魔王メーカー

壱元

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第四章

第九話

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 戦いを終えた戦士たちが次々と帰還する。

最初に野営地に戻って来たのはマギクとジールバードだ。二人は無傷で、余裕があるのか馬や荷物の心配をしていた。

続いて戻って来たのはウロで、彼も目立った傷はなかった。

「おう、土産だ」

彼はそう言うと魔力の宿った縄で拘束したままの敵を地面に乱暴に転がし、その頭を軽く踏みつけた。

「…ありがとう、ウロ。君ならやってくれると思っていたよ」

マギクもその「意義」を知っているようだった。

それから数分経って、リレラが帰ってきたが、その恰好はボロボロだった。

肩や腹、腕から出血している。

普通に考えれば重傷だが、彼女自身も周りのメンバーも全く動揺せず、淡々と治療していた。

彼女はどうやら傷口から毒を喰らったようで、ウロに種類の鑑定を受けた後、解毒剤を調合してもらっていた。

「できたぞ。これを注射すればイチコロだ」

「解毒剤でしょ、イチコロじゃ困るんだけど」

あんな激しい戦闘の後でも冗談を言い合っている。

リレラの怪我を見た時の反応といい、「金級」はその実力に相応しいゆとりと気品を持ち合わせているようだ。

一応敵ながら、思わず憧れてしまう。

「さてと」

落ち着いてから、メンバー達が拘束した敵の元に集う。

敵は手足を縛られたまま、地面に座らされている。

「おい」

ウロが短剣片手に敵の前にしゃがみ込み、脅迫する。

「てめえの役割、分かってるよな? お前はお喋りだったもんなぁ? だから連れてきたんだぞ?」

「何も話すつもりはない」

敵がウロの瞳に硬い視線を送りながら、しっかりと答えた。

間を開けず、ウロは敵の左手の指に刃を突き付けた。

「一本ずつ行くぞ、武闘家さんよ。お前は殴ることしか能がねぇんだから、マジでよーく考えた方がいいぞ?」

彼は表情を変えなかった。ただただ次の一手によっては無くなるであろう指から流れる血潮を見つめていた。

だが、その視線は微かに揺れ動き、真っ二つになったまま地面に放置された死体の所で静止した。

その途端、急に彼が気色ばむ。

「馬鹿にはわからなかったか? お前は今から武闘家として死ーー」

「話す」

彼は目を吊り上がらせ、歯を食いしばりながら答えた。

「なんだ、怖くなったか?」

ウロは嘲笑うように言った。だが、その態度がもはやこの場では不適当であることを察してか口をつぐんだ。

「俺たちは…裏切られた訳だな。なんたる屈辱だ。なんたる侮辱だ…!」

憤怒に震える武闘家がまず放った言葉がそれだった。

彼は激情に任せ、何から何まで語り尽くした。その内容はあまりに衝撃的であり、ことに、私にとっては戦慄ものだった。

かつて伯爵によって雇われ、私とラーラの元に補助兵の一人として採用されたドラ息子、ジェテム・ゲーレント。

伯爵暗殺計画の混乱の中でラーラに殺害された彼の父ーーケレム・ゲーレントが私達の首を狙っている。

「ここまで聞けば単なる復讐計画だと思うだろう。単に『伯爵殺し』を奪ってこいという話だと。だがあいつは俺たち『代行者シムス』に、確かに”全滅させろ”と命じたのだ。あんたらも含めて全員を殺せと。損失は大きく、しかし利はなく、冒険者協会との摩擦も起こるのに、だ。リーダーが何度説明しても、あいつはふんぞり返り、俺たちを顎で使うような態度で『やれ』と言うだけだった。俺たちは傭兵であり、仕事人である。無駄な仕事だろうが威信と誇りと命を掛けてやるものだ。だが…なんたる屈辱的だ! そこに転がっている痩身の男は同胞ではない。奴は命と誇りを懸けて戦う『代行者』に”無駄死に”の命令を出していながら、よく分からぬ素人を雇い、そいつには『伯爵殺し』を奪ってこいという指示を出していた! 俺たちは裏切られ、侮辱された!」

話が終わると、

「滅びろ、ケレム・ゲーレント」

と相手は一言呟き、

「満足だ。俺の命など好きにするがいい。どうせ”無駄死に”だからな」

と答えた。

「なるほどね」

マギクが頷き、ウロに代わって相手の前にしゃがみ込んだ。

「よく話してくれた。ところで君の名前は何というんだい?」

「テンと呼ばれている」

「そうか、じゃあテン」

マギクはテンの両肩に触れ、数十秒の準備の後魔力を流した。

「君の全身の魔力、君たちの文化では『気』というのかな? その流れを一部だけ壊した。この一年の間、君の身体能力は精々一般人より少し強い程度になる。当然当分は仕事を休んでもらうけど、それは交換条件だ」

「何が言いたいんだい?」

テンの口調と眼差しは先程より柔らかだった。

同じくらい柔らかな口調と眼差しを持つ黒い魔法使いは言った。

「君を助けたい」

先程の熱弁と打って変わって、テンは静かに涙を流した。

(「…僕はさ、これはあくまで個人の勝手な憶測だけど、君たちにだって、主人を裏切らなければいけない理由があったと思う」)

(「君たちを許すことは出来なくても、なにかしらの『理由』があると信じて勝手に同情させてもらっているよ」)

そんな声が脳内に木霊していた。


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