魔王メーカー

壱元

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第四章

第二十一話 後編

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 ただ淡々と、静かに時間が流れていった。
気付けば日は沈み、建物中の蝋燭には明かりが順番に灯されていった。
未だ音沙汰なし。
一度は消えた不安の火が、再び燃え上がろうとしていた。
「なあ」
ウロがふと言った。
「城の連中、全滅したってことはないだろうな」
その言葉にマギクは栞を挟んでから読んでいた本を閉じた。
「そんなことはありえない…と言いたいところだけど、有り得るね」
「二人とも怖いこと言わないで」
さすがのリレラも少し心細そうにそう言う。
「おいウロ」
今度はジールバードが横から声を掛けた。
「『夜鷹』を使って城と街を見てみたらどうだ?」
「…おい、正気か? 万が一ブッ壊れたらどうすんだよ」
「あの…」
私は質問した。
「その『夜鷹』というのは…?」
「…見せてやる」
ウロは袋に手を突っ込むと、ゆっくり、いつも以上に丁寧に持ち上げた。
その手には、金属で出来た精巧な鷹の形の機械があった。
「わあ」
特に私とテンは、食い入るように見ていた。
「市場で売られる中じゃ最高級の魔具だ。なんで最高級かって? こいつは人間の技術の粋を集めて作られた、死ぬほど繊細なメカニズムの集合体だ。だから本物の鷹と同じように空を自由に飛べる。俺ら人間がせいぜい風を発射して平行移動するか風に乗って吹っ飛ばされるか、その程度なのにだぜ。付属のゴーグルを付ければ、こいつが見ているものをそのまま見ることも出来る。しかもこいつは『夜鷹』だ。夜目も利くから夜中の偵察だって楽勝」
「そう、だから今こそ使うべきだと俺は言っているんだ」
ジールバードがいたずらっぽくにやけながら横槍を入れる。
それに対し、ウロが気だるげに返した。
「お前、こいつの価値が分からねえほど馬鹿じゃねえだろ。操縦を少し間違えてみろ。もし翼を建物にでも掠ってブッ壊れて二度と飛べなくなったら、そいつはもう『道具』としても『宝』としても価値のねぇゴミになっちまう」
「道具は道具だ。俺の銃も、そいつもそうだ。道具は使われる為にあるんだぜ? もしこの世界に一つしかない、国が買えちまう程の価値がある銃が手に入るとしても、俺はそいつを動かなくなるまで使い倒すぜ。…お前も覚えている筈だ。今使ってる、ヒューミンの市場で最高額で売られてたこいつが俺の三本目の相棒だってことを」
「毎回同じ銃を買うせいで予算が火の車だったけどね…」
マギクが小声でこっそり呟く。
ジールバードの意見を聞いて、ウロはしばらく黙っていた。
「ウロ、別にそれを使って戦えって言ってる訳じゃなくて、ただ様子を見るだけなんだし、ゆっくり操縦すればいいんじゃない?」
リレラも意見を述べた。
それを聞いても、ウロは何も言わなかった。
だが、やがて突如窓の方へ歩き出した。
窓を開け…左手に持った「夜鷹」を…振りかぶり…投げた!
「夜鷹」は羽ばたき、一瞬にして宵闇にその身を溶かした。
「うるせえな」
ウロはそう言いながら、素早くゴーグルを付ける。
「そんなにがたがた言うならやってやんよ」
「おお…!」
私達は顔を見合わせ、ウロの隣で静かに喜び合った。
 出発から10分程経過し、遂に城に到着したと「操縦者」は言った。
「いよいよか」
マギクが呟く。
「…行くぞ」
「夜鷹」は急降下し、敷地内に突入した。

 気が付けば無事に朝を迎えていた。
あの後、結局偵察開始からたった数分で城の中を歩いている兵士の姿を発見し、ウロの覚悟は少し空回る結果となった。
朝食を済ませた所で昨日の兵士がやって来て状況を語ってくれたが、昨日一切続報が出なかったのは、単純に人員不足で手が回っていなかった上、そもそも「怪物」が見つからなかったということだった。
「住民に聞き込みを行ってみたりしましたが、目撃例はありませんでした。それに、町中くまなく探しても魔力の反応が見つからなかったので、皆さんの安全は確保されたと我々は判断しました。皆さんを、城にお連れ致します」
私達は今度こそ宿を引き払い、念のための護衛に守られながら城へ向かった。
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