154 / 289
第16章 復讐と愛執のセレナーデ【過去編】
復讐と愛執のセレナーデ⑦ ~阿須加~
しおりを挟む次の日、猫の入った箱を持った俺は、また四丁目の公園に向かっていた。
昨夜は、予想されていたとおり、打ち付けるような土砂降りだった。
正直、父がなくなってから、俺は雨が苦手だった。雨の音を聞くと、父が亡くなった時のことを思い出すから。
だけど、昨日は猫がいたからか、あまり雨を気にすることはなく、祖母も文句一つ言わず「可愛いね~」なんて言いながら癒されていて、久しぶりに穏やかな夜だったと思う。
(待ち合わせは、2時だったよな?)
箱を抱え、住宅街を歩きながら、俺は普段はあまり通らない道を、ゆったりと進んでいた。
四丁目の方は、小学校とも真逆のほうだったから、あまり来ることはなかった。
(うわ……でっけー家)
すると、その通り道に、一際大きな青い屋根の屋敷が見えた。
高い塀に囲まれた、立派なお屋敷。
格子状になった門から中を見れば、そこには広々とした庭園が広がっていて、まるで別世界みたいだった。
(あぁ……もしかして、ここか。アイツらの)
すると、ふと阿須加一族が、四丁目に住んでいること思い出した。
阿須加家は、この辺りじゃ有名な名家だった。
そして、その阿須加家の人間が、四丁目のお屋敷で暮らしているという話を、クラスの女子達が話しているのを聞いたことがあった。
阿須加家には、俺たちと、そう年の変わらない娘がいるらしい。
そして、その娘が四丁目の屋敷で、執事やメイドたちに囲まれて、何不自由なく優雅に暮らしているとか。
そんな話を、羨ましげに語る女子たちを、少し前までの俺は、まるで他人事のように聞いていた。
(あんな悪魔みたいなアイツらにも、子供がいるんだな……まぁ、どうせ、その娘も庶民見下して笑ってる性格の悪い女なんだろうけど)
あんな親の元に生まれた娘だ。
正直、性根の腐った悪魔みたいな女だろうと、その時は、信じて疑わなかった。
そして、その娘がいる限り、この一族は、この先もずっと続いていくのだと。そう思うと、また、ふつふつと父をなくした時の怒りが舞い戻ってくる。
「早く……滅べばいいのに……」
親も、娘も、いなくなってしまえばいい。
その頃の俺は、阿須加一族を呪うことしか考えてなかったと思う。
だけど、まさか前日会ったあの女の子が、その阿須加家の娘で、後に自分が、その娘と『恋』に落ちるなんて
その頃は、想像もしていなかった──
✣
✣
✣
「来ない……」
その後、公園につくと、俺は猫とじゃれながら、結月を待っていた。
だけど、待ち合わせの時間を一時間過ぎても、なぜか結月は現れず。
(もしかして俺、騙された? いや、でも預かるって言い出したの俺の方だし……)
目の前には、まだ箱すらよじ登れない4匹の仔猫がいて、俺は、なかなか迎えにこない結月にイライラしていた。
なにが、一日だけでいいだ。
もしかしたら、飼えないからって、都合よく現れた俺に押し付けたのかもしもしれない。
「はぁ、人の良さそうな顔して……最低だな、あの子」
騙された自分も悪いが、まさかこんなことになるなんて……
「結局、捨てられちゃったな、お前ら」
箱の中の黒猫をスリスリと撫でれてやれば、猫たちは俺の手に甘えるように、ニャーニャーと鳴き始めた。
何も知らない子猫たちは、まだ親猫か、世話をする人が必要な月齢だ。
だけど、だからといって、俺は飼えない。
猫を飼う以前に、自分の今後すら、よく分からないのだ。
親戚に引き取られるのか?
それとも、施設に行くのか?
「はぁ……猫どころじゃないってのに、どうしてくれるんだよ」
家に帰れば、父のものを手放す毎日だった。
引き取り先には、あまり荷物は持って行けないから、俺は家族との思い出すら、切り捨てなきゃならなかった。
それなのに──…
「お父さん! キャッチボールやろう!」
「……!」
すると、どこからか声が聞こえた。
日曜の公園は、家族連れも多くて、とても賑やかで、その中には、父親と遊ぶ男の子の姿もあって、不意にその姿に、自分と父が重った。
正直、見ているのが辛かった。
自分以外の人間が、みんな幸せそうなのが……
(……死にたい)
弱った心は、すぐに嫌な方向に思考を持っていった。
祖母に忘れられて、父も亡くなって、オマケに女の子に騙されて、本当に自分の人生は、最悪だと思った。
辛い。苦しい。世界が憎い──
「はぁ……」
深いため息をついたあと、俺は猫の箱にフタをして、また箱を抱えた。
死にたいと思っても、もう死ねない。
死にたくないのだと気付かされたから。
だから、この先は、希望めなく生きていくだけ。
それを実感したのか、俺はとりあえず家に連れて帰ろうと、また、猫を抱えて、来た道を戻ることにした。
世界は真っ暗で、心は酷く凍りついていた。だけど、そんな俺の心を、更に痛めつける出来事が起きた。
それは、しばらく歩いて、さっさの青い屋根の屋敷に差し掛かった時
「ねぇ!!」
「……!」
突然聞こえてきた声に、足を止めれば、屋敷の中から声が聞こえた。
格子状の門の内側から、俺に向かって声をかけてきたのは、女の子だった。
そう、昨日、猫を預かった、あの女の子──
「よかった。ごめんね! 急にお父様とお母様が来て、屋敷から出れなくなってしまって……さっき、あなたが、この門の前通ったのが見えたの! だから、ここにいたら、会えるんじゃないかと思って!」
「………」
必死に語りかける結月の声が、うまく頭に入って来なかった。
なんでこの子が、この屋敷にいるんだ?
そんなわけないと言い聞かせながらも、その光景は、ただひたすら現実を叩きつけてきた。
「ねぇ、その子たち受け取るから、裏に回ってくれない? この門、開けられなくて」
そう言って、門の柵を掴んで、こちらを見つめる姿は、一見、囚われたお姫様みたいだった。
だけど、こいつは、そんな綺麗な存在じゃない。
「お前……名前は?」
「え?」
唐突に問いかければ、結月は、その後
「阿須加 結月よ」
「……っ」
その名を聞いた瞬間、全てを悟った。
あぁ、この子は、アイツらの
阿須加一族の『娘』だったのだと──…
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる