魔王メーカー

壱元

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第四章

第十九話

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 翌朝、私達は宿を引き払い、城へと向かった。

しかし、門の前まで来ると何やら様子がおかしいことに気付いた。

番人は不在で、城からは一筋の黒煙が上っているし、何より、何かただならぬ気配を分厚い壁の向こうに、微かにだが感じるのだ。

 そのうち、街から衛兵が駆けつけた。

「あなた方は、『夜明けの旅団』の皆さまですか?」

「御託も遠慮も要らない。僕たちは冒険者だ。何があったか正直に聞かせて欲しい」

マギクは穏やかながらも、力を込めて要請した。

兵士は「客人」を相手に少し戸惑っていたが、決心して話してくれた。

囚人の一人が脱走し、城内で暴走しているという。

城内に居た兵士だけでは対応出来ず、まず屋外で警備にあたっていた者が、続いて街の治安維持にあたっている者の一部が招集された。

「わかった。報酬は求めない。僕たちも中に入れさせてくれないかい」

兵士は覚悟を決めて頷き、遂に開門した。


 城内を兵士たちとともに駆け抜けていく。

応援要請を受け取った時点で、件の「怪物」は、領主らが逃れた、城内最奥である“謁見の間”付近の大部屋に居るということだった。

どうか無事でいてくれ、気付けばそう心の中で願っていた。

だがいざ到着すると、大部屋は既に蛻の殻で、そこには名もなき英雄たちの亡骸だけが残っていた。

ただ、その有様があまりに惨かった。

ある者は顔面が石製の壁に深くめり込んだ状態で、またある者は髪を引っ張られて頭から顔面にかけての皮が剝がされた状態で死亡していた。そして、それら以外は例外なく四肢のいずれかを欠損していた。

戦いの日々の中で、ある程度は慣れているつもりの私だったが、気付けば思わず目を背けていた。

「おい、行くぞ」

ウロに声を掛けられ、やや遅れて付いて行った。

 “謁見の間”に通じる廊下も先程の部屋と同じような状況だった。

だが眼前の惨状など霞んでしまうほどに恐ろしい、「最悪の状況」がすぐそこにあった。

破られた大扉の向こうには、緑色の肌をした、筋肉の塊がこちらに背中を向けて佇んでいた。

それを見下ろすかのように、神の御姿を象った巨大な石像が、ステンドグラスに背中を照らされながら立っていた。

その高々と掲げた腕に、領主の身体が腕輪のように刺さっていた。

「うおおおおおお!!!」

兵士たちは我を忘れ、忠誠心に身を任せて突撃した。

敵が遅れて振り返る。

その身体に奇襲の魔法攻撃が降り注ぐが、その皮膚には…かすり傷程度しかついていない。

怪物が両足の筋肉を流動させ、一気に兵士との距離を詰める。

最初門の所で出会ったあの兵士の頭上に、血塗れの手斧が振り上げられる。

だが、すんでの所でリレラが横から飛び出し、その攻撃を弾く。

すぐさま敵はその柱のような剛腕に力を込め、リレラに斬りかかった。

それも余裕げに弾き、斧を破壊すると、流れるようにその腹を大きく斬り裂く。

敵は怯んだ。

その隙にリレラが退避する。

「リーダー!」

彼女の声に呼応し、マギクが既に用意していた魔法を解き放つ。

たちまち空中に暗雲が現れ、雷が瞬く間に怪物を打った。

黒焦げになった怪物は、煙を吐きながら地面に崩れた。

晴天の霹靂クアイクシザー」。

単純ながら威力が極めて高く、かつ効果が局所的で「側撃雷」さえ回避出来れば周辺への被害も最小限抑えることが出来る為、扱いにくい「雷」属性の中では珍しく室内での戦闘に向いているという。

しかし、その「短時間に最大の出力を必要とする」という性質から、使い手は熟練者に限られるとも。

しかも、敵は魔法耐性があるようだ。

「魔法都市」を守る兵士達も並大抵の魔法使いではない。彼らの魔法をあれだけ受けて軽傷でありながら、それでもリレラの物理攻撃は普通に通る。

敵は「ただ頑丈なだけ」ではない。

今回の決着は、判断力・技術・魔力全てを備えているマギクだからこそ成し得たのだ。

ただ、それもこれもリレラの咄嗟の行動があってこそだ。

この二人が真価を発揮した。その時の輝きが、悪を滅するくらいに眩しすぎたのだ。

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