お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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エピローグ

幸福な家族

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「本日の朝食は、スクランブルエッグにマッシュポテト、メープルトーストをご用意いたしました。サラダはこちらのドレッシングをお使いください」

 それから、しばらくして、キッチンのダイニングテーブルの上には、美味しそうな朝食が並んでいた。

 ふわとろなスクランブルエッグに、カリッとしたベーコンとマッシュポテト。そして、彩り豊かなサラダと、こんがり焼かれたメープルトースト。

 傍らには、香り豊かなコーヒーまで添えられていて、まさに三ツ星レストランの朝食のようなメニューが並んでいた。
 
 というか、あの冷蔵庫の中にあった素朴な食材で、ここまで、見事な朝食をつくりあげるとは!

 しかも、昨日は、おせち料理という和食だったからか、飽きがこないように洋食をチョイスするという徹底ぶり!

 まさに、元・執事!

 身の回りのお世話に関して、ここまで有能な者は、そうはいないだろう!

 だが、結月は──

「ちょっと、レオ! これじゃ、屋敷にいた頃と何も変わらないじゃない!」

 今も尚、執事らしく振る舞うレオに、結月は、こうじゃない!と反駁する。

 料理を作ってもらっただけでなく、テーブルメイキングや甲斐甲斐しいお世話にいたるまで!

 これでは、お嬢様だった頃と、何も変わらないのだ!

「私も、手伝うって言ったのに」

「仕方ないだろ。猫の缶詰を呪文を使って開けるなんて言い出す子に、キッチンは任せられないよ」

「むぅ~」

 火元を扱うキッチンを、不慣れなものに任せるのは、やはり心もとない。しかも、結月は"缶切り"と言うものを知らないらしく、呪文を使って開けるなどと言い出したのだ。

「料理は、もう少し落ち着いたら教えてあげるよ。それに、しょっぱなから無理して、やっぱり、お嬢様に戻りたいなんていわれても困るしね」

「そんなこと言わないわ」

 頬をふくらませる結月は、少し、悔しそうな顔をする。

 料理なら、少しは覚えてきた。レオに作ってあげて驚かせようと思っていたのに、どうやら、その腕を披露するのは、もう少し先の話らしい。

 だが、屋敷にいた頃と変わらないかと思いきや、その後レオは、エプロンを外し、結月の真向かいに腰かけた。

 テーブルを挟んで、二人向かい合わせに座る。

 そして、その光景をみて、結月は胸がいっぱいになる。

 テーブルには、二人分の朝食が並んでいた。
 いつもは、一人分しか運ばれてこなかった朝食。

 だが、これからは、食事を摂るのだ。

「結月、どうかした?」
「ぅ、うんん……なんでもない」

 微かに滲む涙を堪えながら、結月は、そっと手を合わせた。 

 二人一緒に『いただきます』と声を合わせれば、結月は、スープをすくって口に運ぶ。

 すると、向かいに座るレオも、同じようにスープを口にして、それを見た瞬間、結月の瞳からは、堪えきれず涙があふれだす。

「ぅ、……ふぇ…っ」

 ポロポロと涙を流す結月の足下では、ルナが、先程、与えられたご飯を、おいしそうにほおばっていた。

 誰かと、一緒にご飯を食べる。
 ただそれだけのことが、こんなにも嬉しいなんて──

「ぅ、ひく……っ」

「美味しい?」

「うん……おいしい……っ」

 食事中に泣いてしまうなんて──

 だが、レオは、そんな結月を咎めることなく穏やかに話しかけた。

 レオの作る料理は、いつも最高に美味しい。

 だが、涙が出るほど美味しいのは、きっと、この空間が、幸せすぎるから。

 だって、ずっと叶わなかった。

 ずっと、家族が欲しいと、家族に愛されたいと願っていたのに叶わなかった。

 でも、そんな自分に、今は、こんなにも温かい家族がいる。

「にゃー?」

「っ……ごめんね、ルナちゃん。食事中に泣いてしまうなんて、はしたないわね」

 ルナが、心配そうな声を上げると、結月は、必死に涙を拭った。だが、そんな結月にレオは

「食べれないなら、食べさせてあげようか?」

「な、なにをいってるの! それに、そんなことしたら叱られてしまうわ」

「誰に叱られるんだよ。ここには、俺たちしかいないのに」

「……!」

 そう言われ、結月は、ふと両親のことを思い出した。

 そうだ。もう、あの両親に怒られることはないのだ。

「そっか……そうよね」

「うん。悪いこともし放題だな」

「わ、悪いことって」

「そうだな。例えば、買い物にいったり、寄り道をしたり、こうして、食べさせあいっこしたり?」

「っ……!」

 ふわふわのスクランブルエッグをスプーンの上に乗せ、口元まで運ばれる。

 だが、食べさせあいっこなんて、食事のマナーに反する。そして、結月は、親に言われたマナーを、ずっと守り続けてきた。

 立派な淑女でいられるように──

「結月、俺の前では、もう立派でいる必要はないよ。結月は結月らしく、自由に生きればいい。俺も、俺らしく生きるから」

「レオらしく? それって、どんな感じ?」

「そうだな。とりあえず、結月とルナを思いっきり甘やかしたいかな」

(!? それが『レオらしく』ってことなの!?)

 甘やかしたいなんて言われ、結月の頬は、ほんのり桜色に染まった。

 お嬢様に甘いのは、執事だからだと思っていたが、どうやら恋人になっても、この溺愛ぶりは変わらないらしい。

「……レオって、根っからの執事気質だったのね」

「ん? 何か言った?」

「うんん、何でもない!」

 すると、結月は、少しだけ身を乗り出し、レオのスプーンをパクっと口にくわえた。

 口に含めば、ふわりと甘い卵の味が、口いっぱいに広がって、それは、まさに幸せを具現化したような味だった。

 すると結月は、その優しい甘さに、照れくさそうにほほ笑む。

「ふふ、レオも食べる?」

「食べさせてくれるのか?」

「うん。──はい、どうぞ!」

 スプーンですくって、今度は結月が、レオの前にさしだした。するとレオは、当然のごとく、それを口にして、じっくりと味わう。

「美味しい?」

「あぁ、俺が、作ったものじゃないみたいだ」

「ふふ……ねぇ、レオ。本当にありがとう。私と一緒に食事をしてくれて」

「いや、これは、俺の夢でもあったから」

「え?」

「うんん、なんでもないよ。そうだ。食事が終わったら初詣にいこうか?」

「初詣?」

「あぁ、新しい土地に移り住んだことだし、こっちの神様にも、ご挨拶をしておかないとね」

「あ、そっか。そうよね? 行きたいわ、初詣!」

 すると、結月が、子供のようにはしゃぎ出した。

 結月は、お正月に初詣に行ったことがなかった。

 行く時は、いつも参拝客が落ち着いた頃の閑散とした時期だけで、正月の初めの三が日は、屋敷からほとんど出れず、あまり正月らしい正月を過ごしていない。

 だからなのか、出かけようといったレオに、結月の心は、踊るように弾んでいた。

 
 ✣✣✣

 そして、食事を終え、出かける準備を整えると、結月は、ルナの背を撫でながら、ちょっとだけしんみりしていた。

「ルナは、連れて行けないの?」

「あぁ、ルナは人混みが嫌いだからな。初詣に連れていったら、逆にストレスになるよ」

「そうなの?」

 確かに、1月2日は、まだ参拝者が多い時期。

 なにより、ふかふかのクッションの上に丸くなり、今にもお昼寝モードに突入しそうなルナを見れば、連れ出すのが、逆に可哀想にもなってくる。

「帰ったら、たくさん遊んでやろう。じゃぁな、ルナ。あとは、頼むぞ」

「ニャー」

 すると、レオはルナの頭を撫でた後、マフラーを手にし、それを、結月の首に巻き付けた。

「結月、マフラーを巻いて」

「あ、ありがとう。外は寒いでしょうし、マフラーがないと風邪をひいちゃうわね」

「うん、それもだけど、の跡を隠さないと」

「!?」

 瞬間、思いもよらぬ返事が来て、結月はボッと火を吹くように赤くなった。

 そうだった! そうだったわ!
 朝つけられたのだった、首筋に!!
 
「や、やっぱり、見えるところにはつけないで! これじゃ、マフラーがはずせなくなるじゃない!」

「そうだな。冬場でよかった」

「ちょっ、まさか、分かっててつけたの?!」

 冬場ならマフラーで隠せると思ったのか!?
 相変わらず、計算高い男だ!

「ちゃんと隠してね?」
「大丈夫だよ。しっかり隠れてる。ほら、行くよ」

 すると、玄関で靴を履くいた二人は、外へ出た。

 見上げた先には、綺麗な青空が広がっていて、結月は、その光景に息を呑む。

 澄み渡る青空は、どこまでも青かった。
 そして、不思議と透き通るよう。

「綺麗……」
「あぁ、夜は星が綺麗だろうな」

 田舎の澄んだ空気は、とても瑞々しかった。
 やはり、屋敷の中とは、まるで違う。

 すると、レオは、結月に手を差し出しながら
 
「行こうか」

「うん」

「あ、そうだ。一つ確認するけど、これは、?」

「え?」

 すると、レオが爽やかに笑いながら、そう言って、結月は、ふと思い出した。

 屋敷にいた頃、執事であるレオに『デートをしましょうか?』と言われて、結月は『これは、お散歩よ』と突っぱねたことがあった。

 だって、お嬢様と執事が、デートなんてできるはずがなかったから。でも──
 
「うんん、もう、お散歩じゃないわ。これは、よ」

 愛らしく頬を染め微笑んだ結月は、その後、静かにレオの手を握りしめた。

 キュッと握り返されれば、その手の温もりに、ドクンと胸が波打つ。

 なにより、そのレオの手に、もう"白い手袋"はなかった。

 しっかりと繋がった二人の手は、お互いの手を温めながら、神様の元へ歩いていく。

 そして、その姿は、誰がどう見ても、お嬢様と執事ではなかった。



 長い歳月を経て
 二人は、やっと夢を叶えた。
 
 どんな困難が訪れようと
 決して諦めず、夢を見つづけたお嬢様と執事。

 そして、その『禁断な恋』を終え
 明るい未来を歩み始めた二人は

 その後、いつまでも、いつまでも

 幸せそうに笑いあっていた。



 ✣

     ✣

   ✣



  ✣

 

「お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。」完




✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣

完結しました。
最後までレオと結月を見守って頂き、誠にありがとうございました。
また、もうちょっと読みたいという方は、カクヨムの方に番外編を、いくつか公開しておりますので、気になる方は覗いてみてください。


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感想 18

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みんなの感想(18件)

RON
2024.09.14 RON
ネタバレ含む
2024.09.16 雪桜 あやめ

コメント、ありがとうございます!
ついに結月が、執事への恋を自覚しました。
また、スカッとして頂けてよかったです。

かなり長い作品なのですが、ここまで追いかけて来てくださり、本当にありがとうございます。引き続き、楽しんで頂けますように…

解除
RON
2024.09.01 RON
ネタバレ含む
2024.09.02 雪桜 あやめ

コメントありがとうございます。
親に虐げられているからこそ…なのかな?
辛いですよね…涙

解除
RON
2024.08.27 RON
ネタバレ含む
2024.09.02 雪桜 あやめ

返信が遅くなり申し訳ありません💦
執事は、この先どんどん攻めていきます(笑)

解除

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