139 / 289
第14章 夢を叶えるために
夢と執着
しおりを挟む「俺、実は……仕事をやめて、アイツの『夢』を一緒に叶えるつもりでいたんです!」
そう言って、強い口調で打ち明けた谷崎をみて、ルイは目を見開いた。
肌寒い秋の夜は、そこそこ冷えるが、その言葉には、酷く熱が籠っているのを感じたから。
「……夢?」
「はい。アイツ、料理人なんですけど、子供の頃から、自分の店を持つのが夢で……だから俺も、その夢を応援したいと、ここ8年で必死に料理の腕を磨きました。いつか結婚したら、一緒に店を出そうと思って」
「……」
「最近、やっと愛理から、料理を褒めらるようになって……凄いって、美味しいって、俺が考案したメニューを喜んでくれるようになって……かなり時間はかかったけど、これなら愛理と肩を並べられると思ったんです。それに、アイツも、もう30歳だし、ちゃんと店を出すための資金も貯めたし。あの日は、アイツの誕生日だったから、今だって思って、プロポーズしようとしたんですが……」
「あー……なるほど。それで、仕事辞めて、一緒に店を出そうってプロポーズしようとして、失敗したんだね」
「…………はい」
つまり、彼女は肝心なところを聞く前に『仕事を辞める』と言ったその言葉だけを聞いて、激怒してしまったのだろう。
なんとも悲しい、すれ違いである。
「それ、ちゃんと伝えた方がいいよ」
「いや、もういいっすよ。話も聞かずに別れ話するような女と、この先やっていく自信が……」
「うーん……でも、その日、誕生日だったんでしょ。彼女も少しは期待してたんじゃないかな?」
「え?」
「30歳って、女の子にとっては、結構大きな数字だと思うよ。だから、プロポーズしてくれるの待ってたんじゃない? でも、仕事辞めるって言われて、結婚する気ないんだって思って、悲しくなっちゃったのかも?」
「そう……なんですかね?」
「もしかしたらね。それに、彼女のために、8年も腕を磨いてきたのに、それを知られないままってのも悔しくない?」
「え?」
「彼女の夢が、君の夢でもあったんでしょ? だから、それだけ頑張ってこれた。夢の実現が、後一歩のところまで来たのに、こんな形で諦めちゃうのは勿体ないよ」
「…………」
「僕の友達にもいるんだ。彼女の夢を叶えるために8年も海外で頑張って来た男が……約束したんだって、必ず迎えに行くって、必ず彼女の夢を叶えてあげるって、でも……」
話しながら思い出すのは、その友人が、まだ学生の頃のこと。
レオは、結月のために、ありとあらゆる知識や教養を身につけていた。本を読み漁り、体術を極め、一般よりも、はるか上のレベルまで何もかも全て習得した。
そして、それは、他の誰でもない。
阿須加 結月の『執事』になるためだけに──
「でも、覚えてなかったんだ」
「え?」
「彼女、事故で記憶をなくしてて、その友人のこと、全く覚えてなかった」
「そんな……っ」
「悲しいよね。僕だったら耐えられない。でも彼は、まだ諦めてないんだ」
「え?」
「忘れられて悲しい思いをしたのに、まだ諦めずに、夢を叶えようとしてる。『夢』って、とてもキラキラしてるけど、中身はとっても残酷だよ。だって、叶えられるのは一握りの人間だけなんだから……夢を見るだけなら、誰にでもできるけど、それを叶えるのはとても難しい。頑張っても頑張っても成果が出なくて、途中で挫折して、諦める人だってたくさんいるしね。だけど、どんなに辛い現実が立ちはだかっても、彼は絶対に諦めない」
レオは、自分の限界を、自分で決めない。
例え、心が折れそうになっても、何度でも立ち上がって──また夢を見る。
それは『執着』に近いのかもしれない。
夢に執着して
彼女に執着して
だけど、人は執着することで、生きていける。
それほどまでに、熱中できる何かがあれば、不思議と、人生は輝く。
レオは昔、死のうとしたことがあるらしい。
冷たい川に、飛び込もうとしたことがあるらしい。
自分の限界も、無力さも
叫びたくなるくらい痛感して
未来に希望なんて持てなくなって、死んだ方が、楽だと思ったらしい。
だけど、その時
彼女がレオに、目的をあたえてくれた。
彼女と出会っていなかったら、レオは今、生きてはいないのかもしれない。
だからこそ、レオは、今もずっと諦めず、死ぬ気で、夢を叶えようとしてる。
やっと、ここまで来たんだ。
やっと、レオの努力が報われる。
だからこそ、今は
絶対に、この二人に、夢を諦めさせちゃいけない。
「君たちの夢は、あと一歩で叶うんでしょ? それなのに、本当に諦めていいの?」
「……」
「些細な喧嘩で、この8年を無駄にして、あとで後悔するかもしれない。どうせ諦めるなら、今までの努力も思いも、全部彼女にぶつけてからでも遅くはないと思うよ」
「…………」
ルイの言葉に、谷崎は眉間に皺を寄せつつ考え込んだ。
全部ぶつけてから──それは、谷崎自身思っていた事だった。
自分が、なんのために料理の道に進んだのか? 愛理は、それを全く知らないから……
「確かに、悔しい。このままってのは」
「じゃぁ、会いに行ってみれば?」
「あ、会いにって……でもアイツ、かなり有名な屋敷でお抱えシェフしてて! しかも、その屋敷には、部外者は絶対入れないし……かと言って、愛理を呼び出しても、絶対にでてきてくれないだろうし!」
「大丈夫だよ」
「え?」
そう言って、ルイはニッコリと微笑むと
「Je réalise mon rêve.」
「はい?」
「屋敷に入れるおまじない。屋敷の執事さんに、直接言ってみて」
「え? そんなんで、入れるわけが!」
「大丈夫。もしかしたら、すっごく優しい執事さんかもしれないし! 騙されたと思って、行ってみなよ」
「でも……っ」
「夢、きっと叶えてね」
ルイがそういうと、谷崎は何かを決心したのか、その後『はい』と返事をした。
二人な未来を、その執事に託し、ルイは満足げに微笑む。
秋の夜は、とても肌寒かった。
だけど、その日の夜は、いつも以上に、月が綺麗に輝いていた──…
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる