魔王メーカー

壱元

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第四章

第二十二話

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「こちらにございます」

「新たな領主」によって、城の奥部にある小さな部屋に案内された。

そこにはただ一つ、ポツンと、両手で抱えられる大きさで金属製の宝箱のようなものが置かれていた。

「我が領の職人に特注で作らせました」

彼はマギクが制止しようとするにも関わらず、直々にしゃがみ込み、地面に置いてあるそれの、てっぺんにある八角形型の模様のある所に手を触れた。

光を放ちながらゆっくりと宝箱が開く。

中には金の延べ棒が高く積み上げられていた。

「『空間操作』魔法の応用によって、見かけよりも大きい容量になっております。魔法を含む金属を使用することで外側の耐久性の向上も図り、激しい冒険でも安心してお使い頂ける品を目指しました。ささやかながら私共からの感謝の証でございます」

「ほう、それは素晴らしい。ありがたく使わせて頂くよ」

マギクが礼を言う。

「喜んで頂けたようで何よりです。それでは、改めて、こちらが今回の報奨金でございます。お確かめください」

兵士が両脇から延べ棒を持ち上げ、ゆっくりと丁寧に床に下ろしていく。

積みあがった延べ棒の存在感は圧倒的で、見ているだけで目がくらむようだった。だが、実際に箱の中から持ち上げられてみると、その一本一本が想像の三倍は大きくて度肝を抜かれた。

本当にとんでもない金額だ。しかもこれでまだ半分だというのだから、本当に恐ろしい…。

これだけの金があれば、一体何が出来るだろうか。

少なくとも一年は働かなくてもいいのではないだろうか? 

まあ、パーティメンバーの最低でも半数は冒険や戦いを単純な金稼ぎ以上のものとして見ているからそうはならなそうだが。

「見ろ」

ふと横から声を掛けられる。

「オレの袋と同じ技術だ。でも違うところがある。一つ挙げてみろ」

ウロが宝箱をその細く白い指で差しながら言う。

「なんだろう…拡大の『倍率』とか、ですか?」

「アタリだ。やっぱりお前、やるな」

そういえば、丁度こんなことが何日か前にもあったな。

振り返れば、ウロ、いや「夜明けの旅団」のみんなと、前よりも親しくなれたのもこの街だった。

本当に色々なことがあった。たかが数日なのに、すごく長かったように思える。

「…確かに確認した。契約どおりの金額だ」

「丁度数え終わったみたいだな」

ウロがマギクの様子を見てそう教えてくれた。

報酬金は全て箱に戻され、元通りに積まれた。

「箱の閉め方についてお教えします。これから皆さんにはこの部分にお手を触れて頂きます」

曰く、あの八角形の部分には掌の形やそこに流れる魔力を繊細に感じ取って判別する機能が備わっていて、それによって「登録」されていない者による開封を防止することが出来ると。

「つまるところ、皆さまには今から『登録』をして頂きたいのです。さすれば、これから私の『登録』を削除致しますので、この箱を開けることが出来るのは正真正銘この世で皆さまだけとなります」

「一ついいか?」

手を挙げたのはジールバード。

「何らかの事故で俺らのが消えることはないのか? この手のからくりはいつもそこが気になってな」

「ご安心を。この箱から『登録』を削除出来るのは一度限りになる仕組みで設計してあります」

しかもこの箱は正攻法で開放できないからといって外側から破壊することも難しい。システムに隙が無い。「魔法都市」の威信が掛かっていそうだ。

「じゃあ僕から行かせてもらうよ」

マギクが手を置く。

八角形がうっすらと光り輝き、手を離すと同時に「登録完了」の文字が表示される。

これ単体でもすごい技術だ。

その目新しさや技術の輝きに見とれていると、リレラから肩をポンと叩かれた。

「ほら、グレアの番だ」

「え?」

もしかして、私も「登録」していいということだろうか?

いや、しかし…

「え、いいんですか? だって私…」

「そのとおりだ」

私の言葉を遮り、「登録」を終えて帰って来たばかりのウロが答える。

「こいつは自分の立場をよくわかってる。リレラ、オレたちは確かにこいつを信頼はしてんだ。でもそれは『オレたち』の間ほどじゃねえ。あくまで外部の人間に、そんな簡単に財布の紐を貸し出してやんな」

私が考えていたことと寸分違わない。でも実際に、それも、よりにもよってウロにこう言われると少なからずショックだった。

知ってか知らずか、マギクは言う。

「言葉がちょっとキツいけど、ウロの言っていること自体には同意するよ。この場合は安全性を考えて、一先ず『夜明けの旅団』メンバーに限定するべきだ。でもグレアさん、それは僕たち両方の利益を考えてのことだ。賢い君ならきっと分かってくれると思う。それに、この判断はあくまで“現在の”状況に基づく話だよ。僕たちはもっと親しくなれるはずだからね」

疑う方が辛いか疑われる方が辛いか、いやどちらも苦痛だろう。そういう話。

ただ彼は最後に希望を見せてくれた。建前かもしれない。それでも心を温かくした。

「やっぱりそうなるかー、残念だな」

リレラはむしろ少し気の抜けた様子でそう言った。

「だとしたら、もう全員終わったんだ」

「うん」

「それでは蓋をお閉め致します」

領主がゆっくり手を伸ばす。

宝箱が、パタリと閉じられた。
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