魔王メーカー

壱元

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第四章

第十四話 後編

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 全員の足並みが揃い、呼吸が呼応しあう。

「星狩りのジールバード」の爆発する弾丸が敵のうなじを撃ち抜き、それを合図に他の三人も動き出した。

「一つ試したいことがあるんだ。一瞬俺も『攻撃班』に回っていいか?」

「便利屋のウロ」が金槌片手にリーダーに問いかける。

「奇跡のマギク」は頷き、

「是非やってみてくれ。『君の戦闘センス』は頼りにしているんだ」

と快諾した。

その瞬間、ウロはなんと「蒼風流」の「駿馬」でリレラに意識を向けている敵の横を抜け、そのまま金槌を投げ付けた。

金槌は跳ね返り、ウロの手に戻って来た。

彼は間髪入れずに袋から大剣を取り出し、「白巌流」の技を使って思い切り振り下ろした。

だが刃は敵の身体に入っていかず、ごく浅い傷しか負わせられないまま彼は距離を取る。

その頃、「炎刃のリレラ」も腕の殻によって攻撃を弾かれ、苦戦していた。

隙を見た敵が腕と尻尾を同時に動かし、リレラとウロを一気に攻撃した。

しかしマギクの結界も二箇所同時に張られ、それを完璧に弾き返す。

すると、敵は唯一結界に覆われていないマギクに対してもう一方の手を振り下ろす。

マギクはさっき拾っていたウロの盾でそれを受けた。

信じられないことが起こった。

盾から伝わった衝撃がマギクの体内で魔力に変換され、吸収・分散されていくのだ。

こんなにも超高度な魔法をさも当然かのように瞬間的な攻防の中で使っている。やはり彼は天才か…。

しかも両腕を共に攻撃に捧げたことで敵は今防御を失っている。

「星狩り」が本領を発揮する。

狙い澄ました一撃は、敵の喉を真っ直ぐ貫いた。だが、効いている様には見えない。

そういえば、うなじに与えた爆撃はどうなったのだろうか? 普通に考えれば致命傷になりそうなものだが…。

「…なるほどな」

射撃の直後、ジールバードがぽつりと呟く。

敵が再び動き出し、三人まとめて攻撃する。

すかさず回避し、距離を取る。

「ウロ、さっきの攻撃でお前もわかっただろう。説明してやれ」

「狸ジジイが。分かってんだったら自分で説明しろっての」

そうは言いながらも彼は話し始める。

「あいつは小さくなった分密度が上がってんだ。密度が上がれば硬さも上がる。槌も刃も弾も爆発の衝撃も通さねえ程にな」

「物理が駄目なら魔法だね。でも、さっきリレラが作った傷口に魔法を、ともいかないんだろう?」

マギクの一言にウロは頷く。

「どういうこと?」

だがリレラは分かっていないようだった。

「傷口が塞がっちまってるんだ」

ウロが答えた直後、敵が急接近してリレラに腕を振るう。

「マギク、守れ」

ウロが新たな道具を取り出しながら言った。

リレラは敵の一撃を後方に飛んで回避した。

すぐ反撃に転じることができるように最小限の距離、最低限の動きで。

しかし敵の腕が明らかに途中で伸び、距離が足りなくなる。敵は部分的にサイズを元に戻したようだった。

クリーンヒットかと思われたが、結界が彼女を救う。

「助かったよ、リーダー。この恩は今から返す」

彼女はそう言うと、全身に魔力を溜め、一気に解放した。

赤い光を全身から発しながら、目で追いきれない速度で細かな連撃が叩き込まれる。

さすがの敵も防御に徹する他なく、その腕から殻の破片が飛び散っていく。

そんな状況も狙撃手にとっては絶好の餌場だったようだ。

彼の放った青色に輝く弾丸は地面にある小石にぶつかると、勢いを維持したまま角度を変え、次は敵の胸に当たって角度を変え、今度は腕の内側に当たってまた曲がり、最終的に両腕の裏に隠されている眼球を破壊した。

敵がのたうち、喚き、暴れながら身体を高く伸ばす。

口を大きく開けて樹上のジールバードへ放つ火球の準備をする。

「気付くのが遅えんだよ」

ウロが敵の胴体にガラスの大瓶を投げ付ける。

一瞬で鱗や肉がドロドロと溶け、骨さえ一部剝き出しになる。

「…マギク、待たせたな」

「ありがとう」

マギクの両手から魔法が放たれる。

敵の身体は内側から氷漬けになった。

だが、首から上はそのままだ。

「でも今日のトドメは僕じゃない」

敵のまだ開きっぱなしの口の中を目掛けて、ジールバードが最後の弾丸を撃ちだす。

直後、喉が爆散し、敵の首が千切れて地面に落ちる。

冷凍の身体も音を立てて崩れた。

自慢の防御力も内側からの攻撃に対しては役に立たない。

市民を苦しめ続け、「金級」を苦戦させた怪物が、今ここに沈黙した。


 討伐の証拠として首を持っていくことになった。

「ちょっと待ってろ」

ウロが首の近くの地面に袋を下ろし、そこから大きな担架のようなものを取り出そうとしていた。

マギクとリレラは一緒に地面に座って話をしていた。

また、ジールバードは木に寄りかかって一人で煙草を吸っている。

戦闘後の疲れもあり、全体的にのんびりとした雰囲気だった。

それは「観戦者」であった私達三人にとっても一緒だ。

「かなり冷や冷やしたね」

テンが額に汗を浮かべながら私に言った。

「まったくですよ。みんな何度も吹き飛ばされてるし、火球だって何発も撃たれてるし、怪我だって沢山してるし…」

あんなに激しい戦いにも関わらず死人が誰も出なかったことが、むしろ恐ろしい。

恐るべし「金級」、恐るべし「夜明けの旅団」。

「分かってはいたが、やはり俺たちが受けた依頼は成功するはずなかったんだ、あんな化け物相手では。ハハハ」

彼らの境遇を思えば笑っていいのか分からず、私は視線を迷わせた。

その時、切断された龍の頭がウロの方へ動いたのが視界の端に捉えられた。

私は気付けばラーラを下ろし、剣を抜き、走り出していた。

「おお、あったぜ。取りにくいところに入りやがってよーー」

ウロの横を抜け、飛び掛かって来る頭、その大きく開いた口に思い切り剣を突き刺す。

そしてそのまま切っ先に魔力を込めた。

貫通した「光槍グシャルボーレアス」が敵の脳天を突き抜け、命を焦がす。

龍は再び沈黙した。

僅かな時間の出来事。

一番に反応したのは私だったが、他の全員も頭や私の動きに気付いていた。

全ての視線が私に集まる。

敵の前で…「裏切りを恐れる者たち」の前で、剣を抜いてしまった。

そして問題なく身体を動かすことが出来ることを明かしてしまった。

私は恐怖と後悔の中で、静かに納刀した。

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