です。…今、私はせめて自分の『足跡』を消し、連中から『いわくつきの宝物』を奪いたい。確実に生き続ける為に。やれとは言いません。…でも、もし貴方がやってくれるなら、いつもの二倍用意するかもしれませんね」
「傷顔」はその話を聞いて涎を垂らした。
「やる、やるやるやるやるやるやるやる!! やります!! やりますとも!!」
ユメリアはくすりと笑った。
「そうですか、ありがとうございます。『足跡』はもうじきこの町にやって来ますので、よろしくお願いいたします」
彼女は懐から二種類の物体を取り出した。
それを見つめる「傷顔」の目が煌めき、頬が紅潮する。
「前回の依頼の報酬、それと…」
新たな「依頼」の為に取った宿の一室の中で、「傷顔」は「報酬」を飲み込むと、白目を剥き、口から涎を垂らしたまま身体を痙攣させた。
そのうち彼は家具を倒しながら上機嫌に踊りだし、部屋が震えるほど高らかに笑った。
その網膜には色とりどりの存在しない「何か」が映り、その鼓膜は同じく存在しない耽美な音色によって侵されていた。
酒や煙草、賭博とは比較にならない中毒性と毒性を持つ「それ」は東からの遥かな旅の末、商人の手によってケンダル王国内部に持ち込まれ、「レセム商会」のユメリアによって他人を自らに依存させる為の「餌」として用いられることになったのだ。
ひととおり酔い痴れた後、「中毒患者」は「主人」から渡された「もう一つの物体」をポケットから取り出してぼんやりと眺めていた。
やりとりを思い出す。
「こ、これは、何でございましょう?」
「貴方の能力は間違いなく一級品。ですが、今回は相手も強力です。もしも更なる力が必要になればこれをお使いなさい。偶然横流しして頂いた、『蟲王』の心臓です」
幼い頃から人間の商人と関わりの多かった「傷顔」は彼らの語る昔話の中で、その名を幾度も聞いたことがあった。
だからこそ、重圧と全能感によってその身体は再び震えだすのだった。
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