お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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第12章 執事の恋人

お嬢様のわがまま

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 ──ピンポーン!

 清々しい秋の朝。庭で洗濯物を干していたルイのもとに、突如インターフォンが鳴り響いた。

 時刻は、朝の8時過ぎ。

 こんな早朝から誰だろうかと、庭先を抜け玄関の前に出ると、そこには見慣れた友人の姿があった。

「あれ、レオどうしたの?  しばらく来れないとか言ってたのに」

「ルイ……!」

 首を傾げながら、ルイが問いかければ、レオは、酷く真剣な表情で、ルイの肩を掴み

「頼む。一日だけ、俺の彼女になってくれ!」

「……は?」




 ✣

 ✣

 ✣



 五十嵐に送り届けて貰ったあと、学校の教室の中で、結月は、一人頭を抱えていた。

(どうしよう……私、とんでもないお願いしちゃった)

 顔を青くし後悔するのは、昨日のこと。

 結月は昨日、公園に散歩に行った際、執事に『どんな願いも叶えます』と言われ、思わず『五十嵐の彼女に会ってみたい!』と言ってしまった。

 だが、さすがに、ありえないワガママだと思った。彼女に会わせろだなんて……

(あの後、すごく複雑な表情してたし、五十嵐、きっと困ってるわよね?)

 自分の彼女を主人に会わせるなんて、執事業界広しと言えど、前代未聞のお願いだろう。

(でも、あの五十嵐が、あんなに大事にしている彼女だもの。きっと、素敵な方に違いないわ)

 だが、もし会えるのなら、会ってみたい。
 そう思ったのは事実だった。

 素敵な彼女と、一緒にいる五十嵐の姿を見れば、きっと忘れられると思った。

 だからこそ、この気持ちに区切りを付けるためにも、五十嵐の彼女に会って話をしてみたい。

(五十嵐、本当に叶えてくれるのかしら?)

 窓の外を見つめながら、結月は思い耽る。

 とんでもない、わがまま。だが、これも全て「好きな人」を忘れるため。

(きっと叶えてくれるわよね。っていってたし)



 ✣

 ✣

 ✣


 そんなこんなで、再びルイの自宅では

「頼むルイ! 一日だけ、俺の彼女になってくれ!」

 と、いくら結月の願いとはいえ、とんでもないお願いをしてきたレオに、ルイは、口元を引き攣らせ困惑していた。

 無理もない。男の友人に、突然、彼女になれと言われたのだから!

「えーと……うん、わかるよ。執事の仕事、大変だよね。ストレスとか、色々溜まってるよね? でも、いくら僕が、女の子っぽくみえなくもないからって、さすがに、友人の男で性欲処理するのはどうかと思うよ」

「誰が、何を処理するって?」

「え? だって、一日だけ彼女にって、そういう事じゃないの?」

「違う」

 なんだか、おかしな誤解をされているのに気づき、レオは深くため息をつくと、続けて言葉を放つ。

「実は、結月に、俺の彼女に会ってみたいと言われた」

「?」

 だが、その言葉に、ルイは更に困惑する。

「ん?? レオの彼女は結月ちゃんでしょ? 会いたいって、なに??」

「それは……っ」

 そんなわけで、場所を変え客間へ移動したレオは、その後、ルイに事の顛末を全て説明した。



 ✣✣✣



「というわけで、一日、俺の彼女になって、結月にあって欲しい」

 だが、その説明をうけて、ルイが納得できるはずもなく。

「いや、

「ムリとか言うな。お前、この前『困ったことがあったら、なんでも力になる』って言っただろ」

「うん。あれ、撤回する。まさか『彼女になれ』と言われるとは思わなかったんだ。大体『使用人の彼女に会いたい』って、なに、そのお願い。ちょっとわがまま過ぎない? お金持ちの考えてることって、僕、よくわかんない」

「結月を悪く言うな」

「ていうか、レオ、そこそこモテるんだし、適当に女の子ひっかけて連れていけばいーじゃん。要は、彼女役、連れていけばいいんでしょ?」

「…………」

 渋々代案を伝えるも、どうやら気を悪くしたのか、レオは酷く不機嫌そうな顔をし、ルイを睨みつけてきた。

「っ……そんな怖い顔しないでよ。冗談だよ」

「当たり前だ。結月以外の女に興味なんてない」

「だからって、男ならいいわけ?」

「一日だけ恋人のフリをしてくれればいい。ルイなら俺の事情もよく分かってるし、上手く立ち回れるだろ」

「そうかもしれないけど……」

 真剣なレオに、ルイも悩み考える。

 確かに、事情を知っているのは自分ぐらいだし、偽物の恋人役を演じるなら、最適な相手かもしれない。

 そう、でさえなければ──

「いや、レオ落ち着いて考えよう。確かに、僕、女顔だし、女装して写真撮るくらいならバレない自信はあるよ。でも、さすがに会って話すとなるとバレるって! 僕、身長177あるんだよ。あと、声とかどうするの?」

「声は気合でなんとかしろ。身長は、フランスの女はみんなこのくらいだっていえば、結月なら騙せる」

「君、お嬢様のこと、軽くバカにしてない?」

「してない。そういう所が、また可愛いんだ」

「あ、ごめん。バカなのレオの方だった」

「とにかく、ルイ以外にいないんだ。頼む! どんなことでも叶えてやるって、結月と約束した」

「……っ」

 酷く思い詰めた表情で頼み込むレオに、ルイは深く息をついた。

 恋は盲目とは、よく言ったものだ。

 レオは、結月のことになると、周りが見えなくなる時がある。特に『約束』を守ることに関しては、人一倍……

(うーん、参ったな……仮に上手く騙せたとしても、思い出したあとで、ややこしくならないかな?)

 この先、記憶が戻れば、逆に大きな誤解を招いてしまう可能性もある。

 だが……

(うーん、でも……ちょっと、興味はあるかな。結月ちゃんに)

 その後、ルイは、目を伏せ考え込む。

 結月は、レオが8年もの間、思いを寄せてきた女の子。
 話には何度と聞いていたが、その姿を一度も目にしたことがないルイにとって、結月は、とても興味深い存在でもあった。

「……ん、わかった。そこまで言うなら一肌脱いであげる。でも、やるからには、レオもちゃんと彼氏として振舞ってよ、結月ちゃんの前でもね?」

「そこは、わかってる」

 ルイが承諾すれば、レオはホッと胸を撫で下ろした。

 そして、その後、今後の計画を緻密に練るレオとルイの横で、ルナはつまらなそうに欠伸をし、丸くなっていたとか?

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