魔王メーカー

壱元

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第四章

第五話

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 私が目を覚ました時、昨夜と同様、足を組んで椅子に座っているマギクの姿が見えた。

彼は右手で顔を覆っていた。

他のみんなはまだ眠っている。

すっかり昇った太陽の眩しい光が窓から入り、部屋全体を明るく照らしていた。


 計画は変更になり、私達は部屋でゆっくりと朝食を取っていた。

「昼前に出発し、ハイの森で野営。一晩過ごす。そうすれば、いつもどおりに起きても明日の午前中にはべレムジアに着く」

マギクがパンを片手に言っていた。

ソーセージをザワークラウトと一緒に飲み込んでから、私はふと尋ねた。

「こういうことはよくあるんですか?」

「いや」

マギクはゆっくりと首を横に振った。

「みんなの寝坊で出発が遅くなるのは三回目だけど、こんなに計画に支障が出たのは今回が初めてーー」

「はいはい。悪かった悪かった」

ウロが不満げに口を挟む。

マギクは身体ごとウロの方を向くと、決闘で名乗る戦士のような高らかな声で

「そう! 君は悪いんだから反省したまえよ、ウロ君!」

とわざとっぽく言い、今度は他のメンバーの方を見た。

「君たちもだ。言っちゃ悪いんだけど、ちょっとだけ浮かれていないかい?…気持ちは分かるけどさ」

マギクがちらりとこちらを見る。

私達が浮かれる原因になる?

そうか、私達の首を求めているのは国だ。どれだけ莫大な報酬が得られるだろう。一年間活動を完全に休止して、温泉街で毎日ゆったりできるような生活が待っているなら、浮かれて当然だろう。

だがそもそも、この人たちが冒険者を続ける理由はなんだろうか。数ある生活手段の中から敢えて命を賭す冒険者を選んだ理由は?

次々湧きあがる疑問達と対峙している内に、メンバー達はより大人しくなっていた。その中には推定50歳以上のジールバードや問題児のウロも居る。

反論を許さない威厳と信頼。

恐らく最年少ながら、マギクはやはりこのパーティの「リーダー」なのだ。

 朝食と備品の買い込みを済ませてから、馬車は出発した。

改めて見てみると、馬を操るのはウロとジールバードの二人のようだ。どおりでマギク・リレラとしか話さなかった訳だ。

旅の時間は流れが遅い。ラーラも寝てしまっている今、私はマギク・リレラの話に混ぜてもらうことにした。

その中でふと朝の疑問をぶつけてみた。

「そういえば、お二人はどうして、他の仕事ではなく冒険者になる道を選んだのでしょうか。命がけの仕事も多いのに」

マギクは魔法学校の卒業後、自らの手で生活資金を稼ぐ必要があった上、自分の魔法の実力を実戦の場で確かめつつ、さらに高めたいと思っていたことが動機になったらしい。

リレラの場合は、幼少期から通っていた「白巌流」の道場で師匠を含め対戦相手が居なくなってしまい、新しい対戦相手が必要だったことが原因だという。その中でそれがいい商売になることに気付いたらしい。

「でも、あたしは冒険者になって気付いたんだ。あたしはまだ未熟で弱いよ」

「僕もだ」

「強力なモンスターも多いですもんね」

「うん。…でもそれだけじゃない。同じ冒険者なのに、同じ人間とは思えないような凄い人たちが沢山居るんだ」

「へえ」

世界は広い。

この広い世界を相手に、未来の私はちゃんと「魔王」をやれるだろうか。

まあ、それ以前にこのまま半年後にでも処刑されて、誰にも覚えられないまま塵となって歴史の影に消えてゆきそうだが。

話はそれなりに盛り上がり、気付けば日は暮れ、予定通り目的地のハイの森に到着して野営が始まった。

今回はウロたちに虐められることもなく、平穏に眠りについた。







…何やら周囲が慌ただしい様子だ。

目を開けて見てみると、マギクたちが戦闘態勢を取ったまま宵闇を睨みつけている。

「どうしたんですか?」

「…夜盗だ。囲まれてる」

マギクが答えた。

目を凝らして見てみると、黒色に紛れて光るものがいくつか見えた。

それを手掛かりに、人影の形が少しずつ見えてくる。

敵数…ざっと30以上。

「俺たちに手を出すたぁ、なかなか見上げた度胸じゃねえか」

ジールバードが銃を構えながら言った。

快適な二度寝の前に、対処しなければいけない問題があるようだ。


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