魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
149 / 202
第四章

第十話

しおりを挟む
 べレムジアへ向かう馬車に新たなメンバーが加わった。 

「あくまで僕たちは君のことを信用していない。命を狙ってきた刺客だからね。もしかしたら君は仲間の所に行って僕らの情報を渡し、僕たちを危機に晒すかもしれない。だからしばらく拘束させてもらうよ」

そんな感じなのでテンも乗り込むことになったのだ。

昨夜の睡眠不足の為か、リレラはぐっすり眠っていた。

マギクは彼女を膝枕しながら本を読んでいる。

「君は寝ないのかい?」

テンが話し掛けてきた。

「朝起きるのが遅かったので、その分みんなより長く睡眠を取れたんです。テンさんこそ夜『仕事』してたんだし眠くないですか?」

「いいや、俺は生まれつきそんなに眠らなくてもいい体質たちでな。マギク、貴方もそうだろう?」

マギクがほんのり驚いた表情で顔を上げる。

「…よくわかったね」

「誰よりも遅くまで起きていたのに、誰よりも早く目覚めて食事の準備をしていたんだ。自分自身と重なる部分があれば、何となく気になって見てしまうものだから」

「なるほどね」

「…そういえば」

テンは先頭の方を見ながら言った。

「彼、ウロはどこで武術を身に着けたのだろうか」

武術家の彼らしい質問だ。だがその前に

「横から失礼します。テン様の場合はどうなんですか?」と私は質問してみた。

彼曰く、彼の先祖は大陸極東地域からこちらへ移住してきた人物で、その結果一族が代々彼の流派を「お家芸」として伝承しているらしい。

「東方の武術を教えている場所は『西』では少ない。全く存在しない訳じゃないが」

「やっぱりそうなんですね。でもだとすると、確かにどうやってウロ様は武術を身に着けたんでしょう」

そもそもウロが東洋武術を使えるという話自体この場で初めて聞いたのだが、興味をそそられてきた。

マギクはにやりと笑いながら答えた。

「東方の武術を学べる場所が少ないって話、ウロのせいってのもあるかもね」

曰く、ウロはかつて数年を掛けて各国にあるあらゆる形態の武術の道場を破って回ったらしい。

「ウロはいわゆる『万能型』の天才でね。しかも知的好奇心に溢れ、コレクション好きでもある。だから色んな道場に行ってそれぞれの場所で学べる技法を『収集』して回った。でも、彼は同時に人類史上最大の飽き性でもある。学びたいことを学んだらすぐにそこを辞めてしまう。ただ辞める時に力試しを兼ねて師範と戦うんだ。『習って数ヶ月の素人に負ける程度なら道場なんてやめてしまえ』と挑発してね」

「そしてもし師範を負かすことができれば…」

「そう。道場破りが成立するんだ」

なんて恐ろしい才能だろう。

「彼はどれくらい破ったんだ?」

テンが明らかに楽しんでいる様子だ。

「そうだな、具体的な数は判りかねるんだけど、二桁であることは確かかな」

テンはそれを聞いて軽く首を振りながらハハハと笑った。

「そうか、納得したぞ。俺はそんな男に敗北できたんだ。満足だよ」

武術家の魂。

強さを求め、誇りを求める戦士ならではの言葉だ。


 昼前、森を抜けると、一面に大きな湖が広がった

道はその湖に浮かぶ、白鳥のように真っ白な城壁都市へと伸びている。

魔法都市べレムジア。

ようやく到着だ。

 宿屋に馬車を預けてから、商会に行くと言ってウロとマギクが出掛けた。

私達は部屋で談笑しながらのんびりと過ごしていた。

一時間ほど経ってから二人が戻って来た。

「どうだ?」

ジールバードの問いにマギクは首を横に振った。

「ユメリアが不在だった。しかも完全にこの件はユメリアの個人行動らしくて、商会からも対応して貰えなかったよ」

「いつ戻るって?」

今度はベッドから体を起こしたリレラが質問する。

「それがわかんねぇんだとさ。ほぼ失踪状態らしい」

そしてそれにはウロが答えた。

苦労して遥々ここまで来たのに成果なし、見通し不明。部屋全体に沈黙が満ちていた。

リレラがそれを破る。

「ねえ、折角魔法都市に来たんだし見て回らない? お昼もまだだし」

「…そうだね。一先ずは心を休めようか」

彼女の提案にマギクが乗り、他のメンバーも賛成した。

七人は街へ繰り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

処理中です...