魔王メーカー

壱元

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第四章

第十六話

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 激闘と会議の昨日から一夜明け、今日は休養日となった。

ゆっくり朝食を済ませてから、自由解散になった。

私は前と同じようにマギクとリレラに付いて行こうとしたが、ウロに誘われた。

「あいつらは忙しいんだ。邪魔してやるな。それに、もう本買うのは飽きたろ。来いよ、おもしれぇもんを見せてやる」

ラーラを背負いながら付いていくと、どうやら市場に入っていくようだ。

案の定、二人は魔具売り場の前で止まった。

「ここに来てみろ」

ウロはしゃがみ込むと、私を手招きした。

ただ買い物に付き合わされるのかと思ったが、そうではないみたいだ。

「こいつを見てみろ」

指さす先には魔力を光に変換する形式のカンテラがあり、そのさらに先、カンテラ内には小さな紫色の結晶があった。

「これが『魔法石』だ。流し込まれた魔力を一旦蓄積する効果がある。その下の機械は『魔力伝導性』が高い金属と全くそれがない奴との組み合わせで作られてる。蓄えた魔力は機械の中で分解され、光に変換可能な形になって、下にある球に流される。それで球が光る」

「なるほど」

理屈はシンプルだ。

「今度はこいつだ」

次にウロが指したのは青色の魔法石が埋め込まれた鉄製の弓。

「こいつに使われてる『石』はさっきの蓄えるタイプと違って、流し込まれた魔力を、形はそのままで威力だけ増大させる性質だ。…さてここで質問だ、ちびっ子」

「はい」

「オレはこのカンテラは使わねえが、弓は同じ仕組みのを持ってる。他の冒険者にも同じパターンの奴が多くて、等級が高いほどその傾向は強くなる。逆に一般人にはこういうカンテラの方がウケがいい。さあ、なんでだ?」

「夜明けの旅団」が道具を使うところを想像してみた。…これだろうか?

「一般人の多くは魔法をあまり自由に使えない。だから持っている魔力を魔法としての形に変換できるこのカンテラみたいな道具の需要があるんじゃないですか? でも冒険者パーティには大体一人くらい魔法使いが居るし、その率は強いパーティであれば上がり、魔法使いにも色んな魔法を自由に使える実力者が多くなると思います。それでわざわざカンテラを買わなくても良くなる。でも弓に関しては別問題で、使い手の実力が高くても道具の性能が追い付いていなければ威力は頭打ちになる。だから威力そのものを増やしたい…っていうことじゃないですか?」

ウロは私が説明を終えてからの数秒間、何も言わなかった。

やっぱり違ったか、でも考えられることは全て言い切った訳だし、この際大人しく答えを聞きたい。そう脳内で素早く独り言を言っていると、彼が口を開いた。

「お前、オレの心でも読んだか?」

「え、正解…ってことですか?」

「ああ。用意してた要素が全部揃ってる」

表情は変わらないが、動揺しているのが分かった。

ウロは売り場から魔具を一つ取ると、素早く会計を済ませ、私の手にやや強引に渡してきた。

紫と青両方の「魔石」が使われたネックレスだった。

「魔力を一回入れちまえばしばらく光り続ける、便利なやつだ。持っとけ」

縁が金色で、太陽をモチーフにしたデザインだ。

もしかして、私に似合いそうなものを選んでくれたのだろうか。

「ありがとうございます」

お礼を言い、さっそく首から掛けてみた。

ウロは確かにそれを一目見たが、特に何もコメントせず、「行くぞ」と一言だけ言って歩き出した。

それを見かねてなのか、

「いいじゃないか。似合ってるよ」

とテンが言ってくれた。

私はお礼を言って、ウロを追い掛けた。

 ウロはその後も魔具や魔法薬を買って回っていたが、昼時になると

「メシ行くぞ」

と近くの料理店に直行した。

食事中、今日買ったものの話から、その収納先へと話題が変わった。

「そうか、こいつはまだ入ってないもんな」

ウロがテンに言った。

「ああ。どこで入れてあげようか? 安全な場所がいいが、宿まで戻るのも手間だし…俺が見張り役になったっていいぞ」

「いいのか?」

「ああ」

何の話をしているのかと気になっていたが、その答えは食後に明らかになった。

道中見かけた小さな広場の隅でウロが革袋を下ろし、その口を大きく開けた。

何を取り出すのかと気になっていると、彼はそこに足を突っ込んだ。

袋の中にそのまま全身を沈めていく。

「おい、ちびっ子。お前も入れ」

恐る恐る足を入れてみるが、地面まで結構距離がある。

飛び降りられない訳ではないが、躊躇っていると再度声が掛けられた。

「大丈夫だ。怖くねえから」

私は意を決してジャンプした。

すると、ウロが一瞬私を軽く抱き抱え、そのまま地面に下ろしてくれた。

暖かかった。

「あ、ありがとうございます」

「な、怖くなかったろ?」

「はい…!」

 袋の中は一つの部屋のような空間になっていて、床や壁には様々な色をした布や飾りでいっぱいだった。机や椅子、棚などの家具さえある。そして四方八方に大量の武器や道具が同系統のものでまとめて置いてある。

乱雑なようで統一感があり、遊び心と実用性が融合している。

独特でハイセンスだ。

「パーティ以外の人間を入れるのはテンに続いて二番目だ。どうだここは? オレの趣味空間だが」

「素敵ですよ。まさにウロ様らしくて。秘密基地みたいな感じも私は大好きです」

「そうか、そりゃ嬉しいぜ」

彼はそう言うと、椅子に腰かけ、魔具で沸かしたお湯を使って茶を入れだした。

「茶でも飲まねえか? いいのがあんだ」

「…いいんですか? 高級品なんじゃないですか?」

「馬鹿だな。オレたちが年間いくら稼いでいると思ってやがる。ほら、そんな馬鹿なこと考えてないで飲めよ」

コースターごと茶が渡される。コースターにはちゃっかり角砂糖も乗っけられていた。

ジャサー城に勤めていた時、年に三回程だけ飲めた茶。

久しぶりに飲むと味わい深い。

ふと見ると、ウロは角砂糖をまず口に含み、それを追うような形で飲んでいる。

「初めて見る飲み方です」

「大陸中東地域の飲み方だ。紅茶で砂糖を溶かしながら飲む。ほどよい甘さになるからオレはこれが好きだ」

「なるほど」

私も試してみようとしたが、うまくいかず、口から紅茶が零れ、服が汚れてしまった。

「無理するからだ」

ウロは素早く布を取り出し、

「これで拭け」と手渡してくれた。

 一旦落ち着いてから、ふと私はウロに話し掛けた。

「ウロ様、面倒見がいいし、優しいですよね」

「そうか?」

「はい。なんというか…お兄ちゃんみたいです」

その時、彼の眉毛がぴくりと動いた。

「私、一人っ子だったのでよく分からないですけど、もし兄が居たらこんな感じなんじゃないかなって。…そういえば、ウロ様にはご兄弟はいらっしゃいますか?」

ウロはすぐには答えず、黙って私を見ていた。

「ああ」

遂に答えた時、「やっぱり」と思った。

だがその直後、

「いや…居ねえ。…兄弟も、姉妹もオレには居ねえ」

と否定した。

決して険しい顔をしていた訳ではなかった。しかし、気のせいだろうか、どこか切なさを感じる表情に見えた。

なんともいえない沈黙が流れ出した。

この沈黙をどう破ろうか、何かいい方法はないか、そう考えていた時、外から声が聞こえた。

間違いなくテンの声だった。


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