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18.5話 災禍の魔王はこの世界の創造主神を滅ぼす。

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明日は14歳の誕生日になる日だ。
0時まであと僅かな時間しかない。

とうとう、この日が来てしまった。

わたしは、最愛の妹を助ける為なら
どんなことだってする覚悟は出来ている。


私は………あなたを救う為なら………




「お姉ちゃ~んっ!」


「にゃああああああっ!?」


シャルロットが突然抱きついてきた。

「にへへ…ひっくりした?」

「うー……もう…!ほんとにびっくりしたわよーーーっ!!」


「あはは…ごめんごめん…そんなに怒らないでよ~」


「別に……怒ってないわよ。ううん…怒るわけないわ。
シャルロットは…わたしの大切な妹だもの。」


「……ん?」


「な…なんでもないわっ!」


「変なお姉ちゃん…。」


「それより、何か用でもあるの?」

「明日って私達の誕生日じゃん?そこで名案が浮かびまして~」

「へえ~」

「オイオイまだ何も言ってないよ。
実はね…お宝が眠ってるダンジョンを見つけたんだ~

ダンジョンにこっそり忍び込んでお宝探しをしようと思うんだ。
そこで見つけた物をお互いにプレゼントするんだ~」


「へえ、なかなか面白そうなこと思いつくじゃない。いいわ。」


私達はシャルロットが見つけたというダンジョンに転移した。


見掛けは普通の洞窟にしか見えない。

しかし、シャルロットが言うには
神話の時代に存在していたモノらしいが
そのお宝に続く隠し通路は長い年月で埋もれてしまい
誰も隠し通路を発見出来ていないらしい。

私達はダンジョンへ入っていく。
高レベルの魔物が配置されているが
私達にとってはもはや居ないも同然であり
ダンジョンの最深部の宝物庫を目指してゆるりと歩いていた。







「ねえ……シャルロット」

「ん~?どうしたの~?」



「……誕生日は、なにをあげたらいい……?」



「う~ん?お姉ちゃんから貰った物からなんでもいいかな?」


「お姉ちゃんは何がいい?」


「わたしは……一生忘れないものがいいわ……
今日という特別な日を生涯忘れないような……
特別な誕生日にしたいから……」


「ワオ……ハードル高めの要求してきたな。
そうだな~じゃあ洋服とかはどうかな?」


「洋服…素敵ねっ!それがいいわ!」

「フフフ……それじゃあ、忘れられないような 
特別な洋服をプレゼントしてあげる。」




「シャルロット…どうしましよう…行き止まりよ。」


「いいや、ここで合ってるよ。」

「え?」

「ここが隠し通路の入口。」

そして、シャルロットは
行き止まりの壁に向かって歩きだして

そして壁に思い切り、蹴りを入れて壁を吹き飛ばした。



「わっ!」


「ほら、これでご開通だよ~」

「ら…乱暴すぎないかしら?」

「これでいいの、いくよ。」



壁や床を破壊しながら進んでいくと

最深部まで辿り着き宝物庫に辿り着いた



「………こんな方法でいいのかしら?」

「いいんじゃない?」


宝物庫の扉をシャルロットの拳で穴を開けて
強引な方法で宝物庫の中に入る。

そこには伝説級の装備や武器に黄金が積み上げられていた。

「わ…わあっ!凄いわシャルロット!
お宝がこんなにたくさんっ!」

「おお~」


「それじゃ、お互い、いい物見つけようね~」

「フフフ…楽しみにしてなさいよ!」



そして私達は別れてこのお宝の山から
誕生日プレゼントにする物を探し出すことにした。


シャルロットSideでは


私はお姉ちゃんと別れてすぐに
目当ての物である物を見つけた。

わたしが大魔王の時代に着られていた衣服や鎧だ。
これらの中からモルに似合うものを探したが

オシャレに無頓着なわたしには
どれがいいのか分からず迷ってしまった。


「あっ!これ…こんな所にあったのか~」

探していると、物質の時を停止させ
状態を当時のまま保存する魔法がかけられている衣服を見つけた。

これは…わたしが大魔王をしていた時代に着ていた
魔王として威厳のある衣装として作った魔王衣装の予備である。


「わたしのお気に入り服のお古か~……
まあ、お姉ちゃんは喜びそうだしこれでいいや。
姉妹だしお姉ちゃんにも似合うでしょ。」




「………ん?なんだろ?なんか懐かしい魔力を感じる。」

シャルロットが見つけたのは宝物庫の端に落ちていた
王冠の形を象った闇。
シャルロットはその王冠に導かれるように
その王冠を手にする。

王冠を手に取ると
未来から何者かが魔法を使い
この時代のこの瞬間に送り込んだことが
魔力の残滓から読み取れる。

その闇色の王冠に残っている魔力の残滓を魔眼で
王冠が宿している記憶の深淵まで覗き見ると
送り主はどうやら未来の自分らしい。

なにが目的で過去の自分に送り込んできたのかは不明だが
まあ、そのうち分かるだろう。


それは魔王時代のシャルロットが被っていた
五色の宝玉が填められた闇色に煌めく混沌。
その王冠を手にした魔王は神々を超越した
超常的な力で世界を支配し
ありとあらゆる理や理屈を超越し
全てを救い、全てを滅ぼすことを可能にする
究極の力を手に入れたという伝承がある
始祖の魔王の王冠。












そして、その頃、モルドレッドは

シャルロットと別れて誕生日プレゼントを探していた
私は白くて綺麗な指輪を見つけた。

「わあ……綺麗な指輪………」

その純白の指輪には琥珀のような黄色い宝石が埋め込まれていて
私がしている指輪の色違いにも見える。


「これ……いいわね。シャルロットにピッタリな指輪!」


これで姉妹お揃いの指輪をしている姿を妄想して
自然と笑みが漏れてしまう。


そして、シャルロットと合流するために
扉の前へと戻っていく。



「おお~!お姉ちゃんも早かったね~」


「フフン!最高のプレゼントを見つけてきたわ!」

「それじゃあ!せーので見せようか!」

「せーーのっ!」

シャルロットは露出度がかなり凄い
黒い鎧のような物を取り出した。


私はシャルロットのような純白で金色の指輪を差し出した。



「おっ?お姉ちゃんは指輪?」

「ええ…シャルロットみたいな色してるし…
わたしの指輪とお揃いになると思ったの!」

「ありがとうお姉ちゃん…大切にするね。 」


シャルロットは指輪を受け取ると
私と同じように薬指に指輪を通した。


「へへへ…お揃いだね~お姉ちゃん」

「えへへ………ってなんなのよそのエッチな鎧はっ!」

「え~?そんなにエッチか~?
動きやすくていいと思ったんだけどな~
私が着てたお気に入りのやつだし。」


「っ!?シャルロット…今、なんて言ったのかしら?」



「ん?これはね~宝物庫に何故かあった
私が魔王の時にいつも着ていた服なんだよね~
時間停止の魔法がかかってたから

私の匂いとかも染み付いちゃってるかもだけど
まだまだ全然着れると思うけど
お姉ちゃんは妹のお古は着たくない?」


「そ…そんなことないわっ!
かわいい妹の匂いが染み付いてるなんて最高じゃないのよっ!」

「お…おう」



「そ…それじゃ着替えてくるわねっ!」



わたしはシャルロットの魔王服に着替える。

時間停止の魔術を破壊すると
ほのかに妹の匂いがしてきた。

ほとんどの素肌が見えていて
特におへそと鼠径部辺りが丸見えで
おへそから胸部分には何もなく
黒ビキニのような布しかない。
鎧らしき部分は肩当てと手甲ぐらいしかないが
かなり……動きやすくはある。

シャルロットに包まれたような感覚に陥って
脳が麻痺してしまいそうになる。
この服を着た瞬間、服に残っていたシャルロットの
途方も無い無尽蔵と思える程の膨大な魔力が私に宿った。

「す………凄いわ……なんなの……この魔力量」

でも…これなら………





「おまたせ。シャルロット」


「どうかしら?……似合ってる?」


「うん、最高に似合ってるよお姉ちゃん
……というか私より似合ってるんじゃない?」

「そ…そうかしら?」


「ありがとう……シャルロット…………
私…今日を絶対に忘れないわ。今日は人生で最高の日よ。」

「あはは!それを言うのはちょっと早いんじゃないかな?」


「……………………………全然遅く無いわよ ?だって……」


「うん?」


「な…なんでもないわっ!」




私達は転移魔法でダンジョンの外へ戻ってきた。



「ねえ、シャルロット…最期に…少し歩かない?
一緒に手を繋いで…」


「いいよ~。今日のお姉ちゃんは甘えん坊だな~」

私はシャルロットと手を繋ぎ
森の中を軽く散歩することにした。

真っ暗だが月明かりに照らされて今日はよく見える

夜空に浮かんでいるのは綺麗な満月であるが
紫ではなく銀色のような輝きを放っている。

………………そろそろ時間ね



「わあ~お姉ちゃん見て見て~!綺麗な満月だよ~」


「そうね…………とっても……綺麗ね……。」



少し歩いて広けた場所に出ると
シャルロットは繋いだ手を離した。


「え?………シャルロット…どうして?」


シャルロットはいつもの緩い雰囲気が無くなり
幼少期の時の……大人しかった頃に戻ったような
神様のような神秘的な雰囲気を纏い
はじめて見るような真剣な表情をしていた。



「…………わたしがお姉ちゃんの異変に気づいてないとでも思ったの?」

「な…なんのこと……?」

「わたし…正直鈍い方だけど今日のお姉ちゃんは
何かがおかしいことぐらいは気づいてるよ。」


「お姉ちゃん……なにかわたしに隠してるでしょ?」


「今まで……こんなに悲しそうな顔をしてる
お姉ちゃんなんて……はじめて見たわ。
まるで…今日が人生最期の日みたいな顔してるんだもん。」

「な……何言ってるのよ……ほ…本当に変な妹ね………
明日は誕生日なんだから……嬉しいに…決まってるじゃない………」


「じゃあさ……なんで…お姉ちゃんは今、 泣いてるの?」


「……え?」

私は気が付かなかったが涙が溢れていた。
無意識に制御が出来なくなっていた
私の呪われた力が周囲の木々を枯らしていく。


「こ……これは……違う……違うのっ!!!」

私は思わず顔を手で覆い尽くしたが
シャルロットは私が閉じ籠もった時にも見せた
心から心配しているような表情をしている。


「……悩んでることがあるならわたしに話してみてよ?」


「それじゃあ、今から何をしても
私のことを信じてくれる…?」


「ああ、信じるよ。」

「…………なら……この魔法を私に使わせてくれるわよね………?」

モルドレッドは禍々しい闇と神々しい光で構築された
二重の融合魔法陣を展開しシャルロットに向けて魔術を行使した。







さようなら、シャルロット。

大好きな、わたしの妹。



モルドレッドは大好きな妹を抱きしめる。

悟られぬよう、気がつかれないように
大粒の涙を流しながら笑顔を浮かべる。

うまく笑えているかしら?



必ず……変えてみせるわ………。
あなたが消えるなんて…そんな運命…ぶち壊してやるんだから。



シャルロット……私が居なくなっても……
ちゃんと朝は起きるのよ…?

お母さんとお父さんを悲しませたら承知しないんだからね………

それと友達も……沢山沢山……作って……幸せになってね………
お姉ちゃんがいなくても大丈夫かしら……?
心配だけど……貴女の幸せを願っているわ。

元気でね、シャルロット。

ずっと…ずっと…アイシテル………ばいばい………。


モルドレッドが魔術を唱えた瞬間、二人は目映い光に包まれる。



その輝きが次第に収まっていき、光に飲まれた二人の影が見え始める。

数秒が経過し、やがて光は完全に消えた。



そこにあったのは、変わらない二人の姿である。



驚いたような表情で、半ば呆然としながら
モルドレッドはシャルロットの顔を見つめる。



「ウソ……ウソよ………そんな………!?」



ずっと、準備をしてきたのに。

万全を期して、絶対に間違えないように、完璧に計画を練ってきた。

それなのに……。


そんな心の呟きが溢れ出た。

彼女は絶望に染まったような声で、小さく、言葉をこぼす。



「………………どうして……?」



モルの生涯をかけた魔法は失敗に終わった。


彼女は絶望に打ちひしがれて今にも泣き出しそうだった。



「お姉ちゃん…………なんの魔法だったの?」


シャルロットがキョトンとした顔で尋ねるけど
私は悔しそうな顔を浮かべるばかりだ。

そんな私をじっと見つめた後、シャルロットは言った。



「お姉ちゃん………どうして…何も話してくれないの?」



それは淡々とした口調で、けれどもとても優しくて


「どうしてこんな変な魔法を使ったのかわからないけど……。」


その瞳は、姉への好意だけが溢れている。


「でも、わたしは…素直じゃなくて不器用だけど
妹想いで……優しくて……こんなわたしを好きでいてくれて

わたしが今まで出会ってきた
誰よりも親密になりたいって思えるほど
好きになれて…こんなにも人を愛したく想ったのは
モルお姉ちゃんが生まれてはじめてで……
不器用で素直になれないけど優しい
そんなお姉ちゃんがわたしは大好きだよ。」


私は唇を噛み、ぐっと涙を堪えた。

だが、我慢しきれず、ぽたぽた頬に涙がこぼれ落ちる。

「シャルロットの………おバカ……バカ……バカ……
どうして………なんでよ………」



シャルロットが彼女との融合を受け入れなければこの魔法は成立しない。


シャルロットはシャルロット自身が思っていた以上に
姉のことが愛おしくてたまらなく好きになっていて
そして姉もそんな妹のことが大好きだった
二人の想う気持ちは同じだった…成功するはずだったはずだ。


「なのに………な……な…ん……で……どう…して……?」


「お姉ちゃん…………」

「この魔法が失敗したら……無理なのよ……もう……」


「……諦めないで……わたしを信じて……
お姉ちゃんの悩みを解決する方法があるはずーーー」



「もう……今更…遅いのよ!!」

「だって………だって…………もう……もう!!!」


「わたしたちはあと少しで消えてしまうんだからっ!!!」


「………どういうこと?」

「私は……アンタの願いで産まれた偽りの存在…
本来いてはいけない虚構の存在………なのよ……。
そして、今夜の零時にあの銀色の月明かりは
世界を作り変えて整える創世の月……っていうらしいわ。
わたしとアンタ…どちらかが消えないと
二人共消えちゃうのよ…………!」



「安心して……お姉ちゃん…わたしを信じてほしい。
二人共生き残る方法が必ずあるはずだから……
二人で一緒に見つけよう…………?」

「無理…………無理なのよ………今からなんて見つかるわけがないわっ!!」


妹を守れなかった絶望に打ちひしがれて膝を折った
モルはシャルロットの胸に顔を埋めた。



「……お願い……シャルロット、わたしを………殺してよ……」



涙をこぼしながら、懇願するようにモルは言う。



「じゃないと、あなたを助けられないっ!!!
わたしは……あなたの代わりに消えてもいいから!」



シャルロットは姉の頭にそっと手をやり、優しく撫でた。



「よしよし……」


泣きじゃくる姉の肩を抱いて、シャルロットは言う。


「大丈夫だよ…お姉ちゃん……気にしないで。
この世界を歪めた異物は……わたしの方なんだから
それに…世界に存在を拒絶されるのには…………
死ぬのには慣れてるから…だから……心配しないで………」



「そんなの、そんなの関係ないわっ!
だって………こんな運命あんまりでしょう!
わたしは守りたいのっ!
大好きで!大切な………妹だからっ!
こんな運命なんか……ぶち壊してやりたいのっ!!」


ぎゅっとお姉ちゃんは妹にしがみつく。



「……お願い…………いなくならないでよ……
わたしをおいていかないで……シャルロット……」



困ったようにシャルロットは微笑む。

「大丈夫……大丈夫だから………心配しないで……?
わたしは消えても大丈夫だから…………。
わたしは存在が消えても神様になるだけ。

いつからかわからないけど…………
わたしの命はそう長くない気がしていたの。
死ぬ覚悟は…………最初から出来ていたの。

一人ぼっちになって
もうお姉ちゃんに会えなくなるのは寂しいけど…
ずっと見守っているから…ずっとそばに居てあげるから……
だから……心配しないで……お姉ちゃん?」



「やだよ……いやだよ……いなくならないで……」

泣きじゃくる姉に妹は困った顔をしていた。


しかし、シャルロットはこの絶望的な状況でも
まだ諦めていない。

必ず二人で助かる方法があるはずと思考を巡らせる。

シャルロットが導き出した結論は



「必ず……見つけてみせる……二人で助かる方法。」

「……ほんとうに………そんなのがあるの?」




零時まであと、一分三十秒しか残っていないが
諦める道理はないはずだ。


「最期まで諦めないで……私を信じてくれる?」

「うん……信じて…いいのね?」


「うん………叶えよう。二人で幸せになれる結末を」




「いいえ、貴女はここで終わる運命なのですよ……
アルビオン様」

「あっ?お前は……確か……」


「シャルロット!!逃げてッッッ!!!」


「もう遅いのです、諦めなさい人の子よ……。」



突如、背後に現れた創造主バーミストの放った
神速の貫手は、シャルロットの左胸を貫いた。

シャルロットの胸や口から鮮血が噴き出した。
シャルロットは膝から崩れ落ち、地に伏せた。


「シャルロットッッッ!!!」

モルドレッドの悲鳴のような声が夜の森に木霊した







モルドレッドは恐怖しながらも
妹を守る為に創造主バーミストを睨みつけた


「死になさいっ!」

モルドレッドは破壊の神槍を投擲し
破壊の神眼で全力で睨みつける。

「静かにしていろ。 人の子モドキが。」


創造主バーミストには一切動かずに神槍を砕き
破壊の神眼を無力化させ

モルドレッドを天の鎖で縛り上げた。

「きゃあっ!?」


「貴様ら異物はもうすぐ消える
その時まで大人しくしているがいい。
もうまもなくだ。
創世の月が顕現し世界は正しき姿に変えられ
異物共の粛清が完了なされるのだからっ!」


創造主バーミストは天を仰ぎ、降り注ぐ月明かりを見つめる。



「…………なるほどな。お前がお姉ちゃんを
唆した黒幕だった………ってわけか。」



驚愕したようにバーミストは
左胸に穴が空いたままのシャルロットを見ていた。



「……馬鹿な……私の神撃で負った傷は何者にも癒せぬはずだ……」


「うん…確かに、傷が中々塞がらないけど
たかがそれだけのことで私を倒せると思った?」


「悪いけど貴方と遊んでる時間はないんで
早々に退場してもらうぞ」


シャルロットは片足を上げて
全魔力を解放し創造主バーミストに急接近し
凝縮した魔力と虹色の光を纏った
必殺の蹴りを一気にバーミストに叩き込む。


瞬間、バーミストの内側に出現した
青白い光の炎が、幾重にも張り巡らされていき
奴の神経や肉体をズタズタに引き裂き焼き尽くし
内部から崩壊させていく。

青白い光がバーミスト体から漏れ始め、大きく弾けた。



「ぐ………がああああああッッッ!?!?
なん、だ………!……この凄まじい魔力は……!?
馬鹿な……創造主である私よりも……強い、だと……!?」


吹き飛んだバーミストは
体内に荒れ狂う青白い炎に必死に抵抗しようとしている。



「…ふむ。さすがは神様だけあってなかなかしぶといな?」


あれで死にはしないだろうが時間稼ぎにはなるだろう。

タイムリミットまで残り15秒だけど
十分過ぎるぐらい時間に余裕がある。


私は姉を縛っている鎖を破壊し
彼女に手を差しのべる。

「大丈夫…お姉ちゃん?」

「ええ…ありがとう…シャルロット。」


「さあ……お姉ちゃん…わたしを信じて……」

「分かったわ…わたしは……シャルロットを信じる……。」

シャルロットは創世の神の力を使って

創世の月の力になんとか抗おうとするが
それでも止まらず、二人の魂が一つになろうと
融合を止める事が出来ない。




融合が進み二人の意識が消えようとしたその時

わたしは………妹に……
神様シャルロットに…………奇蹟を望んでしまった。



シャルロットとモルの指輪から
白と黒の闇と光が溢れ出して
光に包まれて二人は体を重ねる。

二人の心は溶け合い一つとなっていき

モルドレッドの揺るぎない意志が、温かい心が
無数の想いがとめどなく溢れ、私の心に入ってくる。




今度こそ………妹を救いたかった。
もう十分に生きたと思った。そう思い込もうとした。

だけど、未練がないと言えば、やっぱり嘘になる。

わたしは…妹と…シャルロットとまだまだ
ずっと一緒に生きていたい。

シャルロットと一緒にやりたいことが
まだまだたくさん…たくさんあるんだから……!

わたしはシャルロットに出会うまで
愛というものがよく分からなかったけど
やっと…どういうモノなのか理解出来たわ。

それに、二度も妹を守れずに死ぬなんて
そんな酷い人生はないと思っていた。

この呪われた力がまた出てきた時
私はこっちでもずっとひとりぼっちなんだって思っていた。

だけど、わたしはあなたに出会った。

わたしの呪われた目をまっすぐ見つめてくれて

わたしの目を綺麗だって言ってくれた。

わたしが泣いているとき…いつもあなたが……

ずっと……………側にいてくれたよね………

ずっと一緒にいるって約束してくれたわよね……


運命をぶち壊すって、いとも簡単に言った彼女の言葉が……

あのときのわたしには、なによりも強い勇気を与えてくれたから。


人生最後のキスをシャルロットに捧げて
もうこれで思い残すことはないはずだった。

だけど、だけど……もしも……


もしも叶うのなら、この愛おしい妹と恋の続きをしてみたいと願った。







シャルロットの創世の力と
モルドレッド・レガリアの妹を守りたい
強い想いを共鳴するように、神のギフトが開かれ

モルの魂の奥底に眠っていた
この巫山戯た世界の摂理や理を蹂躙し
姉妹の残酷な運命を踏み潰す
己の意志を貫き通し宇宙最強の我儘を実現させる
災禍の勇者の力が解放される。

そして始祖の王冠もまた二人の想いに共鳴し
闇色の禍々しく…だけどどこか優しい宵闇が溢れる

二人は創世の月の光を浴びるが


しかし、そこに立っていたのはモルドレッドただ一人のように見えた。







「うそ………シャルロット………消えちゃったの……?」


「ウソよ……信じたくないわ………返事をしてよ……
シャルロット………わたしを……おいていかないでよ……
お姉ちゃんを…置いていくなんて………
ぜったい…………許さないん………だから……」

モルドレッドは大粒の涙を流しながら嗚咽を漏らした

大好きで自らを犠牲にしても守りたかった妹は
助けられず、自分だけが生き残った
そう感じてしまい、絶望だけが彼女を支配した。



(お姉ちゃん……大丈夫…だよ?)

「え……シャルロット……?」

彼女の脳裏……心の中からシャルロットの声が響いた。

(大丈夫だよ……お姉ちゃん…わたしは……)


(ちゃんと…ここにいるよ。)


(わたしは…お姉ちゃんと1つになったの。)

「一つに……?」

創世の鐘の音が鳴り響き、彼女の目の前に大きな鏡が生成される。

モルドレッドは自分の姿をよく見てみることにした。


シャルロットにもモルドレッドにも似ている姿をした
全宇宙を恐怖させる大厄災そのものである少女

災禍の魔王がそこには存在していた。


「これが……今のわたし……?」

「体の内側から…シャルロットの優しくて暖かい力を感じるわ。」

(そうだよ…お姉ちゃん…わたしたちは
ちゃんと………ここにいるよ。)









姉妹は融合し新たな存在に作り変えられたはずであるが
二人の意識や肉体は確かに存在している。
今の彼女の姿は大きく変わってしまったが
融合前より見違える程、魔力が増大していた。


顔はシャルロットの顔をしており
瞳は破壊神と創世神の神眼が顕現したオッドアイ

そしてフェンリルのような獣の耳に
頭には闇色の魔王の王冠。



宇宙の均衡を揺るがし全宇宙の全存在が恐怖させる獣
少女が赤黒い闇と青白い光が混ざり合った混沌から姿を現した。













災禍の魔王となった少女は運命を弄んだ

この世界の創造主に鋭い眼光を向ける。



「さあ、来なさい。」


災禍の魔王の呼びかけに応じ
立ち上る無数の黒い粒子、その全てが足元へ集中する。

黒い粒子が象ったのは、剣の形をした混沌だ。

手をかざせば、その混沌の剣はゆっくりと宙へ浮かび上がってきた。

災禍の魔王は柄を手にする。

その瞬間、全宇宙を揺るがす凄まじい魔力が放出し
影は反転し、漆黒の長剣がそこに現れる。


災禍の魔王と成った少女の手には
混沌が剣の形を象ったような闇色の長剣
魔王剣ヴォルディスノアールが握られていた。





「因果の運命は変えられない。
創造主神の定めた運命とは絶対でなければならないなればこそ、運命を覆すなど不可能であろうっ!」


バーミストの右手に巨大な光の神剣が顕現する。


世界の時を停止させて
バーミストは彼女の首を切り裂こうとするが

何者にも支配されず縛られない
災禍の魔王の力で時間が停止した世界でも歩みを止めず
創造主バーミストを睨みつけ
創造主に支配されているこの世界を滅ぼしていく。

破壊の神眼は創世の神眼により
終焉の神眼へと昇華され
シャルロットとモルドレッドの双つの瞳が赫く染まり
バーミストの魔術を終焉させ滅ぼし神剣を腕で受け止める。











「なにっ!?馬鹿な……あり得ない…!?」


「あら?そう?創造主としての神格は
ワタシたちの方が遥かに上なのに
貴方如きが勝てないことの何があり得ないのかしら?」


「き……貴様…異物の分際で言わせておけば……!!」

「世界の均衡を乱し、破壊してきた異物が……
世界の創造主を騙るなああああああ!!!」




バーミストの神剣から
尋常ではないほどの魔力がそこから勢いよく溢れ出した。


災禍の魔王に覚醒したモルドレッドは
バーミストの懐に踏み込む。

刀身から、漆黒の魔力が立ち上り、あたかも巨大な剣の如く象られた。


「さあ、この魔王剣を味わいなさい?」


バーミストが幾重にも張り巡らされた神の魔法
世界を支配する極大魔法陣を展開し
世界の異物を滅ぼす絶滅魔法を放つが
それを悉く打ち破り、闇色の長剣はいとも容易く
神剣ごと創造主バーミストを斬り裂いた。




「……無駄だ……アルビオンと人モドキが混ざり合っている程度では
私を滅ぼすことなど不可能である。」

「この創造主神の体はこの世界の摂理そのもの……
なにをしようと……滅びる道理はない………。」



ぼとり、とバーミストの右腕が落ちた。

驚愕したような声が漏れる。



「……な……ん、だと……?」

「……治らぬ……だと……あり……ありえ……アリエヌ……
摂理ガ、崩れルなど…ありえないっ……!?」



「どうしたのかしら?創造主さまとやら?
この世の摂理って案外脆いものなのね?」


言動や性格はシャルロットよりモルドレッドのモノに近いが
その戦闘能力と魔力はシャルロットのモノだ。
凄まじい戦闘センスと二千年の戦闘経験から

バーミストの神の剣技を初見で見切り、一切触れられずに

闇色の長剣を振るい、今度はバーミストの左腕を落とす。

いとも容易く切断された神の肉体の側面は
黒塗りされたかのように真っ黒になっており
何をしようとも元に戻ることはない。



「馬鹿な……!?なぜだ?刃を受け止めても避けても斬られるのだっ!? 
世界を改変しても傷が治らぬだとっ!?」


バーミストは無数の魔法陣を展開し
赤い太陽のような火球と天の鎖を繰り出す。

シャルロットが創世の力を使い、天の鎖を泡の鎖に作り変えて

モルドレッドは破壊神の力で太陽を破壊する。



再び闇色の魔剣を振るいバーミストの頭蓋に剣を突き刺し
バーミストを蹴飛ばす。

そして、災禍の魔王は次の標的を創世の月に変えた。

モルドレッドが月に向かって闇色の長剣を振るうと
月が真っ二つに割れていき
新たな満月が創世されていき
銀色の光は消え去り紫色の光を放っている。




「……馬鹿な……馬鹿なっ!!あり得ない……
創世の月を滅ぼした…だと!?
なんなのだ、その魔剣はああああああ?!」



ワタシは喚くバーミストの喉元に、刃を突きつける。

「アンタみたいなザコ相手にわざわざ教えるわけないじゃん。」


「そのまま、ワタシに恐怖しながら死になさい。」



「お……おのれ……人モドキ風情が調子に乗るなっ!」


反撃しようとするバーミストの喉元に魔王剣を突き刺す。

瞬間、バーミストの魂と肉体が消えていく。



「お、のれ……! おのレェ……!! オノレ……!!」



断末魔の悲鳴とばかりに彼は叫んだが
とうとう魂が限界を迎えたのか朽ち果てていった。

残ったのは災禍の魔王となった
モルドレッドとシャルロット…二人の少女だけであった。



月明かりが抱き合った姉妹を明るく照らしていた。








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