219 / 289
第20章 復讐の先
心を繋いで
しおりを挟む一夜明け、まだ未明の朝。日が昇り始める前の室内で、レオは一人、目を覚ました。
広々としたベッドの中には、衣類を全く身につけていない結月がいて、レオは、そんな結月を抱きしめる形で眠っていた。
朝の光は、まだ弱く、真冬の空気は、とても冷たい。
だが、快適な室温と人肌のおかげか、風邪をひくことはなく、むしろ、心地よい疲労感と幸福感に包まれた朝となった。
だが、そんな癒しとも言える状況に置かれながら、レオはじわりと汗をかいた。
腕の中にいる結月を起こさぬよう、そ~っと腕を抜く。すると、上半身だけ起こしたレオは
(俺は、なんてことを……っ)
やってしまった!
これは完全にやってしまった!
いくら理不尽なことを言われたからって、感情のままに求めてしまうなんて……っ
(かなり、無理させたよな?)
昨夜の事を思い出し、レオは酷く自己嫌悪する。
しかも、問題はそれだけではなかった。なぜなら、今この屋敷には、相原と冨樫もいるのだから!
(俺がこの部屋に来たのは、二人が別館に戻った後だから、大丈夫だとは思うけど……夕べ別館に戻らなかったことには、多分、気づいてるよな? だとしたら、何か言い訳を考えておかないと……っ)
いくら公認の仲とはいえ、流石に節度がなさすぎる。だが、この後の結月の状態次第では、その言い訳も意味をなすかどうか……
「でも……まさか、結月が、あんなことを考えていたなんて」
眠る結月をみつめ、レオは、ポツリと呟いた。
結月が、あんなにも自分の未来を案じていたとは思わなかった。
だが、確かに、結月の言う通りかもしれない。
復讐を果たしたとしても、その復讐に罪のない人たちを巻き込んだとなれば、その後悔や罪悪感を、一生抱えて生きていくことになるのだろう。
そして、その罪悪感に縛られた人生は、果たして『幸せ』と言えるのか?
「俺の未来を、守りたい……か」
結月の言葉が、何度と頭に響く。
『本当に救いたかったのは、あなたのお父様でしょ!』
その通りだった。
父を助けたかった。
だけど、何もかもが遅かった。
気づいた時には、もう父はいなくて、俺は、ただ泣くことしかできなかった。
だからこそ、今度は、手遅れにならないよう、結月だけは、絶対に救いたいと思った。
そして、結月を、連れ戻されないためなら、なんだってやる。あの一族を潰すことだって──
だけど、色々調べるうちに、巻き込まれる人たちがいることに気づいて、生ぬるい方法をとっていたのも確かだった。
できるだけ、犠牲者は出したくなかった。
だけど、それにも限界があった。
どうしたって、犠牲者は出てしまう。
でも、結月は、そんな俺の気持ちに気づいていて、俺を必死になって止めてくれた。
俺が、後で後悔しないように。
俺が、父と同じように苦しんでいる人達を、一族ごと潰してしまわないように──…
「っ……ありがとう、結月」
そこまで思われていることが、素直に嬉しかった。
すると、レオは、眠る結月の髪に触れ、そっとキスを落とした。
結月といると、時折、愛とは何なのかを考えさせられる。
愛する人のためなら、どんな犠牲も後悔も、いとわない。そう、心に決めていた。
そして、それが愛だとすら思っていた。
だけど、それは、単なる自己満足にすぎなかったのかもしれない。
本当に、愛する人のことを思うなら、二人で幸せになれる方法を、模索していかなければならないのかもしれない。
『心の平穏』は、生きていく上で、最も欠かせないものだから──
(不思議だな、あんなこと言われたのに、心は凄く穏やかだ……それに、俺に嫌われるのが嫌で、言えなかったなんて、結月、そんなに俺のことが好きだったのか?)
正直、忘れられていたのもあり、熱を上げているのは、自分だけだと思っていた。
自分の好きが100だとしたら、結月の好きは60くらいな?
たけど、同じように悩んでいたということは、自分が思っていた以上に、結月は俺のことを、愛してくれているのかもしれない。
「ん~…」
「……!」
すると、結月が、もそもそと目を覚ました。
惚けた顔で、結月がレオを見上げる。するとレオは、すぐさま、昨夜のことを謝罪した。
「結月。昨日は、すまない。酷いことをして……」
「?」
寝起き早々、謝るレオに、結月はキョトンと首を傾げると
「なにが、酷かったの?」
「え?」
「だって、別に痛い思いは何もしてないわ。それに、ちゃんと避妊もしてくれてたし、なにより、その……とても、気持ちよかったから……別に、謝る必要は…っ」
「……っ」
恥じらいながらも発された言葉は、予想外の言葉で、その瞬間、レオは、身体がカッと熱くなるのを感じた。
そして、なによりも思ったのは──
(結月のやつ、どれだけ俺のことが好きなんだ!?)
「レオ? 顔が真っ赤よ?」
「あ、いや、これは……結月が、変なこと言うからだろ」
「変なこと?」
「き……気持ちいい、とか」
「へ? あ! もしかして、こんなことを言うのは"はしたない"ことだったりする? ごめんなさい、私まだ、良く分かってなくて……でも、小説の中のお嬢様はこんな感じだったような……っ」
小説の中──その言葉には、なんだか懐かしさを覚えた。まさに、いつも通りの結月で、思いのほか、気持ちが和らぐ。
なにより、顔を真っ赤にして、ぶつくさと呟く結月は、とても可愛い。
だが、その後、ゆっくりと身を起こした結月は、毛布で胸元を隠しながら、レオと向き合う。
「でも、本当にそうおもったのよ。だから、酷いことなんてされてないわ……むしろ、嫌われるかもしれないと思っていたから、レオと、またこうして愛し合えたのが嬉しかったし……とても幸せだったわ」
結月がふわりと微笑む。
すると、レオもまた、優しく微笑みながら、結月の頬に触れた。
「俺も、幸せだったよ。結月に、こんなにも愛されてると分かって──」
激しく求め合った夜は、まさに身体だけじゃなく、心までしっかりと繋がれた気がした。
お互いに不安な思いを吐き出して、本当の意味で、一つになれた気がした。
「……でも、本当に、平気なのか? まだ慣れてないんだから、無理はするなよ」
「うん、ありがとう。やっぱりレオは、どんなときも優しいわ」
「優しいのは、結月の方だろ。あんなこと、いつから考えてたんだ?」
すると、レオが真面目な顔で問いかた。
あんなこと──とは、復讐をやめさせるという話。
すると結月は、少し、申し訳なさそうな顔をしながら
「記憶を思い出した後からよ……冬弥さんが、私を突き落とした記憶と一緒に、レオのお父様のことも同時に思い出していたの」
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる