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16・千客万来の悪女様-6
しおりを挟む「本日、お屋敷にてお目にかかれるはずでしたが、体調不良とのことで……、こちらでお休みになっていたのですね?」
ニッコリと微笑んではいるが、目は笑っていない。
「な? なんのことですかぁ? 人違いでは? 私がそんな、公爵令嬢なわけ……」
しどろもどろで答えていると、一緒にいた男が私の仮面の糸を引いた。
カラリと仮面が落ちる。
そして、男は小さな冊子を広げた。そこには私の肖像画が挟まれている。
豊かな金の髪に青い瞳のその絵は私にそっくりである。
「よく似ていらっしゃいますが?」
少年が勝ち誇ったように微笑む。
「~~!!」
私は思わず目を逸らした。
「こちらがデステージョ嬢が運営しているカフェだと聞きましてよってみたのです」
そう言って少年は近くにいた小さな子どもに微笑みかけた。
「あの『ご主人様』のお名前は知っていますか?」
「うん! あのね! デステージョ様なの! 私、デステージョ様大好きなの!!」
天真爛漫に答える子どもを責めることなどできない。
少年は私を見て微笑んだ。
「はじめまして。私は、イービス・デ・マニャーナと申します。以後、お見知りおきを」
優雅な礼である。
(でも、目が笑ってない。目が笑ってないよ!!)
せっかく、出会わないようにと細心の注意を払ってきたのに、相手からやってきてしまうとは。
これが、原作補正というものなのだろうか。
(でも、原作の思いどおりにはさせえないわ!)
出会ってしまったならしかたがない。
(あとは嫌われるようにするのみよ!)
私は腹をくくって悪女顔で微笑み返す。ここで気圧されるわけにはいかない。
「こちらこそ失礼をいたしましたわ。改めてご挨拶させていただきます。私は、デステージョ・デ・ノクトゥルノと申します」
「今日のお茶会は体調不良とお聞きしましたが」
「ええ。くだらない時間を使うと思ったら気分が悪くなってしまって」
「マニャーナ家とのお茶会がくだらない時間……ですか?」
「私の両親はそう思わないかも知れませんが、私にとっては無駄ですわ。いろいろな価値観があると思いますのよ? 公子様」
ニッコリと微笑みかけると、護衛と思われる男がいきり立つ。
「イービス様との時間より、孤児のほうが大切だというのか!」
それをイービスが視線だけでとどめた。
護衛は口を噤む。
「そうですか。たしかにこちらの時間は有意義そうですね」
そう言って、眩しそうに店内をグルリと見回す。
「客も店員も、みんな楽しそうです」
「うん! 楽しいよ!」
店員のひとりが答えた。
「では、私も客のひとりとして楽しんでいってもよろしいですか?」
イービスが窺うように尋ねる。
「噂の『爽やかな朝焼け』を飲んでみたいのです。今日のお茶会で飲めると思っていたのですが、デステージョ嬢がいらっしゃらないとのことで、子どもひとりでは気まずく帰らざるを得ませんでしたから……」
そう言われては、私は反論できない。私がドタキャンしなければ、イービスはお茶会で飲めたはずのものだったからだ。
「そうですね、では注文をうかがいますわ」
「『爽やかな朝焼け』とアイスクリームをふたつ、あと【どうぶつたちのごはん・ごちそう】をスタッフ全員分。今日休んでいる人を含めてお願いします」
イービスはニッコリと微笑んだ。
「わー! このお兄さんいい人だね!」
子どもが喜んでオーダーを厨房に伝えに行く。
私は内心苦笑いである。
「ありがとうございます。イービス様。それでは、楽しい時間をお過ごしください」
私はそう言うと、その場をあとにしようとした。
鞭を掴まれ振り返る。
するとイービスがいたずらっぽく笑みを浮かべている。
「お客様、お離しください」
「もう少しお話しできませんか? デステージョ嬢」
イービスの言葉に、セリオンとテレノが前に出た。
「レディーに無断で触れるなど失礼ですよ。そもそも、面会を断ったにもかかわらず居場所を突き詰めて勝手に会いに来るなど、無礼の極みです」
「ああ。キモい」
マシンガンのように正論を繰り出すセリオンと、直情的なテレノの言葉に私は思わず笑ってしまう。
「ふたりともさがりなさい」
「でも、デステージョ様!」
「そうだよ! 許せない」
いきり立つふたりに私は命じる。
「別に許さないわよ」
私はふたりにウインクする。
そして、魔法で軽く鞭に電流を流した。私はやられたらやり返す悪女デステージョなのだ。
静電気のような刺激に、イービスは驚き鞭から手を離す。
「デステージョ様!?」
「さっすが! デステージョ様!」
驚くセリオンとはしゃぐテレノ。
「先ほども言いましたとおり、この店ではそのようなサービスはおこなっておりませんの」
目を白黒させているイービスの顎を鞭で持ち上げて優しく諭す。
「お坊ちゃま、そういうオアソビは大きくなってから、しかるべきお店でなさってくださいね? どこかしこでもそういうことをなさると、軽蔑されますわよ」
イービスを叱りつけてから、護衛に厳しい目を向ける。
「あなた、しっかりなさって? 市井で遊ばれるのなら、スマートな方法を教えてからになさい。さあ、連れて帰りなさい」
命じると、護衛はイービスの顔を窺う。
「イービス様……大丈夫ですか?」
イービスは我に返ったようにハッとして私を見た。
「デステージョ嬢は面白いですね」
「はぁ?」
私は不機嫌丸出しで睨みつける。
「こんなにはっきり意見する令嬢に初めて会いました」
「私もここまでされても引かない令息には初めて会いました」
私が答えると、イービスがプッと噴き出したのでギンと睨む。
「私は領地経営の勉強をしているので、デステージョ嬢の噂を聞きその手腕に興味を持ったのです」
「ああそう。それは迷惑なことね」
投げやりに答える私に、イービスはお腹を抱えて笑い出した。
(笑い上戸なの?)
私は不愉快である。バシリと鞭を自分の手のひらに打ち付けて威嚇する。すると、彼は笑いを引っ込め居住まいを正した。
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