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・題之巻
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「御免!ぐわーっ!?」
「愚か者め……おお!?」
「お、お館様!?」
「……死んでおられる」
「こ、これは一体」
「おのれ何者の仕業じゃあ!」
事が起こりたるは元亀[文字欠落]年、山深き飛騨忍者の隠れ里。この戦国乱世の各地に忍び働きを周旋する忍び頭、村崎一影斎が己が住処たる絡繰忍者屋敷の一室で死んでいたのである!
【一人目の犠牲者、村崎一影斎!】
なお、支え棒のされたその室内に戸を蹴破って入ろうとした下忍・”アオシシの”次郎太は戸に仕込まれた絡繰仕掛け刃と戸のすぐ内に仕掛けられた刃付脛砕きに足を破壊され大量出血死!
【二人目の犠牲者、”アオシシの”次郎太!】
「御屋形様のからくり屋敷の恐ろしさを知りながら考えなしに足を使うとは、次郎太、初戦は山走りだけが自慢な下忍の愚かしさよな」
虚無僧姿の忍び”見切れず”参佐と修験者姿の忍び”霧の”四郎兵衛が言葉をかわし、小男でありながら足ばかり逞しく、杣人の装いを纏った蛙といった風の次郎太の屍を転がしたまま、残る五人の忍びは忍び頭の死体を検分し始める。忍びは非情なのだ。
白髪を総髪にした威厳有る口ひげを蓄えた忍び頭は、左手を己の破られた喉笛にやり、右手を突き出し、仰向けに倒れて事切れていた。かっと目を見開いた凄まじい形相。
「うむ、念の為改めて確かめたが、間違いなく息の根は止まっておる。死因は、この喉笛の傷かのう」
血にまみれた左手指の向こうで、一影斎の喉笛は完全に抉り裂かれていた。
侍姿の忍び”小口切りの”後藤悟郎が沈着な声で評し、そして余計な一言を付け加えた。
「俺の獲物は刀だ。刀じゃこんな傷にはならん。つまり、殺ったのは少なくとも俺じゃねえって事だ」
「な、何を言われるのです後藤様。それではまるで我らの中に下手人がいるようではありませんか」
その言葉に含まれた棘におどおどおと反応したのは、歩き巫女姿の女忍び”辻の”六道輪廻だ。
「そうじゃそうじゃ!何を言うておる、余所の里の刺客じゃろうと、俺が聞き耳を立てて神経を尖らせ周囲を探っておるというに!」
そして輪廻に呼応して怒鳴るのは、最後の一人である”七尺”無名獣だ。
獣皮を蔦でからげた袴一つの半裸で、身の丈七尺、獣に育てられ名を持たぬという筋骨隆々の大男の忍びである。
「その胴間声を上げながら天井や床下の気配が探れるというなら、大したものじゃの」
「応よ、大したものであろう!」
「そうか。で、気配は」
「……無い、な」
皮肉に気づかぬ無名獣に呆れながらも、後藤は指摘し、そして無名獣はそちらの意図は理解した様子で、顔色を改めた。成る程、確かに周囲に外部からの侵入者の気配はない。ならば……
「天井床下に気配なし、ここは屋敷の一番奥、唯一の出口のは我らの前で心張り棒と絡繰で塞がれていた……」
改めて提示された条件を参佐が数え上げ、躊躇うように口ごもり。
「つまり……密室殺忍事件か」
「そういう、事になるな」
四郎兵衛が口にしたことに、恐る恐るといった様子で参佐は首肯した。
忍び五人の間に、どろりとした重い空気が流れた。後藤の右手が、さり気なく刀の柄の上に置かれる。
参佐の深編笠の下で、何かが動く気配がした。
「さ、里の皆にまず伝えるべきでは」
「俺たちは忍びだ。外に出れば、即座に行方を眩ませられるぞ」
輪廻の震え声を、後藤が否定した。下手人がこの中にいるのであれば、今この場で見つけなければ絶対に逃げられる、と。
「左様、我等五人のうち下手人ならざる四人でこの殺しの手口を暴き、下手人を仕留めねばならぬ」
後藤の否定に四郎兵衛が乗った。
他の三人も、やむなしと頷く。
忍者の……推理!が、始まったのであった。
「愚か者め……おお!?」
「お、お館様!?」
「……死んでおられる」
「こ、これは一体」
「おのれ何者の仕業じゃあ!」
事が起こりたるは元亀[文字欠落]年、山深き飛騨忍者の隠れ里。この戦国乱世の各地に忍び働きを周旋する忍び頭、村崎一影斎が己が住処たる絡繰忍者屋敷の一室で死んでいたのである!
【一人目の犠牲者、村崎一影斎!】
なお、支え棒のされたその室内に戸を蹴破って入ろうとした下忍・”アオシシの”次郎太は戸に仕込まれた絡繰仕掛け刃と戸のすぐ内に仕掛けられた刃付脛砕きに足を破壊され大量出血死!
【二人目の犠牲者、”アオシシの”次郎太!】
「御屋形様のからくり屋敷の恐ろしさを知りながら考えなしに足を使うとは、次郎太、初戦は山走りだけが自慢な下忍の愚かしさよな」
虚無僧姿の忍び”見切れず”参佐と修験者姿の忍び”霧の”四郎兵衛が言葉をかわし、小男でありながら足ばかり逞しく、杣人の装いを纏った蛙といった風の次郎太の屍を転がしたまま、残る五人の忍びは忍び頭の死体を検分し始める。忍びは非情なのだ。
白髪を総髪にした威厳有る口ひげを蓄えた忍び頭は、左手を己の破られた喉笛にやり、右手を突き出し、仰向けに倒れて事切れていた。かっと目を見開いた凄まじい形相。
「うむ、念の為改めて確かめたが、間違いなく息の根は止まっておる。死因は、この喉笛の傷かのう」
血にまみれた左手指の向こうで、一影斎の喉笛は完全に抉り裂かれていた。
侍姿の忍び”小口切りの”後藤悟郎が沈着な声で評し、そして余計な一言を付け加えた。
「俺の獲物は刀だ。刀じゃこんな傷にはならん。つまり、殺ったのは少なくとも俺じゃねえって事だ」
「な、何を言われるのです後藤様。それではまるで我らの中に下手人がいるようではありませんか」
その言葉に含まれた棘におどおどおと反応したのは、歩き巫女姿の女忍び”辻の”六道輪廻だ。
「そうじゃそうじゃ!何を言うておる、余所の里の刺客じゃろうと、俺が聞き耳を立てて神経を尖らせ周囲を探っておるというに!」
そして輪廻に呼応して怒鳴るのは、最後の一人である”七尺”無名獣だ。
獣皮を蔦でからげた袴一つの半裸で、身の丈七尺、獣に育てられ名を持たぬという筋骨隆々の大男の忍びである。
「その胴間声を上げながら天井や床下の気配が探れるというなら、大したものじゃの」
「応よ、大したものであろう!」
「そうか。で、気配は」
「……無い、な」
皮肉に気づかぬ無名獣に呆れながらも、後藤は指摘し、そして無名獣はそちらの意図は理解した様子で、顔色を改めた。成る程、確かに周囲に外部からの侵入者の気配はない。ならば……
「天井床下に気配なし、ここは屋敷の一番奥、唯一の出口のは我らの前で心張り棒と絡繰で塞がれていた……」
改めて提示された条件を参佐が数え上げ、躊躇うように口ごもり。
「つまり……密室殺忍事件か」
「そういう、事になるな」
四郎兵衛が口にしたことに、恐る恐るといった様子で参佐は首肯した。
忍び五人の間に、どろりとした重い空気が流れた。後藤の右手が、さり気なく刀の柄の上に置かれる。
参佐の深編笠の下で、何かが動く気配がした。
「さ、里の皆にまず伝えるべきでは」
「俺たちは忍びだ。外に出れば、即座に行方を眩ませられるぞ」
輪廻の震え声を、後藤が否定した。下手人がこの中にいるのであれば、今この場で見つけなければ絶対に逃げられる、と。
「左様、我等五人のうち下手人ならざる四人でこの殺しの手口を暴き、下手人を仕留めねばならぬ」
後藤の否定に四郎兵衛が乗った。
他の三人も、やむなしと頷く。
忍者の……推理!が、始まったのであった。
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