24 / 289
第3章 独占欲の行方
執事と親
しおりを挟む「すごーい! 五十嵐君、手際いいね!」
その頃、レオはキッチンで、冨樫の手伝いをしていた。
少し買い物に手間どってしまったらしく、冨樫がディナーの準備に、一人あたふたしているところにレオが声をかけた。
燕尾服のジャケットだけ脱ぎ、袖を七分丈になるまで捲り上げると、エプロンをしてキッチンに立つレオ。
冨樫が与える指示に、難なく応えていくレオの料理のスキルは、なかなかなもので、包丁を握りスルスルとリンゴの皮をむくレオを見て、冨樫が感心する。
「五十嵐君て、料理も得意なんだね」
「はい。学生時代に高級レストランでアルバイトをしていたので、料理の仕込みから盛りつけまで一通り学びました」
「学生時代って、フランスにいる時?」
「はい。まぁ、イギリスに渡って執事の養成学校に通う前の下準備みたいなものでしたが……」
「へー、本気で執事なるためにイギリスにいったんだ! 日本にはないからわからないけど、執事の学校ってどんな感じなの?」
「そうですね。俺が通ってた学校は、城でしたよ」
「城!?」
「はい。使われなくなった古城を学校にして、実際に結婚式や会議などの貸会場としても使われていたので、そのセッティングを生徒達が行っていました。あとは、お盆に水の入ったグラスを乗せて、階段を上る試験とか」
「あはは! なにそれ、運動会の競技みたい」
「他にも、着替えは3分以内に終わらせないといけないとか、お辞儀の角度は何度とか、結構、細かいルールがあって、全寮制で寮生活でしたが、俺のように若い人は少なかったので、友人は年上の人ばかりでした」
「そうなんだ。ねぇ、やっぱり執事って男性ばっかりなの?」
「いいえ、女性もいますよ。国によっては、親族以外の男性が女性に触れることを許さない地域もありますから、女性の執事も必要ですしね」
「はー、なんか知らない世界ってかんじ~。でも、わざわざ執事になるためバイトしたり留学するなんて、五十嵐君は本当に執事になりたくて頑張ったって感じだね!」
「そうですね」
冨樫が、鍋のビーフシチューを煮込みながら問いかけると、レオは柔らかく微笑む。
「そっか~。私もね、子どもの時からシェフになるのが夢で、いつか自分のお店持ちたいなーとか思ってたの!」
「そうなんですね」
「うん……あ、そういえば、五十嵐くん、親は今どうしてるの? フランスに住んでたってことは、今もフランスにいるの?」
だが、冨樫のその問いに、リンゴを剥いていたレオの手がピタリと止まる。
「……えぇ、まぁ」
「そうなんだー。海外にいるなら、あまり干渉されないからいいね! うちなんてさー、最近会う度に『いつ、結婚するんだー』だよ! そりゃ、29だし言いたくなる気持ちはわかるけどさ、流石に耳ダコっていうか!」
「彼氏は、結婚する気がないのですか?」
「わかんない。すれ違ってばっかりだし。なんか、最近アイツが、何考えてるのか分からなくなっちゃった。でも、結婚したら夢を諦めなくちゃいけなくなるし、なら、このまま仕事に生きるのもいいかなーって、おもったりもして……まぁ、仕事に生きたら生きたで、また結婚は~とか、孫の顔が~とか、くどくど言われんだろうけどね?」
「大丈夫ですよ、30過ぎたら言われなくなりますから。気を使って」
「ぅ……五十嵐くんて、たまに毒吐くよね?」
「そうですか?」
「そうだよー。でも、五十嵐君が、料理得意なのは助かる! 今度から、私が休みの時とか五十嵐君に頼んじゃおうかな~。いつもは、恵美か矢野さんに頼んでるだけど、難しい注文まではできなくて」
「どうぞ。一通りのスキルは身につけてますので、俺で良ければ、どんなことでもお応えしますよ」
「頼もしい~」
「五十嵐さん」
「……!」
すると、雑談を繰り返している最中、入口から、矢野の声が聞こえた。
「お嬢様のお勉強は、もう終わりですか?」
「はい。今日は早めに切り上げました。あと、お嬢様にお茶をお持ちしたいなですが、五十嵐さんが忙しいなら、私が代わりに行きますが」
「あー大丈夫だよ、矢野さん! 五十嵐くん、もういいよ! あとは『前菜』と『リンゴのコンポート』作るだけだから!」
「わかりました。では、私が、お嬢様にお茶をお持ちします。お嬢様からなにかご所望はありましたか?」
「いいえ、特には」
「そうですか」
エプロンを外し、再びジャケットに袖を通したレオは、その後、食器棚からカップとソーサーを取り出した。
そして、その後、丁寧に豆を挽くと、キッチンには、香り豊かなコーヒーの香りが漂いはじめる。
「コーヒー……ですか? お嬢様は、いつも紅茶をご所望になることが多いですが」
「えぇ、なんとなく今日は、コーヒーが欲しくなりそうだなと」
「?」
甘いものを食べた後は、コーヒーが欲しくなる。
レオはそう思い、いつもより楽しそうな笑顔を浮かべながら準備を整えると、いそいそとキッチンから出ていった。
そして、残された冨樫と矢野は
「ねー! 矢野さん、聞いて! 五十嵐くん料理も出来るのー! なに、あのイケメン! 超ハイスペックなんだけど!!」
「バカ言ってないで、早く仕事をしなさい。ディナーの時間まで、あと一時間ないですよ! あと、言っておときますが、使用人同士の恋愛もご法度ですから!」
「もう、わかってるよ! てか、私も五十嵐くんも恋人いるし!!」
それから暫くキッチンの中は、そんな二人の声で騒がしかったとか?
2
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる