110 / 289
第12章 執事の恋人
お嬢様のわがまま
しおりを挟む──ピンポーン!
清々しい秋の朝。庭で洗濯物を干していたルイのもとに、突如インターフォンが鳴り響いた。
時刻は、朝の8時過ぎ。
こんな早朝から誰だろうかと、庭先を抜け玄関の前に出ると、そこには見慣れた友人の姿があった。
「あれ、レオどうしたの? しばらく来れないとか言ってたのに」
「ルイ……!」
首を傾げながら、ルイが問いかければ、レオは、酷く真剣な表情で、ルイの肩を掴み
「頼む。一日だけ、俺の彼女になってくれ!」
「……は?」
✣
✣
✣
五十嵐に送り届けて貰ったあと、学校の教室の中で、結月は、一人頭を抱えていた。
(どうしよう……私、とんでもないお願いしちゃった)
顔を青くし後悔するのは、昨日のこと。
結月は昨日、公園に散歩に行った際、執事に『どんな願いも叶えます』と言われ、思わず『五十嵐の彼女に会ってみたい!』と言ってしまった。
だが、さすがに、ありえないワガママだと思った。彼女に会わせろだなんて……
(あの後、すごく複雑な表情してたし、五十嵐、きっと困ってるわよね?)
自分の彼女を主人に会わせるなんて、執事業界広しと言えど、前代未聞のお願いだろう。
(でも、あの五十嵐が、あんなに大事にしている彼女だもの。きっと、素敵な方に違いないわ)
だが、もし会えるのなら、会ってみたい。
そう思ったのは事実だった。
素敵な彼女と、一緒にいる五十嵐の姿を見れば、きっと忘れられると思った。
だからこそ、この気持ちに区切りを付けるためにも、五十嵐の彼女に会って話をしてみたい。
(五十嵐、本当に叶えてくれるのかしら?)
窓の外を見つめながら、結月は思い耽る。
とんでもない、わがまま。だが、これも全て「好きな人」を忘れるため。
(きっと叶えてくれるわよね。どんなことでもっていってたし)
✣
✣
✣
そんなこんなで、再びルイの自宅では
「頼むルイ! 一日だけ、俺の彼女になってくれ!」
と、いくら結月の願いとはいえ、とんでもないお願いをしてきたレオに、ルイは、口元を引き攣らせ困惑していた。
無理もない。男の友人に、突然、彼女になれと言われたのだから!
「えーと……うん、わかるよ。執事の仕事、大変だよね。ストレスとか、色々溜まってるよね? でも、いくら僕が、女の子っぽくみえなくもないからって、さすがに、友人の男で性欲処理するのはどうかと思うよ」
「誰が、何を処理するって?」
「え? だって、一日だけ彼女にって、そういう事じゃないの?」
「違う」
なんだか、おかしな誤解をされているのに気づき、レオは深くため息をつくと、続けて言葉を放つ。
「実は、結月に、俺の彼女に会ってみたいと言われた」
「?」
だが、その言葉に、ルイは更に困惑する。
「ん?? レオの彼女は結月ちゃんでしょ? 会いたいって、なに??」
「それは……っ」
そんなわけで、場所を変え客間へ移動したレオは、その後、ルイに事の顛末を全て説明した。
✣✣✣
「というわけで、一日、俺の彼女になって、結月にあって欲しい」
だが、その説明をうけて、ルイが納得できるはずもなく。
「いや、ムリ」
「ムリとか言うな。お前、この前『困ったことがあったら、なんでも力になる』って言っただろ」
「うん。あれ、撤回する。まさか『彼女になれ』と言われるとは思わなかったんだ。大体『使用人の彼女に会いたい』って、なに、そのお願い。ちょっとわがまま過ぎない? お金持ちの考えてることって、僕、よくわかんない」
「結月を悪く言うな」
「ていうか、レオ、そこそこモテるんだし、適当に女の子ひっかけて連れていけばいーじゃん。要は、彼女役、連れていけばいいんでしょ?」
「…………」
渋々代案を伝えるも、どうやら気を悪くしたのか、レオは酷く不機嫌そうな顔をし、ルイを睨みつけてきた。
「っ……そんな怖い顔しないでよ。冗談だよ」
「当たり前だ。結月以外の女に興味なんてない」
「だからって、男ならいいわけ?」
「一日だけ恋人のフリをしてくれればいい。ルイなら俺の事情もよく分かってるし、上手く立ち回れるだろ」
「そうかもしれないけど……」
真剣なレオに、ルイも悩み考える。
確かに、事情を知っているのは自分ぐらいだし、偽物の恋人役を演じるなら、最適な相手かもしれない。
そう、男でさえなければ──
「いや、レオ落ち着いて考えよう。確かに、僕、女顔だし、女装して写真撮るくらいならバレない自信はあるよ。でも、さすがに会って話すとなるとバレるって! 僕、身長177あるんだよ。あと、声とかどうするの?」
「声は気合でなんとかしろ。身長は、フランスの女はみんなこのくらいだっていえば、結月なら騙せる」
「君、お嬢様のこと、軽くバカにしてない?」
「してない。そういう所が、また可愛いんだ」
「あ、ごめん。バカなのレオの方だった」
「とにかく、ルイ以外にいないんだ。頼む! どんなことでも叶えてやるって、結月と約束した」
「……っ」
酷く思い詰めた表情で頼み込むレオに、ルイは深く息をついた。
恋は盲目とは、よく言ったものだ。
レオは、結月のことになると、周りが見えなくなる時がある。特に『約束』を守ることに関しては、人一倍……
(うーん、参ったな……仮に上手く騙せたとしても、思い出したあとで、ややこしくならないかな?)
この先、記憶が戻れば、逆に大きな誤解を招いてしまう可能性もある。
だが……
(うーん、でも……ちょっと、興味はあるかな。結月ちゃんに)
その後、ルイは、目を伏せ考え込む。
結月は、レオが8年もの間、思いを寄せてきた女の子。
話には何度と聞いていたが、その姿を一度も目にしたことがないルイにとって、結月は、とても興味深い存在でもあった。
「……ん、わかった。そこまで言うなら一肌脱いであげる。でも、やるからには、レオもちゃんと彼氏として振舞ってよ、結月ちゃんの前でもね?」
「そこは、わかってる」
ルイが承諾すれば、レオはホッと胸を撫で下ろした。
そして、その後、今後の計画を緻密に練るレオとルイの横で、ルナはつまらなそうに欠伸をし、丸くなっていたとか?
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる