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六天魔皇と星海の少女編F 束の間の終息

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「…行ってくるね、お姉ちゃん…
ううん、モルドレッドさん」

ルミナス・メモティック・フォールンナイトは

自室に並べてある等身大のモルドレッド人形に声をかけると


モルドレッドさんのいる病院に向けて
オルガンティア宮殿を後にした。


これから病院で眠っているモルドレッドさんのお見舞いに行くのだ。


空は雲一つない快晴だが、ルミナの心は晴れなかった。

あの日、壮絶な戦いが行われた日


ルミナは死ぬ運命だったはずなのだ。

なのに、目が覚めた時には、何故か全身の傷が治っていて

消滅したはずの神核も元通りになっているばかりか

私を縛り付けていた呪いまで消えていた。


奇跡が起こったとしか言いようがなかった。



ルミナは、なんとなくだけど、覚えていた


雪のように白くて優しい魔力。

あの時、モルドレッドさんだけじゃなくて

もう一人のお姉ちゃんも側にいてくれたような気がした。


とにかく、またモルドレッドさんには助けられてしまった。


これから私は一生をかけて贖罪をしなければいけない。

赫神華の一員として働いた悪事のことも

自分の我儘で赤の他人を沢山巻き込んでしまったことも

心から反省して償いをしていかなければいけない。


皇帝陛下は情状酌量の余地ありとして


私のことを絶弾するつもりはないらしい。

だけど、それでは気が済まなかった。


特に、部下の皆さんには詫びても詫びきれない。


昨日、ルミナは彼らの記憶を一日かけて

再び記憶を改竄して何もかも全て元通りに直した。


あの人達は意外にも

気にするな、お前が強く、六天魔皇に相応しい方だと分かったから十分だと言い

私を虐めていた部下の人達からも謝罪を受けてしまった。

謝りたいのは、むしろ…私の方なのに………



今後、彼らとどの様に接していけば良いのだろう…?


ルミナは、この先の事を考えながら

モルドレッドさんのいる病院まで向かった。














途中から何故かほとんど記憶がないけれど


戦神の神核が何故か粉々になったせいで

聖域が消滅してしまって

死者の蘇生はどうなってしまったのだろうと思っていたが

あの後、無事に蘇ったらしい。

シャルロットが全部なんとかしてくれたようだ。


私は、病院のベットの上でゴロゴロしている。


シュバルツとかいうクソ野郎に蹴られてからの記憶が欠如してしまっているが


自壊の秘術を使ったせいで

神核が燃え尽きてしまって死にかけていたはずの

ルミナは何故か物凄く元気になっていて

傷一つ無く生還したのだと言う、不思議なこともあるものだ。


シャルロットにあの後どうなったのか聞いたら

何故か、世界中が凍りついて、陸地は凍土になってしまって

海も全て凍りついて世界全土が豪雪地帯のようになってしまい

季節は夏だって言うのに極寒の寒さに見舞われた

そんな恐ろしい事件が私の気絶してる間に起きていたらしい。





赫神華のアジトが何者かによって壊滅させられて

遥か西の大陸に大きな穴が空いてしまったんだってさ。 


あの後、ルミナは罪を償う為に

皇帝陛下から連続殺人事件の罰を受けることになった。


しかしシャルロットが物凄く頑張ってくれて

ルミナのことを全力で擁護したのである。 

ルミナの事情を詳しく全て知ったお父様とお母様

そして、皇帝陛下は更生する意志の確認と

事情からして情状酌量の余地ありだったので

皇帝陛下の尊大なる慈悲の心によって

死刑だとか大した罰にはならなかった。



オルガンティア帝国の者に施した

全ての洗脳を解くことを条件に

これからもルミナは六天魔皇は続けられるらしい。

それと、一週間、宮殿の隅々まで一人で掃除する罰に加えて

宮殿内に監禁され謹慎処分という形となった。

それに、この事件の真相は世間では公にされておらず


六天魔大神魔戦争ラグナロクの結果も有耶無耶となった。




ルミナがやらかしたことを知る者は誰もいなかった。



そして今、私はルミナと再会している。



私は何故か、ルミナにキスをして吸血鬼的には

物凄くエッチなことをしてしまった記憶があり


な、なんだか気まずい

私とルミナは顔を真っ赤にさせながら、正座して向き合った。


「えっと…ルミナ…身体は大丈夫なの?」


「はい、モルドレッドさんのおかげで、すっかり元気になりました。」


どう言葉をかければいいか迷っていると

ルミナは緊張した様子で私の名前を呼んだ。


「…モルドレッドさんには、沢山迷惑をかけてしまいました。

…本当に、ごめんなさい。

もう、新しい家族を作ったり、洗脳したりしません。


もう、悪いことはしません。

本当に、ごめんなさい……!!」

ルミナは頭を深々と下げて謝罪した。



「そっか…私は全然気にしてないわよ」


優しい言葉をかけると

ルミナの瞳から今まで堪えてた激情が涙となって零れ落ちた。


「皆さん…そう言っているんです。

本当に皆さんは優しすぎます。

シャルロットさんなんて笑って転げて

『むしろその改竄能力と暗殺者の技術をこれからもどんどん私達の為に使ってほしい』

なんて、とんでもない冗談を言ってきたんですよ?

皆さん、本当に優しすぎて、暖かく迎え入れてくれて

でも、それだと気が済まないんです。」





「モルドレッドさん、私に、罰を与えてくれませんか?」


…確かに、悪いことをして罪悪感があるのに

大丈夫だよ、誰にでも間違いはある

そのような感じで無条件で許されて

いたたまれない気持ちになってしまったのだろう。

もうすでに彼女は皇帝陛下からそれなりの罰を受けたはずだが


まあ、本人がそこまで言うのなら

私が罰を与えてやろうじゃあないの。

「……分かったわ、ルミナ…貴女に与える罰は

私と生涯離れる事なくずっと側にいて欲しいの罰よ!」


それを聞いたルミナは顔を真っ赤にして

口を金魚のようにぱくぱくさせていた。



ルミナはボロボロと涙を零しながら

泣き笑いのような顔をして頷いた。


「……わかりました」


「でも、そんなの罰とは呼べませんよ。

だって、モルドレッドさんに呼ばれたら

すぐにでも駆けつけてしまいそうですから」


「フフフ…確かに、そうかもね」


「私も、ルミナの為ならどこにいても助けに行くから」



「それと、モルドレッドさんって呼び方

前にも言ったと思うけどあれは、止めて

もっと親しみを込めた愛称で呼んでほしいの」


それは、あの時、ルミナと離れ離れになって

絶望の中にいたモルドレッドを救ってくれた

ある大切な友達がくれた名前を紡ぐ。




「親しい友人は私のことをモルちゃんって呼ぶの。」


「だから、その…ルミナもたまにはそう呼んでほしいな…ダメ?」


「はい、よろしくお願いします…モルちゃん」

こうして私は長い時を超えて妹と再会を果たした。


     
多分、私達の行く先はまだまだ面倒くさいことが

沢山待ち構えているに違いない。


だけど、一人じゃなくて、シャルロットと

ルミナと一緒に立ち向かえるなら怖くない気がしてきた


まだまだルミナと一緒にやりたいことがあり過ぎて


どうしようかと、これからのことに胸を踊らせて


私はルミナの笑顔を見つめるのだった。



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